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レディ・ヴィエラは揺るがない  作者:
幼少期-領地編-
31/51

辺境の獅子


 グラディアス公爵家一行が砦の前に辿り着くと、門前には獅子のような見目をした一人の男が立っていた。


「おう! アルノア! よく来たな! 去年振りか? 相変わらず男前じゃないか!」

「レオニス。やはり屋敷ではなくこちらにいたか」


 馬車から降りた公爵ことアルノアを迎え入れたのは、彼の二倍近く大きな巨躯を誇る“辺境伯本人”であった。


 焼けた肌に、たっぷりとした顎髭。深い焦げ茶色の髪は獅子の鬣のように後ろに撫でつけられている。

 大地を彷彿とさせるアンバーの瞳は力強く輝き、遥か遠く、大地の果てまで見通すように真っ直ぐだった。


 だがその笑顔は子供が笑顔で話しかけて来そうなほど朗らかで懐っこく、声の大きさも相まってとても『貴族』には見えない。


 そんな彼こそがこの『西部一帯』を長年治めてきた一族の末裔、レオニス・アルカディウスだった。


 元々異国扱いだったこともあり、エルドアン王国の王族とはまた違った迫力がある。だが戦士としても日頃から活躍しているため、滲み出る頼もしさは圧倒的であった。


「奥方も久しぶりだなぁ。うむ。相変わらず美人だ。アルノアは得したなぁ。ガハハハハ!」

「辺境伯も相変わらずね。お元気そうで何よりだわ」


 セラフィアは呆れ半分に笑っているが、この豪快さを嫌ってはいない。確かに貴族としてのマナーも気品もない挨拶ではあるが、下心がないため厭らしさを感じないのだ。

 そんな彼は馬車を下りて来た子供達を見ると、大型犬のように顔を綻ばせた。


「おう! 坊主共に小さなお姫さん! 元気だったかあ?」

「お久しぶりです、アルカディウス辺境伯」

「センセー! 久しぶり!」


 公爵家の長子として礼を執ったエルディオンに反し、イリアスは片手をブンブンと大きく振って笑顔を向ける。そんなことをすれば雷が落ちてもおかしくはないのだが、ここは『王都』ではない。

 アルノアとセラフィアも「まったく」と呆れはしても叱ることはなく、レオニスも笑って受け入れる。


 だが畏まった様子のエルディオンには思うことがあったらしい。すぐに顔を顰めて声を掛けた。


「おいおい、エルディオン。“アルカディウス辺境伯”なんて堅っ苦しい呼び方いつ覚えたんだ? いつも通り『レオニスおじさん』でいい」

「流石にそういうわけにはいきませんよ。僕ももうすぐ学院に通う年齢になるんですから」

「おお、そうか。子供の成長ってのは早いもんだなあ。よく見たら背も大きくなったんじゃないか? ん? イリアス、お前は縮んだか?」

「縮んでねーよ! 先生が普通の人よりデカいだけだろ!」

「わはははは! そりゃあ言えてるな! うはははは!」


 イリアスの悪態も何のその。笑い飛ばす辺境伯は、二人の後ろで黙っていたちびっ子たちに目を向けた。


「悪いなあ、小さな姫さん。デカイ声で驚かせちまったか?」

「おじさまの声が大きいのは今に始まったことではないもの。気にしていないわ。むしろ相変わらずお元気そうで安心しました。ごきげんよう、レオニスおじさま」

「うははは! こりゃ一本取られたな。小さな姫さんは相変わらず優雅なことだ」


 粛々とスカートの裾を摘まんで挨拶をしたヴィエラに対し、レオニスは輝かんばかりの笑みを向ける。

 そしてヴィエラの隣に立っていた、ヒョロリとした少年に目を向けた。


「それで? 小さなお姫さんにくっついている坊主は何者だ?」

「あ……ぼ、ぼくは、ロアン・ノア・ストーンリッジです! ストーンリッジ伯爵家の次男です! よろしくお願いします!」

「おう。ヒョロっとしてる割には腹から声出して挨拶できたなぁ。偉いじゃないか。いいぞいいぞぉ。男はそうでなくっちゃな!」


 レオニスは普段よりも大きな声で挨拶をしたロアンに目を丸くしたが、すぐに子供好きだと分かる笑顔を浮かべて大きな手で小さな頭を撫で回した。


「よしよし! そんじゃあ坊主には自己紹介が必要だな。おじさんはこの辺を守ってる『辺境伯』ってやつだ。まあ、そんな堅苦しい呼び方はしなくていい。ちびっこには『アルカディウス』なんて呼びづらいだろ。『レオニスおじさん』とでも呼んでくれ。『レオ』でもいいぞお。そっちの方が呼びやすくて楽だろ」


 わざわざ膝を折り、ロアンと視線を合わせてくれる大人なんて殆どいない。だがレオニスはそれを自然とやってのける。

 ロアンは初めてのことに目を丸くして驚いたが、レオニスの眼差しから包み込むようなぬくもりを感じ、コクリと頷いた。


「わかりました。ありがとうございます。レオニスおじさん」

「おう! 素直でいいぞお! 人間は素直が一番だ!」

「うわっぷ」


 ガシガシと、今度は強めに頭を撫で回されロアンが小さく悲鳴を上げる。ヴィエラは一瞬ムッとしたが、レオニスは普段から豪快な人だ。言ったところで意味がないだろう、と諦めた。


「それじゃあ中に入るか。ずっと馬車に揺られて疲れただろう。馬ならすぐなんだがなぁ」

「家族がいるんだ。それに今回はロアンもいる。あの子に様々な物を見せるというのも、今回の旅の目的なんだ」

「おお? なんだ、随分と可愛がってるじゃないか」


 アルノアとレオニスが並んで先頭を歩く中、セラフィアはエルディオンにエスコートされながら後に続く。ヴィエラとロアンは今日もしっかりと手を繋ぎ、騎士たちに守られながらイリアスと共に歩いていた。


「元々あの子はヴィエラのお気に入りだったんだが、色々と優れている点があってな。うちで面倒を見つつ、保護すると決めたんだ」

「ほぉん? 面白いことしてるじゃないか。後で詳しく聞かせろよ」

「レオニス。悪い顔になっているぞ。子供たちに悪影響だからやめてくれ」

「うはははは! すまんすまん。楽しそうなことを聞くとつい顔に出ちまうんだよなぁ、これが」


 たっぷりとした髭を蓄えた顎を撫でながら悪気なく宣うレオニスに、アルノアは「やれやれ」と首を振った。



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