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レディ・ヴィエラは揺るがない  作者:
幼少期-領地編-
42/57

武器の適性検査


 視察から戻ってきた一同はその後、午後からの訓練に参加することになった。


「よぉーし! それじゃあ改めて! 特訓するわよ!」

「はい! よろしくお願いします、師匠!」


 やる気満々なレナリアの前には、同じくやる気に満ち溢れたロアンが立っている。だがその後ろにいるカイラスだけは「元気だなぁ」とやる気のない顔で腕を組んでいた。


「本当なら段階を組んで適性を見ていくんだけど、こっちにいられる時間が少ないからね。今日はロアンが『どの武器なら扱えるか』を確認してみましょう」

「はい! 師匠!」


 視察では知識不足なところも見せてしまったが、訓練においては動きが違う。既に長剣、短剣、双剣、短槍、弓、盾が並べられており、カイラスは「そこまでやるかあ?」と呟く。


「おい、レナリア。流石に双剣は無理だろ」

「一応よ、一応。もしセンスがあったら勿体ないじゃない」

「無理だと思うけどなぁ、俺は」

「まあまあ、見てなさいって! それじゃあロアン、まずは剣の持ち方から教えるわよ」

「はい! よろしくお願いします、師匠!」


 微妙な顔をしつつ止めないのは、レナリアの言うことも一理あると判断したからだろう。カイラスは一通り持ち方を説明するレナリアとロアンの様子を眺めていたが、すぐに顔色を悪くしていく。


「剣はね! こうして持ったら、こうして、こう! もしくは、こう!」

「こう……?」

「そうよ! 基本は刺す! 切る! 薙ぎ払う! これが出来れば大体勝てる!」

「ほあぁ……」


 完全に目が点になっているロアンに対し、レナリアは絶好調だ。五歳児の理解力を完全に置いてけぼりにした状態で槍を持ち、振るい始める。


「槍も同じよ! こうして持ったら、ブン! と振って、ハッ! と突くか、エイッ! って足を薙ぎ払うか、セイヤ! って感じでフッ飛ばせば大体勝てるわ!」

「待て待て待て! そんな説明で分かるかあ!」


 今回も傍観を決め込めなかったカイラスが「待った」をかければ、レナリアは「なによぅ」と唇を尖らせる。


「今いいところだったのに。何で止めるの?」

「止めるに決まっとるわ! 見てみろ! ロアンのこの『何を言われているのかさっぱり分かりません』の顔を!」

「ほあぁ……」


 ピヨピヨと頭上でヒヨコが走り回っていそうなほど、見事に『理解が追い付いていない』顔をしているロアンに対し、レナリアも「あれ?」と首を傾ける。


「何か分からないところあった?」

「あるわ! ありまくるわ! あんな猿語みたいなやり方で初心者が理解出来るわけねえだろ!」

「猿って何よ! こんなに可愛くて華やかな女の子、滅多にいないんだからね?!」

「自意識過剰が服着て歩いてんじゃねえぞ!」


 ギャースカと言い合いながらもカイラスは短剣を手に取り、それをロアンに持たせる。そして自分は長剣を手にすると、改めてロアンの真横で膝をついた。


「いいか、俺の手元をよく見ていろ。剣を持つ場所は持ち手の中心か、やや上だ。そっちの方が力がぶれずに安定して振るえるからな」

「えっと……こう、ですか?」

「いや、もっと上でいい。それから握り方だが……」


 カイラスは辺境伯の息子達の中では最も非力である。剣を振るうセンスもない。それでも『一般兵士』と同程度の実力はある。むしろ他の地域では十分食っていけるほどの実力は持っているのだ。

 だがここは辺境だ。『国防』を担う重要な土地である。そのため『そこそこ戦える』では生き延びることは出来ない。


 とはいえ、今は戦時中でもない。肉体言語になりがちな家族の中では唯一論理的に教えられる人間だ。ロアンにとってもカイラスは重要な人物であった。


「よし。今度は槍だな。槍は剣とは逆で、中心部からやや下側を持つ」

「下」

「そうだ。槍の長所はこの『長さ』にあるからな。『近づかせないこと』が最も大切なんだ」

「なるほど」

「だがあまり下を持つなよ。これは訓練用だからいいが、実際の槍には刃がついている。その重さに負けて腕が上がらなくなるぞ」

「はい! わかりました!」


 口で説明しつつ、レナリアに「実際に見せてやれ」と視線で合図を送る。何だかんだ言って付き合いが長く、親しい兄妹だ。すぐに視線の意味を察し、レナリアは「正しい例と間違った例を見せてあげるわね」と言って幾つかの型を見せた。

 ロアンも実際に動きを見せられれば深く理解出来る。すぐに「こんなに違うんですね!」と尊敬の眼差しを二人に向ける。


「それじゃあ実際に剣と槍を振ってみましょうか」

「はい! よろしくお願いします!」

「うむ! かかってきなさい!」

「いや、最初は素振りからだろ」


 カイラスの冷静なツッコミを受け、ロアンは基本の型を教わって行く。そして数度素振りを行った後、適性検査に入ることになった。


「反撃しないから、好きに打ち込んできなさい」

「え。いいんですか?」

「大丈夫、大丈夫。お師匠様に任せない」


 カイラスに叱られてばかりのレナリアしか見ていないため、流石のロアンも不安になる。それでもカイラスを見上げれば「行ってこい」と言われたため、しっかりと剣を握って駆け出した。


「やー!」

「うんうん、いい調子……って、コラー! なに目ぇ瞑ってるの! それじゃあ前見えないでしょー?!」

「はあ。やっぱりこうなったか」


 案の定だ。と言わんばかりの目を向けるカイラスだったが、本当は分かっていたのだ。『ロアンに剣は向いていない』と。

 何故ならロアンは『優しすぎる』からだ。他人を傷つけることを本能的に忌避している子供に剣を握らせることは難しい。


「だ、だって……剣ってこわいから……」

「怖くないわよぉ。練習用の剣なんだから。誰も傷つかないって」

「そうですけど……」


 もじもじと俯くロアンに対し、レナリアは心底「理解出来ない」という表情を浮かべる。だがカイラスは何も言わずに短槍を手に取ると、ロアンに握らせた。


「ほら、次だ。日が暮れる前にさっさとやっちまうぞ」

「わ、わかりました! 師匠! いきます!」

「よし! 来なさい!」


 今度は剣と違いリーチがある。ロアンは極力目を瞑らないよう気を付けながら、声を上げながら駆けて行く。

 しかしながら、傍から見ればロアンはまだまだ足が遅い。そのためまったくスピード感がなかった。むしろ短槍とはいえ武器を持っているため、テコテコと走る姿はいっそ微笑ましさすら感じられる。


 一部の子を持つ兵士達は「うちの子が小さかった時を思い出すなぁ」とあたたかい眼差しを送っていた。


「やー!」

「あまーい! ほら! もっともっと、強く打ち込んできなさい!」

「ふえぇぇ~! むりだよぉ~」

「無理じゃない! ロアンなら出来る!」

「スパルタかよ」


 ボソッと呟いたカイラスだったが、やはりロアンの動きは剣よりもマシだ。恐らく『相手との距離』が剣よりも開いているからだろう。現に目を瞑りがちではあるが、すぐに「目を閉じない!」と言われてハッとしている。

 だがすぐに限界が来たらしく、息を荒げて倒れこんでしまった。


「はあ、はあ」

「うーん。やっぱり剣より槍かぁ。この貧弱さ、じゃなくて。小ささだったら弓もまともに引けないだろうし、盾を持たせたところで転んじゃうわね」

「んなもんいちいち考えなくても分かるだろ」

「念のためよ、念のため! 大きくなったら変わるかもしれないじゃない!」

「どうだがな。ロアンの性格を考えたら無理だろ」


 カイラスはへたり込んでいるロアンを両腕で引き上げると、日陰になっている場所まで連れて行く。


「ま、初めてにしては上出来だったんじゃねえの?」

「えへへ……ありがと、ごじゃいます……」


 既にヘトヘトになっているロアンがどうにか笑みを返せば、カイラスも「おう」と短く返す。その後ろからはヴィエラ付きの侍女が音もなく現れ、ロアンに水を差し出した。

 勿論それを指示したのはヴィエラである。

 そして当のヴィエラはというと、イリアス相手に思い切り打ち込んでいた。


「うおおお?! ヴィエラさん?! お前今日どうした! いつにも増してイラ立ってないか?!」

「気のせいよ! わたくしが強くなっただけだと思いなさい!」

「うそつけえ! 明らかに怒ってるじゃねえか! って、危ねえ!」


 イリアスは己の頬を掠めていく剣先にヒヤリとしつつ、ドンドン強くなっていく妹に若干の恐怖を抱いていた。

 これは将来、いつか負けてしまうのではないかと……。


「いい加減負けなさい! お兄様!」

「お前が本気すぎて負けたくても負けられないんだよ! 頼むから急所狙うのやめてくれ!」

「やれやれ。うちの兄妹喧嘩は過激だね」

「ケンカじゃねえぇぇぇ」


 一方的に打ち込まれながらもしっかりとエルディオンの声は聴き拾っている。結局イリアスも優秀なのだと、周囲の兵士たちは満足気に子供達を見つめていた。



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