西の果て
アイゼンヴァルト伯爵は自治領だけでなく、近隣の領地にも『枯死虫が発生する危険性がある』と通達した。その結果、田畑や果実園でも大規模な捜索隊が入ることとなり、幾つかの村では畑を焼く事態となった。
だが過去に起こった枯死虫による被害に比べたら軽微とも言える。
セラフィアから報告書を受け取った国王も各地域に通達を出し、今回は未然に防げるよう、各地でも同様のことが行われていた。
そんな中グラディアス公爵家一行はアイゼンヴァルト伯爵邸を経ち、次なる目的地である『西部』へと向かっていた。
『本来なら他の家門にも顔を出すが、今回は『枯死虫』への対策が優先される。我々は予定より早く西部に向かうが、問題ないな?』
出立前、アルノアに伝えられた『決定事項』に全員が賛同した。何故ならグラディアス公爵家が訪れれば対応しなくてはならない。その間に枯死虫が増えれば本末転倒だ。
そのためアルノアは急遽予定を変更し、本来なら一週間後に向かう予定だった西部に直行することを決定した。
そんなわけで現在馬車に揺られている子供達は、エルディオンがザックリと描いた地図を見下ろしていた。
「これから僕達が向かうのはここ、西部の『辺境』だよ」
「ヘンキョウ? って、なんですか?」
「辺境っていうのは、国と国の境目にある土地のことだ」
「国防、つまり国や国民を守るために必要な大事な場所なんだよ」
地図どころか貴族の爵位についても曖昧なロアンのために、エルディオンとイリアスが分かりやすく説明していく。それを横で聞きながら、ヴィエラも「カコクな土地なのよね」とため息交じりに呟いた。
「カコクな場所? カコクって、どういう意味ですか?」
「過酷な場所、っていうのは、人や動物が生活するのにとっても苦労する場所のことだよ。なぜかというと、西部は国内で一番『雨量が少ない地域』だからなんだ」
「雨が降らないってことは、作物も育たない、ってことだ。だから満足に食べられない人達が多いんだよ」
グラディアス家としても解決したいのだろう。エルディオンとイリアスの表情は硬い。だが大変そうなことは理解出来ても、想像するのはやはり難しい。ロアンは必死に想像力を掻き立て、乾いた大地を想像しようとした。
だが王都はそこそこ雨が降るし、元々南部寄りに領地があるストーンリッジ伯爵領も雨は降る。だからうまく想像することが出来なかった。
「じゃあ、人が住んでいないんですか?」
「いいや。ちゃんと住んでるぞ」
「雨が少ないから、水は貴重だけどね。一応大きな湖もあるし、細いけど川もある。ただそれを蒔いたところで解決しないほど、西部の日照りは酷いんだ」
「たいへんな場所なんですね……」
実際、日に日に馬車から見える景色は簡素になっていく。民家が消え、畑が消え、徐々に大地は乾いていく。
そうしてうっすらと生える雑草と、名前の分からない植物しか目に入らなくなったところで騎士が馬車に近付いた。
「皆様、もうすぐで砦に到着いたします」
「分かった」
「とりで……。ヴィエラ様、トリデって、この前教えてもらった『テキのシンニュウをくいとめるための、大きな家みたいなもの』のことですよね?」
「ええ、そうよ。もうすぐ着くから、自分の目で見てみるといいわ」
頷くヴィエラに促され、窓から見えたのは石造りの頑丈な『城』のような建物だった。
「うわあ……! 大きい! アレが『トリデ』ですか?!」
「ええ。この国が興る前からここはこういう土地だったそうよ」
「補足すると、本来この土地は『別の国』だったんだよ」
「へ?! そうなんですか?!」
エルディオンの補足に思わず振り返ったロアンに、年長であり知識を持っているエルディオンが頷く。
「王国の成り立ちについて簡単に説明すると、元々各地域はバラバラで、それぞれが小さな国みたいなものだったんだ。だけど他の国から攻められて、困った人々が手を取り合って一緒に戦い、退けた。それが切っ掛けで東西南北で同盟を組み、開国の詛と言われる初代国王陛下を中心にして一つの国になったんだよ」
「じゃあ、この西部も、元は『別の国』だったんですか?」
「そうだよ。そして『辺境伯』と呼ばれる人は、昔この場所で代々王様を務めてきた一族の末裔なんだ」
「ほあぁ……。元王様がいる場所なんですね……」
だからお城みたいなのか。と考えたロアンの目には、石造りの砦がより一層大きく見えていた。




