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『シン世界』、日本最強の92歳が全てを斬り伏せるッ!!  作者: のっぽ童子
『各国最強』編

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カンキョウ利用

「よっこらせ」

ヴィクトルが跳ぶようにして体を起き上がらせると、すぐさま下がる。

どうやら、脳は揺れていないようだ。


かたやマエンは何もしない。

ただ、思考している。

ヴィクトルをねじ伏せる策を。


(石を握った際の攻撃パターンは2種、対策済み。土は支障なし、木も同様)

「ははは......諦めろ」

今まで無であった表情が狂気に包まれる。

口角が張り斬れんとしていた。


「追撃をしなかったこと、後悔させてやるよ」

瞬間、ヴィクトルが左ポケットから石を取り出し、それを投げつける。

だが、直線的すぎる。

マエンが軌道を読み斬り、首を捻って避けると同時、前へ足を踏み込む。


刹那、左足により土が蹴り上げられる。

ヴィクトルはその全てを両腕で防ぐ。


「俺の流儀はムエタイにあらず」

接近していたマエンはヴィクトルの左腕を掴むと、流すようにして後ろの地面へ投げる。


「ぐおっ」


突如、マエンが腕を持ったまま、その顔面を踏みつける。

血が出ようが、鼻が沈もうが、ずっと蹴り続ける。


だが、ヴィクトルが右手から土を放つ。

それでも、マエンは止まらない。


ただ、彼がこの危機的状況を抜け出すべく、考え抜いたもの、それは背中の力を利用した垂直の蹴り。


しかし、マエンは半歩で躱す。

いや、躱したはずだった。

そのなんて事ない足が直撃してしまう。


あのマエンだ、油断などするわけがない。

だとしたら考えられることは1つ、唐突にマエンの体が鈍ったのだ。


その隙を逃さず、ヴィクトルが抜け出す。


「洗礼を受け始めたみてぇだな」


「はぁっ、はぁっ」

(なんだ? 息が......ムエタイの最終マッチでもここまでなったことはない......のに)

マエンの体から汗が出まくる。


「ここはな、『ウラル山脈』の中でも随一の磁場なんだぜ?」


かつて、ヴィクトル・ストライプはこの地を踏んでいた。

当時、風が肌寒い、ただの森だと思っていた。

彼はそれまでに世界一暑い、寒い、高い場所を攻略していた。

だからこその余裕があった。


ヴィクトルはその森で木の枝や葉っぱを使って、簡易的なテントを作り、住み込むことにした。

水は川などで汲めばいいし、ご飯も蛇や鳥などを食べていれば生きるのに苦労はしなかった。


ただその時、異変は迫ってきていたのだ。

初日を難なく過ごし、寝袋に身を隠す。


そして、翌日。

彼は驚愕した。

寝袋の中が汗でびっしょりになっていたのだ。


ここはロシアの一部だ、暑いなんてことはない。

しかも、日差しだって届いていない。

それなのに彼の体はずっしりと重石が乗せられたかのように重かった。


ウラル山脈は元々、鉱石が潤沢であることで有名だった。

だがもう1つ、世間を騒がせたことがある。

それは局所的な磁気異常、要は磁場。


その地脈に張り巡らされた磁力がヴィクトルの身体を疲弊させたのだろう。

今までとは違う、暑い寒いのような肉体自身が適応しようとするものとはわけが違う。

磁力への体の調整は元来より備わっていない。


それ故にこの地の適応には約1年掛かった。


「なるほどな......どうりで」

マエンはどこか思うところがあったらしい。


「それにここは寒ぃ、そんな汗出してちゃ腹が冷えるだろ」

ヴィクトルが狂気を顔に貼り付ける。

先の仕返しのようだ。


「はなから正面で勝とうとはしていない、俺の機動力を削るのが目的だったわけだ。してやられた」


「あんた勝ち目ねぇな」

(ていっても、これでようやく五分五分、いや、あっちの方がまだ高ぇかな)

ヴィクトルはしかめっ面で対応する。


「鈍るならばそれを考慮に入れるまで」


「おっと、怖ぇや。んじゃ、鬼さんこちら」

ヴィクトルが右往左往に逃げ回る。


(これも作戦だろう。環境のプロフェッショナルである以上、迂闊に近づかない方が吉か)

マエンはそばにある木の背へ隠れ、冷風から身を守る。


(機動力を奪ったとはいえ、このままだと攻めづらいだろう。一体、どうするヴィクトル)

師匠の考えは正しい。


そんな緊迫した空気の中、ヴィクトルただ1人だけはのほほんと泥団子を作っていた。


「なにしてんですか! ヴィクトルさぁん!」

こればっかりは声を荒らげずにはいられない。


「なにって武器作りだよ」

それを平然と返す。


だが、戦場がそのまま黙っているわけがない。

マエンはそこら辺の石を拾い投げる。

大した威力ではない、ただ鋭かった。

軽くではあるが、肉を削る。


ヴィクトルがその木まで駆け寄っていく。


「お前に蛮勇などないはずだ。やるには何かを起こすタイプだろう?」


しかし、その木の横。

マエンの左から彼は現れる。


「ああ、いま身につけた!」

ヴィクトルが泥団子を投げ、投げる、投げつける。

普通の土よりは重いし、当たればそこから散弾が飛び出す。

だが、少し見劣りする。


ただその時、泥団子の中から特に素早く放たれたものがあった。

マエンは他のと同様に両腕で弾く。

土の外壁が崩れた瞬間、内包されていた石がマエンの右目を捉えた。


「ラッキー」


しかし、失明には至らない。


「舐めすぎだ」

目には目を。

マエンが左で目潰しを繰り出す。


ヴィクトルが頭の位置を右に外すも左目の上が斬れた。

流れ出る赤により視界は潰える。


「終わりにしよう」

繋がれるのは......左脚。

あの大樹をも貫く膝大砲。

あれは人体が出せる威力ではなかった。

言うなれば、兵器ならざる斃器(へいき)。


ヴィクトルは左腕を起動させ、その行動を止めようと振るう。

だが、マエンはその腕を掴み、引く。

ヴィクトルは力の方向に従ってしまった。


もう死の領域だ。


直後。

人体から放出された音とは思えないものが響き出す。

それは大砲を凌ぐ、まるで噴火。


ただ、ヴィクトルは抵抗に右腕を挟み込んでいた。

いや、妙だ。

彼の膝から血が滴り落ちる。

マエンが茂みまで下がる。


間違いなどではなかった。

確かに鮮血だった。


繰り出した方がなぜ。

その疑問の答えはシンプルであった。


ヴィクトルが右手にメリケンサックを装着していたのだ。

だがその時、武器は粉となった。

耐えきれなかったのだろう。


マエンの膝が衝突する瞬間、ヴィクトルは右ポケットからメリケンサックを抜き、それを防御としたのだ。


マエンから笑みが溢れ落ちる。


「いつ武器を使うかと思っていたが、まさか盾にするとはな」


「へぇ、分かるもんなんだな。本来ならもうちっと損傷させるつもりだったんだけどなぁ」

その軽口とは裏腹に衝撃を受けた右腕はもう冷たくなっていた。


「お前は最初から重心が不自然だった」

マエンは泳がせていたのだろう。

その結果、彼は膝が死ぬ前に中断することができた。


「今の俺は何のかも軽ぃ、こっからが素の俺ってわけよ」


「打撃も軽いのか」


「そりゃ......喰らってから物言いな!」

ヴィクトルが相当なフットワークで奴へ寄る。

まるで、常人の10秒が1秒に圧縮されたかのような高速。


そこから左拳にいくつも突こうとする。

しかし、マエンは警戒してか距離を必要以上に取っている。


「ボクサーでないのにそれに頼る理由、なんとなく見えた。お前の持久力でなら、一撃に特化したものより複数撃つ前提のものにした方がいいからだろう。違うか」


戦場では直線だけを走ることなどない。

左へ、右へ、前へ、後ろへ。

その全てを組み合わせた行動範囲。

その狭い箱の中なら、ボクシングほど速く動ける格闘技は存在しない。


「正解だ」

彼は左ストレートでそれに答えた。


しかし、拳は紙一重で届かなかった。


「チッ」


その時にはマエンは右足で奴の左足の指を潰していた。

ヴィクトルはその踏まれている足を基軸にして、右脚の蹴りと同じく、土が舞う。

マエンは既に下がっている。


「環境利用とは結局のところ姑息、悪あがきに過ぎん。圧倒的に埋めがたい力量差を環境に任せているだけだ、そんな奴を大勢見てきた。だが、お前は違う。だからこそ、俺は『俺自身(カーガンタイ)』を解放する」


(『俺自身(カーガンタイ)』......使うんだな!? 今ここで......ムエタイを超越した殺人術を!)

師匠の目が思いきりに開かれる。

その瞳孔には恐怖が刻まれていた。


「俺はよ、適応するのが得意なんだ。自然でも社会でもな。こーんな大きなもんに適応できんならよ、存在(あんた)そのものに対してできないって道理はねぇ......!」


ヴィクトル......この男は今、マエンという最上級の環境を支配しようとしていた。


(マエンそのものを......? あなたはどれだけ俺をワクワクさせてくれるんだ!?)

審判はこの状況をこの上ない喜びとして置いていた。


全てを咄嗟に斬り替える判断力と、全てに身を用いて順々と制する適応力。

この戦争が終わる頃、立ち上がっているのはどちらの力なのか。


決着は刻刻と迫ってきているのであった......









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