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レディ・ヴィエラは揺るがない  作者:
幼少期-領地編-
28/49

確かな約束


 ヴィエラがロアンの何を気に入っているのか。それをハッキリと分かっている人間は誰もいない。

 だが凡庸な容姿をしているロアンであるからこそ、決意を宿した瞳が印象に残るのだと、アルノアは知った。


「ヴィエラ様ががんばっているのに、ぼくはそんなことしません」


 いつもフワフワとしているロアンにしては珍しい──というより、初めて聞くほど硬い声だった。

 だが緊張や不安で硬くなっているのとは違う。確固たる意志が宿っている、小さな炎が灯ったような力強い声だった。


「……そうか。ならば、やはり君はうちで教育を受けるべきだ。遠慮せず、学べることは徹底的に、吸収出来ることは全て吸収しなさい。それがいつしか君だけでなく、ヴィエラの助けにもなるだろう」

「はい! ありがとうございます! ぼく、がんばります!」


 ヴィエラの努力を自分のせいで台無しにするわけにはいかない。そう考えたのだろう。

 しっかりと背筋を伸ばしてアルノアを見上げ、頷くロアンの姿から不安は消えている。


 若く、瑞々しい、生命力に満ちた瞳はあまりにもひたむきで、アルノアは無意識に口角を上げていた。


 そんな珍しい父親の姿に子供たちは驚いた顔をしたものの、同時に「笑ってしまうのも分かるな」と頷き合う。


 ヴィエラほどではないが、エルディオンもイリアスも『努力する人間』や『意思を強く持った人間』は好ましく感じる。

 権力に固執する輩や、それを欲して足掻く人間は別だが、こうして『前向きな理由』で努力しようとする人間は素直に賞賛する。

 だからこそ二人もそれぞれ、ロアンの癖のある髪ごと頭を撫でた。


「うわあ?!」

「よく言った! ロアン! 俺達もいるから、分からないことがあったら何でも聞けよ!」

「こう見えてイリアスもちゃんと勉強しているからね。でも、イリアスにも苦手な分野があるから、その時は僕に聞きにおいで」

「はい! エルディオン様、イリアス様、ありがとうございます! ぼく、がんばります!」


 心からそう思っているのだろう。いつものように晴れやかな笑みを顔いっぱいに浮かべるロアンに、二人も安心したように笑みを返す。

 そして珍しく黙っていたヴィエラに向き合うと、ロアンはいつものように満面の笑みを向けた。


「ヴィエラ様! ぼく、がんばりますね!」

「……ええ。信じているわ。お前はうそをつかないもの」


 普段のヴィエラであれば「何を当たり前のことを言っているの」や「当然のことを自慢げに言わないで」と白けた目を向けていたことだろう。

 だが『好ましく思っている相手』から向けられる、無償の愛情にも近い敬愛はヴィエラでもくすぐったかったらしい。

 白い頬を染め、視線を僅かに逸らしながら素っ気ない言葉を返している。


 その姿にイリアスは悪戯心が刺激されて揶揄いたくなったが、空気を読んだエルディオンに口を塞がれ未遂に終わった。


「では視察に戻ろう。ロアン、ヴィエラ。我々とはぐれないように。気になるものを見つけても、必ず周りにいる護衛に伝えてから動くんだぞ」

「はい! 公爵さ、アルノア様!」

「わかっておりますわ、お父様。お兄様たちも、戻りましょう」


 ロアンとヴィエラは当然のように手を繋ぎ、市場に向かって歩き出す。

 その小さな背中を後ろから見守りながら、エルディオンはイリアスに「余計なことはするなよ」と釘を刺し、アルノアは伯爵邸に残ったセラフィアに「いい報告が出来そうだ」と心中で呟いた。



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