表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レディ・ヴィエラは揺るがない  作者:
幼少期-領地編-
PR
59/88

北部の食糧事情


 北部にとって『保存食』は大事な食糧だ。これがなければ冬は越せない。

 特に『干した魚』など南部で目にしたことがなかったロアンは、感動を全身で表していた。


「お魚だー! カイラス先生! お魚が! お魚がいる!」

「見りゃ分かる」


 興奮してピョンピョンと飛び跳ねるロアンに反し、カイラスは『保存食』を知っている。そのため感動はゼロだ。だがメアリも南部出身のため、大量に干されている大きな『鮭』に「おお……!」と声を上げていた。


「おたくらかい? うちを見学に来た『お貴族様』は」

「ああ。忙しい所悪いな。あっちの畑のおっさんから『ここがおもしれえから見てこい』って言われたんだ」

「あのバカ……! チッ、しょうがねえ。こっちだ」


 王都でこんな口を叩けば即座に鞭打ちか、罰せられる。だがここは『北部』だ。生きるか死ぬかの場所で『貴族のご機嫌』など平民にとって重要ではない。なにより北部には『グラディアス』がいる。偉大なる北部の『王』がいるのに、他の貴族に対し頭を下げる義理が北部人にはなかった。


 とはいえカイラスは荒っぽい西部出身である。この手の口調には慣れているし、本人も貴族らしからぬ口の悪さをしている。ロアンもその辺りを一切気にしないので、普通について歩いた。


「わ~……お魚以外にもいっぱいあるんですね」


 魚や肉だけでなく、野菜まで吊るされているのだ。ロアンの視線は忙しなく動き、流れる人の動きや匂いにも反応する。


「先生! いろんな匂いがします!」

「保存食作ってるからな。獣の匂いや酢、ハーブの匂いがして当然なんだよ」

「へえ。よく知ってるな」


 細身に見えてしっかりと筋肉がついているのは、野菜を切り刻んで酢漬けを作っていた男だった。


「こう見えて西部育ちなんでな。食い物の粗末さなら国随一だぜ?」

「なんだお前、西部から来たのか。西部っていやあアレだろ? 豆が多いんだろ? 北部の豆とは違うのか?」

「おっさんよく知ってるな。うちの特産も北部に来てるのかねえ」


 飄々と話しつつ、カイラスは当たり前のようにロアンを抱き上げる。そして麻袋の中に詰め込まれていた、乾燥された大量の豆を見て「ほお」と声を上げた。


「いい豆だな。うまそうだ」

「おう。豆は裏切らねえからな」

「しわしわだあ……」


 目をぱちくりとさせるロアンから傲慢さや気位の高さを感じなかったからか、男が豆を一粒取り出してロアンに渡す。


「齧ってみろ」

「いいんですか?! いただきまーす! ……うえぇ~、かたいよぉ……」

「わははは! でもなあ、こうやって水分を抜いて硬くしねえと食べられなくなるんだ。大事な作業なんだぞ?」

「うぅ……。じゃあ食べる時はどうやってやわらかくするんですか? お水にいれるんですか?」

「そのままスープに入れて煮込んで食うんだよ。そうすりゃ自然と柔らかくなる」

「そうなんだぁ」


 素直に質問しては吸収していく姿に、次第に周囲の男達も「こっちも見てみるか」「こっちに肉あるぞ」と声をかけ始める。それに対しカイラスもロアンも嫌がらず顔を出し、感嘆し、同じ目線で会話をするため、すっかり受け入れられていた。


「おじさん! また来ていいですか?!」

「おう。今度はもっと色々用意して味見させてやるよ。楽しみにしてな」

「はい!」


 ブンブンと両手を振るロアンに、作業員達も各々手を上げたり振り返す。そんな三人にはすっかり匂いが染みついていたため、バレリーは苦笑いした。


「さあ、そろそろ帰りましょうか。料理長が晩ご飯を作って待っていらっしゃいますよ」

「はーい! バレリーさん、お願いします!」

「はい。任されました」


 穏やかに微笑むバレリーが馬車のドアを開ける。そこに乗り込んだロアンは、沈み行く太陽を見つめながら「今日もたのしかったですね!」とカイラスに話しかける。


「そりゃよかったな。ほら、屋敷につくまで時間がある。少し寝てろ。帰ったらまずは風呂だからな。それから公爵様達に提出する報告書を書くぞ。分かってるな?」

「はい! 今日もいーっぱい、お話できることがあって、たのしみです!」

「ったく……。付き合わされるこっちの身にもなれってんだよ」


 アルノアはロアンに「毎日何を勉強したか、何を見て知ったのか、記録して提出するように」と指示を出していた。そのためロアンは北部に来てから毎日のように『日報』を提出している。そのおかげで少しずつ字も上手くなっているのだが、それに付き合わされるカイラスは溜息を吐くばかりだった。


「カイラス様も少しお眠りになってはいかがですか?」

「あんたとロアンが馬車の中で転んだら困るからな。俺はいい」

「あはは……すみません……」


 以前カイラスが疲れて寝てしまった時、馬車が揺れてメアリが頭を打ち付けたことがある。爾来カイラスは馬車の中で居眠りしたことはない。むしろロアンとメアリが怪我をしないよう、支える役になっていた。


「ま、目だけは閉じとくか」

「はい。お屋敷に着いたらお知らせしますね」

「頼む」


 揺れる馬車の中で穏やかに時間が流れていく。こうして今日の『課外授業』は無事終了したのだった。



次回更新6/3予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ