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レディ・ヴィエラは揺るがない  作者:
幼少期-領地編-
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公爵夫妻の判断


 市場に並ぶ商品の価格を眺めていたアルノアは、ロアンに呼びかけられ視線を下げた。


「どうした。視察中は『アルノア』か『旦那様』と呼ぶように伝えたはずだが」

「あ、すみません! あの、でも、今ヴィエラ様が『いっしょにべんきょうをするんだ』って言って……!」

「ああ、その話か」


 アルノアは不安を全身で表すロアンを抱き上げ、人の波が穏やかな路地へと連れて行く。そこでロアンを下ろすと、ついてきた子供達の前で『共通事項』を伝えるように、一度視線を向けた。


「お前達は既に聞き及んでいると思うが、ロアンはうちで勉強させることになった」

「え! 本当なんですか?!」

「ああ。セラフィアもそれを望んでいる」

「セラフィア様が……? どうして……」


 何故そうなったのか理解できないロアンは瞬くが、セラフィアは以前からロアンに目をつけていた。


 ◇ ◇ ◇


「ねえ、アルノー。ロアンって賢いわよね」


 ある日のことだ。夫婦の寝室でワインを嗜みながら会話をしていると、突然そう切り出してきた。


「そうだな。“あの”ヴィエラが気に入って傍に置いているんだ。環境が整えば化けるだろう」

「ちょっと素直すぎるきらいがあるけれどね。まあでも、そこが魅力と言えばそうなんでしょうけど」


 セラフィアはワインを傾けながら暫し沈黙し、それから視線を上げた。


「あの子、この前メイド達にこう言ったそうよ。『ミドリマダラチョウが低く飛んでいるから、この後雨が降るよ』って。実際にその後雨が降ったそうよ」

「それは……」

「天気を読むなんて専門家でも難しいことよ。でも、あの子はそれを当然のようにやってのけた」


 子供の言ったことだ。ただの偶然である可能性も否めない。

 だがその時以外にも、ロアンはじっと空を見上げては『くものながれが早くて、あっちから動いているから、雨と風がくるよ』と口にしたり、ヴィエラと庭でお茶をしていた時も『雨の匂いがする』と言い、屋敷内に戻れば即座に雨が降ったと報告があがっている。


「それは……驚くべきことだな。一つの才能とも言える」

「ええ。メイド達もあの子の『天気予報』をかなり当てにしているそうよ。おそらく、観察力が生まれつき秀でているのでしょうね」


 邸宅内の出来事をすべて掌握しているセラフィアだからこそ、ロアンを試したことがある。


 ヴィエラに黙って“偽物の宝石”をコレクションの中に紛れ込ませたのだ。


 だがロアンはそれを真っ先に見つけるやいなや、ヴィエラにではなく侍女に声を掛けた。


「『これはヴィエラ様の宝石じゃありません。本当の宝石でもありません』と言ってこっそり渡してきたそうよ。驚いたわ。一体どこで判断しているのか、実際に聞いてみたくなったほどよ」


 宝石の鑑定など、本来であればプロの鑑定士でなければ見抜くことは難しい。だからこそ巷には偽物が出回っているというのに、ロアンは専門道具なしで一目見ただけで「違う」と断言したのだ。


「フィリア──受け取った侍女も驚いていたわ。あの子の才能は間違いなく『本物』よ」

「……だがあの子は、自分の能力を自覚していないだろう」

「ええ。だから私はあの子をうちで『保護するべき』だと考えたの。ちゃんとした教育も受けさせるべきよ。でなければ、きっとあの子の本能的な鋭さや観察眼は利用されてしまうから」


 嫁入りと同時に臣籍降下したとはいえ、セラフィアは『元王族』としての矜持がある。国民の一人であり、才能のある少年を良い方向に導きたいという思いがあった。

 アルノアはそれを聞くと深く頷き、まずは領地に戻ってから授業を受けさせようと決めた。



 ◇ ◇ ◇



「本人の承諾を得ず、勝手に話を進めたことは悪かった。だがロアンも教育を受けるべきだ。それも『本格的な指導』がな。ただ、伯爵家では難しいだろうと判断した。基本的に教育は後継者が優先されるからな」


 これはロアンが嫌われているから、という理由だけではない。

 どんな貴族も『後継者教育』を優先する。特に長男が後を継ぐことが多いため、次男や三男は後回しだ。それに教育係を雇うのも簡単ではない。


 勉強が出来るからと言って、指導がうまいかどうかは別問題だからだ。


 そう言う意味では公爵家の方が秀でた教育者を見つけやすい。選ばれた側も、成り上がりの伯爵家よりよほど誉れ高いからだ。


 アルノアは妻であるセラフィアが言うように、ロアンに『まともな教育』を受けさせたかった。そうすることでヴィエラの隣に並んでも侮られることが減り、多少はマシに見られるだろう。と踏んだからだ。

 だが当の本人は本当に自分が公爵家で学んでいいのか分からず、もじもじと指先を遊ばせている。


「でも、セラフィア様たちが思うより、べんきょうがうまくいかないかもしれないし……」

「それはない。君は賢い。それに、ヴィエラが隣で頑張っているのに、君は遊びに出かけるような子か?」


 アルノアは信じている。

 ロアンは素直だからこそ心配にもなるが、素直だからこそ『好きな人』のためにはどんなことでも努力出来る人間だと。


 現にロアンはヴィエラの名前を出された瞬間、不安に揺れていたアップルグリーンの瞳をアルノアへと向けた。



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