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レディ・ヴィエラは揺るがない  作者:
幼少期-領地編-
23/47

初めての晩餐会


 そして迎えた晩餐会。ロアンは緊張しながらもヴィエラの隣に腰掛けた。


 ロアンは公爵家が連れて来た『客人』ではあるが、爵位は低い。そのため下座側に席が用意されているのだが、ロアンはその辺りの知識がない。だから気にせず椅子が引かれるまま腰掛けたのだが、当の本人は考えてもいなかった。


 まさか“公爵家の直臣家門であるご当主”から直々に感謝を告げられることになるとは。


「ロアン殿、と言ったかな。ストーンリッジ伯爵令息。君には心から感謝を伝えたい」

「ふぁい?! な、なんのことでしょうか……」


 まさか自分が呼ばれると思ってもみなかったのだろう。アイゼンヴァルト伯爵から骨身に響くような重低音で名前を呼ばれ、ロアンの小さな体が盛大に飛び上がる。

 だが当主は幼子に恐れられることに慣れているのか、特に気にした様子は見せなかった。


「君が庭に発生した枯死虫に気付いたと報告を受けてな。アレは時に大きな災害となる。早期発見が非常に重要なのだ。被害が最小限に済んだのは君のおかげだ。感謝する」

「と、とんでもないです。ぼくは……ただ、いつも通り『すきなもの』を見ていただけなので……」


 同じ伯爵家でも父親とは全く違う。騎士の家門でもあるアイゼンヴァルト伯爵の圧に押されるように肩を縮めるロアンに、公爵が「そんなことはない」と声を掛ける。


「あの虫は麦や野菜、果物にも被害を出す。もしここから大量発生し、また未然に防ぐことが出来なければ、今年はかなりの不作となっただろう」

「そうだよ、ロアン。もし食べるものがなくなったら、人はどうなると思う? 考えなくても分かるだろう? 沢山の人が飢えて死ぬんだ。君は大勢の命を救ったも同然のことをしたんだよ」


 エルディオンにも優しく諭され、ロアンはますます委縮したように背中を丸めて俯いてしまう。


 まさかこんなにも大事になるとは思ってもみなかったのだ。


 しかも公爵家の直臣家門の当主に感謝されるなど、そうあることではない。


「で、でも……お庭にちょっといただけの虫を見つけただけなので……」

「その“ちょっと”が“いっぱい”になる前に見つけたからよかったんだよ。いいから素直に褒められとけ」

「あうっ」

「ちょっと、お兄様! ロアンを責めるような言葉を使わないで!」


 イリアスのぶっきらぼうな褒め方に、ロアンは思わず涙目になる。隣に座っていたヴィエラがそれを見逃すはずがなく、すぐさま赤い瞳で睨みつけて抗議した。

 当然イリアスは「何で俺が責められるんだよ!」と突っ込んだが、ヴィエラが引くことはなかった。


「アイゼンヴァルト伯爵。感謝の気持ちはわたくしが代わりに、ありがたく受け取りますわ。ですがあまりロアンをいじめないでくださいまし。この子はまだ社交に不慣れなんですの」

「虐めた覚えはないが……。ふむ。そうだな。どうにも私は昔から子供から怖がられる。気を付けよう。ロアン殿も、すまなかったな」

「い、いえ! 大丈夫です! ありがとうございます!」


 ロアンは精一杯頭を下げて感謝の気持ちを伝えるが、アイゼンヴァルト伯爵は「感謝したいのはこちらなのだがな」とそっと苦笑いした。


 その後の晩餐会は思ったより穏やかに進み、怖いと思っていた伯爵も存外『いい人』なのだと判明した。


 とはいえ、ロアンはまだ食事のマナーが上手ではない。粗相を起こさないよう必死で、伯爵を気にするどころではなかった。

 勿論伯爵とて他家の五歳児を大勢の前で叱責する痴れ者ではない。むしろ子供は『未来を担う宝である』という考えの持ち主なので、真剣な表情で向き合うロアンを穏やかな目で見守っていた。


「それでは伯爵、明日は頼んだ」

「かしこまりました。オットー、お前も恥を晒すのではないぞ」

「承知しておりますとも、父上」


 食事も終わり、子供たちの眠気もやってきたところでお開きとなる。

 大人たちは明日の視察について軽く言葉を交わし、ロアンも与えられた部屋へと向かう。


 だが同じ伯爵家とは思えない豪華な一室に、ロアンは「ひえぇぇぇ」と情けない悲鳴を上げた。


「ど、どどどどうしよう……! あっちもキレイ、こっちもキレイ……! う、ううぅ……! よごしたらおこられる……! ヴィ、ヴィエラ様ー!」


 困り果てたロアンが取った行動は、賢いことに『ヴィエラに助けを求める』だった。


「ヴィエラ様ー! 部屋が、部屋がー!」

「なぁに? 虫でもいたの? お前、虫は平気でしょう?」

「ちがうんです! お部屋が広くてキレイなんです!」

「……いいことじゃないのよ。それは」


 呆れるヴィエラに続き、エルディオンとイリアスも苦笑いを浮かべる。


 だがロアンが口にした『ストーンリッジ伯爵家』での生活を耳に舌瞬間、その場の空気は一瞬で凍り付いた。



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