確かな約束
ヴィエラがロアンの何を気に入っているのか。それをハッキリと分かっている人間は誰もいない。
だが凡庸な容姿をしているロアンであるからこそ、決意を宿した瞳が印象に残るのだと、アルノアは知った。
「ヴィエラ様ががんばっているのに、ぼくはそんなことしません」
いつもフワフワとしているロアンにしては珍しい──というより、初めて聞くほど硬い声だった。
だが緊張や不安で硬くなっているのとは違う。確固たる意志が宿っている、小さな炎が灯ったような力強い声だった。
「……そうか。ならば、やはり君はうちで教育を受けるべきだ。遠慮せず、学べることは徹底的に、吸収出来ることは全て吸収しなさい。それがいつしか君だけでなく、ヴィエラの助けにもなるだろう」
「はい! ありがとうございます! ぼく、がんばります!」
ヴィエラの努力を自分のせいで台無しにするわけにはいかない。そう考えたのだろう。
しっかりと背筋を伸ばしてアルノアを見上げ、頷くロアンの姿から不安は消えている。
若く、瑞々しい、生命力に満ちた瞳はあまりにもひたむきで、アルノアは無意識に口角を上げていた。
そんな珍しい父親の姿に子供たちは驚いた顔をしたものの、同時に「笑ってしまうのも分かるな」と頷き合う。
ヴィエラほどではないが、エルディオンもイリアスも『努力する人間』や『意思を強く持った人間』は好ましく感じる。
権力に固執する輩や、それを欲して足掻く人間は別だが、こうして『前向きな理由』で努力しようとする人間は素直に賞賛する。
だからこそ二人もそれぞれ、ロアンの癖のある髪ごと頭を撫でた。
「うわあ?!」
「よく言った! ロアン! 俺達もいるから、分からないことがあったら何でも聞けよ!」
「こう見えてイリアスもちゃんと勉強しているからね。でも、イリアスにも苦手な分野があるから、その時は僕に聞きにおいで」
「はい! エルディオン様、イリアス様、ありがとうございます! ぼく、がんばります!」
心からそう思っているのだろう。いつものように晴れやかな笑みを顔いっぱいに浮かべるロアンに、二人も安心したように笑みを返す。
そして珍しく黙っていたヴィエラに向き合うと、ロアンはいつものように満面の笑みを向けた。
「ヴィエラ様! ぼく、がんばりますね!」
「……ええ。信じているわ。お前はうそをつかないもの」
普段のヴィエラであれば「何を当たり前のことを言っているの」や「当然のことを自慢げに言わないで」と白けた目を向けていたことだろう。
だが『好ましく思っている相手』から向けられる、無償の愛情にも近い敬愛はヴィエラでもくすぐったかったらしい。
白い頬を染め、視線を僅かに逸らしながら素っ気ない言葉を返している。
その姿にイリアスは悪戯心が刺激されて揶揄いたくなったが、空気を読んだエルディオンに口を塞がれ未遂に終わった。
「では視察に戻ろう。ロアン、ヴィエラ。我々とはぐれないように。気になるものを見つけても、必ず周りにいる護衛に伝えてから動くんだぞ」
「はい! 公爵さ、アルノア様!」
「わかっておりますわ、お父様。お兄様たちも、戻りましょう」
ロアンとヴィエラは当然のように手を繋ぎ、市場に向かって歩き出す。
その小さな背中を後ろから見守りながら、エルディオンはイリアスに「余計なことはするなよ」と釘を刺し、アルノアは伯爵邸に残ったセラフィアに「いい報告が出来そうだ」と心中で呟いた。




