元王女同士の会談
セルディア公爵から解放されたカイラスは、現在セラフィアと共に西部辺境伯の第一夫人であるラディアを迎え入れていた。
「先日ぶりですわね、セラフィア様。まさかこんなに早く再会出来るとは思っておりませんでしたわ」
「ええ。まったくですわね、ラディア様。またお会い出来て喜ばしいですわ。ですが、セルディア公爵が不在で申し訳ございません。公爵に急用が入ってしまいまして……代わりに謝罪いたしますわ」
「お気になさらないで。公爵ともあればお忙しいのは当然のこと。むしろあの古狸、オホホ。失礼。公爵と顔を合わせたらつい白熱してしまいますから。セラフィア様でよかったわ」
敢えてなのか本気なのか。チラリと毒を吐いたラディアに対し、セラフィアのエスコート役になっていたカイラスはつい微妙な表情を浮かべてしまう。だがラディアはそんな表情豊かで素直な義理の息子に目を向けると、楽し気に目を細めた。
「カイラスも、久しぶりね。元気そうでよかったわ」
「ありがとうございます。夫人もお変わりなくお過ごしのようで。安心いたしました」
「オホホホ。相変わらず世辞が下手くそね。可愛いこと」
ラディアにグッサリと刺されたカイラスは拗ねた子供のような顔をしたが、すぐに息を吐いて視線をずらした。
「やはり同行者はロムラス、兄上でしたか」
「おう! 久しぶりだなあ、カイラス! 元気そうで安心したぞ! それから、セラフィア夫人。またお会いできて光栄です。親父は西部を離れることが出来ませんので、代理で参りました。どうぞよろしくお願いいたします」
「まあ、ご丁寧にありがとう存じますわ。ロムラス様も、ますますレオニス様に似て……本当に素晴らしい体つきですわね」
「ははは! そう言って貰えると鼻が高くなりますな!」
「やめろやめろ。暑苦しい。セラフィア様。そろそろ移動しましょう」
「ええ。そうね。公爵から一室預かっておりますの。どうぞ、こちらへ」
カイラスがセラフィアをエスコートし、ラディアを息子であるロムラスがエスコートする。そうして辿り着いた広い談話室で、四名はそれぞれ席につき、護衛や使用人たちは必要な位置で静かに動きを止めた。
「この度は私の甥が突然来訪するとのことで……公爵家にはご迷惑をおかけするわね」
「とんでもありませんわ。普段は北部と王都を行き来するだけですもの。久方ぶりに東部に寄れて楽しいですわ。それに、ラディア様の甥であるラシード殿下にお会いできるのも楽しみです」
「そう言って貰えるとありがたいですわ」
公爵家の使用人が淹れたお茶をゆっくりと傾け、一息ついた二人はチラリと給仕係が出ていくのを見届ける。
そうしてラディアがロムラスに目で合図を送れば、ロムラスは「心得た」とばかりに「席を外せ」と護衛以外を全員退出させた。
「不躾にごめんなさいね。ですが、事は急を要すると判断いたしました。ラシードの身に何が起きたか、お聞きしてもよろしくて?」
「流石ですわね。もうすでに把握していらっしゃるなんて」
「フフ。これでもあの国で生き抜いた元王女ですもの。何が起きたかなど、見なくとも見当がつきますわ」
カイラスは「ゾッとする話を笑顔ですんなよ……」と視線を逸らしていたが、ロムラスはピンと来ていないらしい。聡明な弟に「何の話をしているんだ?」と小声で話しかけている。
「単刀直入に申しますと、『暗殺未遂』が起きたとのことですわ」
「……やはりそうでしたか。いきなり『留学』だなんて言い出すものですから、その類だと思っておりましたわ。毒殺か、それとも襲撃か。セルディア公爵閣下は何か仰っていて?」
「毒を用いたようだとは伺っておりますが、内容までは流石に聞き及んでおりません。公爵でも海を越えた先のことまでは調査が難しかったご様子ですわ。何より、王家のことですから。厳重に体制が敷かれていたのでしょう」
ラディアはセラフィアの話を聞き、ふむ。と口元に手を当ててから頑なに目を逸らしていたカイラスへと視線を定める。
「カイラス。お前はラシードの傍にいておやりなさい。あの子もお前がいれば心強いでしょう」
「ゲッ! 絶対ェ言われると思った……。お言葉ですがね、ラディア様。自分は既に両公爵閣下から命を賜っております。言われずとも自分は子供たちの引率兼護衛ですよ」
前半は小声で呟き、後半はしっかりと言い返したカイラスに、ラディアは「ならいいわ」と頷く。そこでセラフィアはチラリとカイラスへと視線を向ける。
「カイラス様、もしやラシード殿下とはお知り合いなの?」
「あー……。去年の話にはなりますが、殿下が初めて渡来されまして。叔母であるラディア様に『社会勉強のため』という体でお会いになられたのです。その際に少し……ご挨拶と言いますか、僅かながらですが交流を……」
「あら、そうだったの。最初からそう仰ってくださったらよかったのに」
セラフィアは心から「顔見知りなら早く言いなさいよ」と口にし、カイラスは「だから言いたくなかったんですよ……!」と心の中で叫ぶ。そんなカイラスの心の声が聞こえたのか、ラディアはおかしそうに口角を上げた。
「カイラス。忘れないうちに言っておくわ。お前宛にイレーナから預かってきたものがあるの。部屋に運ばせておくから、受け取りなさい」
「母上からですか?」
「ええ。それと、セラフィア様。ラシードには既にこちらの文化について学ばせております。もし不手際がございましたら、遠慮なく申してくださいませ」
「ご心配には及びませんわ。それこそカイラス様がどうにかしてくださいますでしょう」
「お二人とも! 私のことを便利屋か何かだと思っておりませんかね?!」
思わず突っ込んでしまったカイラスに、両夫人は揃って口元に手を当てて笑う。
「オホホホホ。何を今更。お前ほどの適任者が一体どこにいるというのよ。それとも王子の面倒を商人に見させるつもり?」
「ホホホホ。そうですわ。カイラス様。教育者としてここまで素晴らしい方など滅多におりませんもの。頼りにしていてよ」
「ご存知だとは思いますがね、そういうのを世間では『丸投げ』と言うんですよ」
真夏の東部だというのに、一人だけ顔色の悪いカイラスはガックリと肩を落として項垂れる。
そんな弟をまっすぐ見つめながら、ロムラスは白い歯を見せるように笑う。
「そう気落ちするな! 何かあれば俺も助けてやるからな! 頑張れ、カイラス!」
「うるせえ……喋んなこのクソ猿が……」
両手で顔を覆い、ボソボソと悪態をつくカイラスに、命令することに慣れている元王女二人はコロコロと笑うだけだった。
次回7/11更新予定です。




