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一瞬の静寂、あるいは証明の終焉

ドームの照明が、まるで世界そのものが停止したかのように、白く、冷たく、ステージを焼き付けていた。スピーカーから放たれた最後の一音の残響が、ゆっくりと、しかし確実に空気の粒子に溶けて消えていく。そのわずかな時間、数万人の観客が詰めかけたはずの会場は、真空に放り出されたかのような無音に支配されていた。


美墨なぎさは、膝をついたまま、震える指先でステージの床を掴んでいた。視界の端で、電光掲示板の支持率メーターが激しく明滅し、最終的な確定値を叩き出そうとしている。隣では、星空みゆきが力尽きたように倒れ込み、肩で激しく息をしながら、ただ一点、天井の照明を見つめていた。その瞳には、まだ先ほどまでの熱狂の残滓が、鬼火のように揺らめいている。


「……あ」


誰が漏らした声だったのか。その微かな吐息を合図にするように、ドーム中央の巨大なモニターが、残酷なまでの現実を映し出した。


表示されたのは、白鳥学園、宇佐美いちかたちの勝利を告げる数字だった。


その瞬間、止まっていた世界が再び動き出した。爆発的な歓声。それは、王者の防衛を称える地鳴りのような拍手であり、同時に、あと一歩まで王者を追い詰めた無名の烏たちへの、惜しみない敬意の表明でもあった。しかし、なぎさの耳には、そのすべてが遠い海の底の音のように、くぐもって聞こえていた。


「——負けたんだ」


なぎさは心の中で、その言葉を反芻した。これまで積み上げてきたすべての計算、深夜まで繰り返した喉を焼くような練習、仲間たちとぶつけ合った言葉。そのすべてが、宇佐美いちかという圧倒的な「個」の前に、あと数パーセントの支持率という壁を越えられずに散ったのだ。なぎさは自分の指先を見つめた。あの瞬間、自分が放った旋律は、確かにみゆきの最高の跳躍を導いた。間違いなく、あれは自分たちが今日この場所で放てる、最高の「共鳴」だった。それでも届かなかった。それが、王者との埋めがたい距離だった。


ステージの中央では、宇佐美いちかがマイクを静かにスタンドに戻していた。彼女の呼吸は乱れていない。額には一筋の汗が光っているが、その佇まいは、嵐が過ぎ去った後の大樹のように静かで、揺るぎなかった。いちかは、床に伏したままのみゆきと、膝をつくなぎさの方へ、ゆっくりと視線を向けた。その瞳には、かつての冷徹な見下しではなく、自分を極限まで引きずり出した好敵手への、奇妙に澄んだ色が宿っていた。


いちかは何も言わなかった。ただ、自分たちの勝利を当然の義務として受け入れ、静かにステージの袖へと歩き出す。その後を追う紅城トワが、一度だけ足を止め、真っ赤な髪をかき上げながらなぎさたちを振り返った。トワの唇は、何かを嘲笑うように、あるいは何かを惜しむように、複雑な曲線を描いて閉ざされていた。


なぎさは、隣に歩み寄ってきた月影ゆりの手によって、ようやく身体を起こした。ゆりの顔もまた、疲労で青白くなっていたが、その眼差しだけは折れていなかった。ゆりは何も言わず、なぎさの肩を強く抱き寄せた。その手のぬくもりが、なぎさの心に溜まった「敗北」という名の冷たい泥を、じわじわと溶かしていく。


「……帰るわよ、なぎさ。私たちの夏は、ここで終わりじゃない」


ゆりの静かな声に、なぎさはようやく顔を上げた。夏木りんが、日向咲が、秋元こまちが、それぞれに涙を堪え、あるいは静かに流しながら、互いの肩を支え合っていた。みゆきもまた、なぎさの手を借りて立ち上がり、ぐしゃぐしゃになった顔で笑おうとした。


「なぎささん……私、まだ歌えます。もっと、もっと高く跳べます」


みゆきのその言葉は、もはや負け惜しみですらなかった。それは、絶対的な敗北という闇の中で、さらに激しく燃え上がった純粋な意志の産声だった。なぎさは、その力強さに、自分の胸の奥が再び熱くなるのを感じた。


ぴかりが丘学院の面々が、ステージを去る。観客席からは、彼女たちの名前を呼ぶ声が止まなかった。それは勝者ではない彼女たちに向けられた、異例の熱狂だった。彼女たちは、王者の冠を奪うことこそできなかったが、このドームに集まったすべての者の心に、「共鳴」という名の消えない傷跡を刻みつけたのだ。


舞台袖に戻る通路の暗がりで、なぎさは一度だけ振り返り、明るいステージを見つめた。そこにはもう、自分たちがいた痕跡はない。清掃スタッフが動き出し、華やかな照明は次の演目のために切り替わろうとしている。栄光と挫折が、紙一重の差で入れ替わる場所。


なぎさは、拳を白くなるまで握りしめた。脳裏には、先ほど見た宇佐美いちかの背中が、いつまでも焼き付いて離れない。あの孤独な高み。あの、自分たちを拒絶し、それでいて惹きつけてやまない、圧倒的な美しさ。


(次は、あんな背中を見送る側にはならない。次は、私たちが……)


なぎさは、心の中に新しい設計図を描き始めた。それは、今日の敗北という最大のデータを糧にした、より強固で、より美しい「頂」への地図だった。彼女たちは、暗い通路を迷うことなく進んでいく。その足取りは、先ほどステージを去ったときよりも、ずっと確かで、力強いものに変わっていた。


ドームの外では、夏の夜風が吹き抜けていた。祭りの後のような静寂が街を包んでいたが、烏たちの物語は、この深い闇の中から、再び高く、より高く羽ばたくための助走を始めていた。宇佐美いちかという太陽に焼かれた翼を、彼女たちは今、より鋭い漆黒へと染め変えようとしていた。

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