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レディ・ヴィエラは揺るがない  作者:
幼少期-東部編-
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子供達の大会議


 大人たちの話し合いに邪魔だからと追い出された子供たちは、用意されていた一室に集っていた。そして使用人たちが静かに下がった後、三兄妹は顔を見合わせ、クッキーを食んでいたロアンに視線を定める。


「ロアン。今年はわたくしたちだけで、お前の誕生日パーティーをするわよ」

「ふぇ? たんじょーびパーティー?」

「そうだよ。さっきカイラス先生が教えてくれただろ? 誕生日は、僕達がロアンに『お誕生日おめでとう』『生まれて来てくれてありがとう』って伝える日なんだ。貴族なら沢山の人を招待してお祝いしてもらうけど、ロアンは知らない人と会うのはイヤだろう?」

「はい。それは、イヤです」


 父親みたいな貴族が来るのかと思ったら本能的に忌避してしまう。逆にグラディアス家のような人々であれば嬉しいが、どんな人が来るのか分からない。そう考えたら恐ろしく、ロアンは素直に「イヤだ」と答える。その返答に三人は頷き、ヴィエラは控えていたメアリに声をかけた。


「メアリ。お前、ロアンの誕生日を知っているかしら」

「はい。ロアン様は、『豊穣際』の日にお生まれになりました」

「ほうじょうさい?」


 ロアンは『誕生日』と同じく聞き慣れない言葉に首を傾けるが、三兄妹はすぐに目を輝かせる。


「ロアン! お前、『恵みの子』だったのね! すごいじゃない!」

「へ? めぐみのこ?」

「そうだぜ、ロアン。『豊穣際』に生まれたなんて、縁起がいいじゃねえか。羨ましいぜ」

「えんぎがいい?」

「これはかなり力を入れないとね。『豊穣際に生まれた子供』は『神の祝福を得た子供』とも言われるほど、大切にされるべきなんだよ。それをまあ……伯爵家ときたら……」


 最後の方はエルディオンの声がいつになく低くなったが、顔は笑顔を保ったままだ。そのちぐはぐさにロアンはもう一度首を傾けたが、エルディオンは「気にしなくていいよ」と優しく頭を撫でた。


「でも北部と南部では文化が違うから、豊穣際の日取りや季節も違う可能性があるね」

「それもそうですわね。メアリ。南部での豊穣際はいつ行われるの?」

「南部では秋に行われます。麦や穀物、果物の収穫が終わった後に行われますので」

「そうなのか。北部じゃ『豊穣際』は春だから、変な感じだなぁ」

「イリアス様。どうして『ほうじょうさい』は南部と北部で違うんですか?」


 誕生日を祝われたことがないロアンだ。『豊穣際』を知らないのも無理はない。だがカイラス不在の今、年長者であるエルディオンとイリアスが質問に答えるしかない。二人は顔を見合わせ、まずはイリアスが説明を試みる。


「あーっと、そうだな。北部は長い間雪が降るから、雪が解けてから行うんだよ」

「雪が長いから? でも、どうしてそれで春になるんですか? 秋も雪がないですよね? なのに北部では秋にしないんですか?」

「そうだね。それは、北部と南部では『豊穣際』に込められている意味が違うから、季節が違うんだよ」

「意味?」


 お手上げだ。と両手を上げてエルディオンにパスしたイリアスに、長兄として苦笑いしながらもカイラスを真似て丁寧に答えていく。


「南部での豊穣際は『今年もたくさん収穫出来ました。神様、ありがとうございました』って、“感謝を伝える日”なんだ。だけど北部は冬が厳しくて長いから、春になって、雪が解けた頃に『神様、無事に冬を終えることが出来ました。今年も実り豊かな一年をお約束してください』って、“お願いをする日”になるんだよ。だから季節が違うんだ」

「なるほど~。それで北部では春なんですね」

「そう。だけど北部でも『豊穣際』に生まれた子供は特別な子供でね。言い方は各地で様々だけど、大体は『恵みの子』『祝福の子』って呼ばれることが多いかな。それだけ特別な日なんだよ。豊穣際っていうのは」


 ふむふむ。と頷きながら聞いていたロアンは、それでも祝われなかった自分に対し疑問を抱いた。本当に『祝福された子供』と思われていたのなら、何故祝ってくれなかったのか、と。だがそれをぶつければまた皆が悲しそうな顔をしそうだったので、大人しく口を噤む。


「ちょっと惜しいが、ヴィエラも『豊穣際』に近い日に生まれてるんだよな」

「ええ。残念なことにまだ雪が残っていた日に生まれたから、『祝福の子』ではないのよね」

「まあ、既に色んなものを持っているからね。そこに『祝福の子』まで加わったら、誰もお前に勝てなくなるよ」


 そういえば、と言わんばかりにイリアスがヴィエラが『春生まれである』と伝えると、ヴィエラも「惜しかった」と残念そうに答える。だが冷静なエルディオンから「むしろそれでよかった」と茶化され、ヴィエラはムッとした。


「ひどいですわ。エルディオンお兄様。わたくし、敵対する相手はかんぷなきまでに叩きつぶさないと気がすまない質ですのに。わたくしが弱くてもいいとおっしゃいますの?」

「その発言が出て来るだけで負けるわけねえから心配すんな」

「むしろお前相手にケンカを売る人がいるなら見てみたいよ、こっちは……」


 あまりにも気が強いヴィエラの発言に、イリアスでさえ頬を引き攣らせている。そんな二人に納得がいかなかったヴィエラだが、このままでは話が脱線してしまうと判断し、再度メアリに話しかける。


「メアリ。一つ、確認なのだけど。南部では『豊穣際』で生まれた子供は祝福されるのよね?」

「はい。南部では『大地の子』と呼ばれることが多いですね。あとは皆様が仰っていたように『祝福の子』と呼ばれることもあります」

「ふぅん……。でもそれを“知らなかった”ということは、ロアンのお父様って南部人ではないのね」


 ヴィエラの鋭い推理に、エルディオンは「ああ、確かに」と声を上げ、イリアスも「だからか」と呟いた。実際、伯爵家で働いていたメアリは現在の伯爵家当主が『東部出身の入り婿』であることを知っている。だからこそその旨を伝えれば、三兄妹は深く頷いた。


「じゃあ祝う気持ちが薄くてもしょうがないか」

「東部は夏だったっけ? 豊穣際」

「うん。でも確か『豊穣際』ではなく『豊漁際』だから、東部出身の伯爵はあまりピンとこなかったのかもしれないね」

「フン。豊穣だろうと豊漁だろうと、めでたい日に生まれた子供を祝わないなんて、非常識なおろか者よ。わたくし、大キライだわ」


 プイと顔を背けたヴィエラに対し、話しについていけなかったロアンはモグモグとクッキーを咀嚼するだけの時間になっている。それでも自分のためにああでもない、こうでもない、と話をする三人を見るのは心がフワフワするほど喜ばしく、いつの間にか自然と笑みを浮かべていた。



次回7/9更新予定です。

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