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レディ・ヴィエラは揺るがない  作者:
幼少期-領地編-
35/53

アルカディウス家の『子供』達


 しょげていたロアンだったが、何だかんだ言ってメンタルは強い。すぐに他の兵士にも聞き込み調査を開始し、様々な傷口や手当を見て回り、時には処置の方法を習った。


 時には痛みと疲労で邪険にされることもあったが、ヴィエラが睨みつければ大人しくなったため大事には至っていない。

 また優秀な侍女により聞きこまれた情報は全て記録されており、何だかんだ言って役に立ちそうな資料になっていた。


「ヴィエラ様、ロアン様。そろそろお時間です」

「そう。ロアン! 戻ってきなさい。移動するわよ」

「はい! 今行きます!」


 ロアンは医療班の一人から包帯の巻き方について教わっていたが、ヴィエラに呼ばれて即座に立ち上がる。そして指導していた衛生兵と、練習台になっていた兵士に頭を下げると、駆け足で戻ってきた。


「お待たせしました!」

「気になることは聞けたのかしら」

「はい! いっぱい、いろんなこと聞きました!」

「そう。ならいいわ」


 ヴィエラは呼びに来たエルディオンの侍従に目配せし、彼の案内に従いついて行く。

 家族は既に集まっており、二人がいない間に兵法や、今回の訓練について熱く語り合っていたようだった。


「二人とも、おかえりなさい。何か収穫はあったの?」

「はい。お母様」

「はい! 兵士さんと、エーセー兵さんにいっぱいお話を聞いてきました!」


 二人に真っ先に声をかけたのはセラフィアだ。彼女は兵法についてそこまで詳しくないため、暇だったのだ。だからこそ幼子二人の様子を遠くから眺めていたのだが、それなりに収穫があったようで満足気に頷いた。


「そう。それはよかったわね。私たちは今から辺境伯のお邸に向かうから、また馬車に乗るわよ」

「おじさまのお邸ということは……あの人たちもいるのね」

「ヴィエラ様?」


 ヴィエラはどこかうんざりしたような表情を浮かべ、セラフィアから「そんな顔するんじゃありません」と軽く注意される。それでも気が乗らないのだろう。キョトンとするロアンに対し小声で話しかける。


「辺境伯には三人の奥さんと、八人の子供がいるの」

「え?! そんなにいるんですか?!」

「ええ。カコクな土地だから、子供が大きくなる前に亡くなることもあるの。だから領主は複数の奥さんと、子供を持つんだけど、結局おじさまの子供は一人も亡くなっていないのよねえ……」


 父親の血がよほど強いのだろう。

 思わず遠い目をしてしまうヴィエラだったが、ロアンは「す、すごい……」と素直に関心していた。


 だがまさかその『子供達』が全員成人しているとは思ってもみなかった。


 ロアンは辿り着いた辺境伯の邸で、筋骨隆々な男性数名と、溌溂とした女性に囲まれて目を白黒させていた。


「王都の子供はやっぱり細いな! ちゃんと食べてるのか?」

「お前さん、幾つだ? うちのちびよりも小さいから、四歳か五歳ぐらいかなぁ」

「聞いたぞ? 先に兵士の訓練を見たんだってな。兵になる気はあるか?! うちでなら強くなれるぞ!」

「待て待て! お前らが一斉に喋ったら困るだろ! 珍しい客人が来たからといって、デカイ体で近づくな! 泣かれるぞ!」


 辺境伯の『子供』は男が四人、女が四人の大家族だ。とはいえ、そのうち三人の女性は既に嫁いでいるらしく、ここに残っているのは一番末っ子の四女だけだった。


「はじめまして! アタシはレナリア! 君の名前は?」

「あ……ぼ、ぼくはロアン・ノア・ストーンリッジです! ストーンリッジ伯爵家の次男です!」

「へー! 伯爵家の子なんだ! よろしくね、ロアン!」


 差し出された手に手を重ねると、女性にしては硬く、強い力で握り返される。そうしてブンブンと上下に振られ、ロアンは「あわわわ」と小さく悲鳴を上げた。


「おいバカ! やめろ! ガキの肩外す気か!」

「あ! カイラス兄さん酷い! アタシは友好の証として握手を──」

「ボス猿みてえな腕力で握手されたら、ガキの骨が砕けるに決まってるだろ」

「なんですって!」

「コラコラ、お前達やめんか。グラディアス公爵家とはいえ、客人の前だぞ。いい歳してみっともない。俺の面子のことも考えてくれ」


 ギャーギャーと騒ぐ大家族に、流石のレオニスも顔を顰めて止めに入る。彼にとっては『子供』でも、ロアン達からしてみれば立派な『大人』だ。目の前で騒がれたら困ってしまう。

 ロアンはやっとヴィエラが微妙な顔をしていた理由を理解し、苦笑いした。


「みなさん元気いっぱいなんですね」

「体力がありあまっているのよ。ほとんどが戦士として教育を受けているからね。お前はああなるんじゃないわよ」

「はい。……でも、そもそもムリな気もしますけど……」


 思わず呟いたロアンにヴィエラも「たしかに、想像できないわね……」と返す。だが結局想像してしまい、同時にクスクスと笑い合う。


 その姿を後ろで眺めていた侍女は、こっそりとその日の日記に「笑ったお嬢様は妖精のように可愛らしかった」と書き記した。


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