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『シン世界』、日本最強の92歳が全てを斬り伏せるッ!!  作者: のっぽ童子
『各国最強』編

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タイの殺し合い

ここはロシア『ウラル山脈』にある森。

肌寒い風が木々の隙間から強く吹き荒れる。


マエンがその茂みを手で退けて移動する。



「お前はあの時の......」

マエンの先にいた男。

青のボクサーパンツ一丁のヴィクトル・ストライプだ。


「そう、俺だ」


「死に急いだか」

マエンは眉1つさえ動かさない。

変わらず、表情は峭刻(けわ)しかった。


「死は老衰でお願いするぜ」

ヴィクトルが両腕のガードを上げる。


(筋肉の付き方からしてボクサーではない、総合格闘技のような万能の肉質、ただそれは逆に特筆したステータスがないということ。実績から鑑みても、強さはA程度だな)

「お前は国の脅威となるだろう。俺はお前を殺すことに決めた」

既に、彼は判断していた。


「余命宣告ってこんなに淡々としてんのな」


「早く戦を始めろ」


師匠が2人の前へ出る。


「では、私が言おう。かたや『ロシア最強』ヴィクトル・ストライプ、かたや『タイ最強』マエン・グウト。互いの健闘を祈る。それでは......開始(はじ)めィ!」


この時、死線が引かれた。

それをヴィクトルが踏む。

右拳を構えたまま、前身である。

格闘技最速のジャブが。


炸裂!


......と思われた。

忽然とマエンが消える。


瞬間、胸に大砲が駆ける。

ヴィクトルが5m後ろの木に背中から衝突。

その部分の樹皮が砕け、鋭くなった物が背肉を喰い荒らす。


マエンは左肘を構えたままだ。


「ああっ! またかよ!」

ヴィクトルは背中を擦った。


「腕を差し込んだか。ふっ、だとしても、かなり肉が分厚い」

マエンは達観しているようだった。


「今のはお遊戯さ。お前にボクシングの恐怖を教えてやるよ」

またもや、前へ走る。

瞬間、加速させたのは左のジャブ。

先ほどとは比にもならない。


だが。


「遅い」


その拳が届く前にマエンの右(ジャブ)がヴィクトルの頬を穿つ。

ただ、ヴィクトルは痛覚に逃げなかった。

勢いのまま、左がマエンの胸に到達。


しかし、マエンが上体を下ろす。

マエンの腕は自然とヴィクトルの左肘を掴む。


マエンが右腕を隆起させる。

ヴィクトルを下へ落とすつもりだ。


一方のヴィクトルも腕に全神経を注ぎ込む。

それでも、マエンは体重を利用(つか)っている。

ヴィクトルが落下しかける。

だが、次第にマエンの優勢が崩れ、ヴィクトルは墜落を免れる。


(俺が持久力で負けるか)

起き上がりざまに左脚が跳ね上がる。


その刀身(すね)は脇腹を捉えていた。


ヴィクトルが半歩引く。

だが間に合わない、肉に深く深く入っていく。

あまりに深部へ侵入していくので、ヴィクトルは目をかっぴらいた。

そして、すぐに後ろへかっ跳ぶ。


「やっぱ、強ぇや。あんた」


「当然だ」


「そんなあんたに1つ忠告だ。このフィールドはな、慣れるのに苦労したんだぜ」

瞬間、ヴィクトルが左にある茂みに隠れる。


マエンが迫る。


だが刹那、目の前に広がる茶色の世界。

しかし、マエンは視界を閉じない。


(土塊か)

突き刺さって、ようやく分かった。

目にも入るが、そんなことは目を閉じる理由にはならない。


「まじかよ」

驚いた表情で茂みから右に離脱。


「環境利用か」

それでもマエンは相手へ到着。

左から拳を飛ばす。


ヴィクトルが右掌で受け止める。

はずだった。

ジャブは確かに取った。

ただ、その拳が左肘へとすり変わっていた。

明らかなる想定外。


バスンッ!

投手の豪速球がミットに入るかのような音。

ヴィクトルの手首が捻れそうになるも、彼は瞬時に更に右へと歩を進めた。

それにより、事なきを得る。


「あっぶねぇな!」


「安心しろ、嫌がらせだ」

マエンが冷徹な肘を引く。


(ヴィクトルさんが押されてる......でも、俺にはどうにもできない。ただ、見守ることしかできない......!)

ロシアの審判は無常感を噛み締めていた。


(マエンが使っているのはムエタイでも総合格闘技でもない。更にその上だ。負けるわけがない......が、ヴィクトルよ、マエンを止めてくれ)

師匠は希望を託した。


「もう勝った気かよ? ここからだぜ、俺の強さはよ!」

ヴィクトルが土を右で蹴り上げる。

その一塊一塊が散弾の如き威力。


「読んでる」

しかし、もう既にマエンが眼前にいた。

その構えられた左手は人差し指と中指が立っていた。

目潰しだ。


ヴィクトルが右腕で受ける。

指はその肉を貫く。


それがマエンにとっての大きな隙へと転換される。


ヴィクトルが全身を稼働させた左ストレートを繰り出す。


(避けれんな)

マエンが首を下げ、額で一撃を止める。

しかし、その拳は予想以上に強力であった。

額が弾け、上体は仰け反る。


新たなる追撃が届くより前に後ろへ下がる。


「そう来たか......石を拳で握っているな」

マエンの判断力。

未だ、覆ることはない。


「ご明察!」

ヴィクトルが左手を開くと、そこには中くらいの石が潜んでいた。


「あの草に隠れた時、土を放った時、そこで拾っていたのだろう?」

(想定すべきところを見極めろ。土、石......木や葉、水も有り得るか)

マエンは失敗を糧とする。

だからこその『最強』なのだろう。


「それは教えれねぇな。あんたも探してみるかい? 綺麗な石とかをよ!」

ヴィクトルが人差し指の根元と親指の腹で石を飛ばす。


「ワンパターンだな」

マエンが右へ躱す。

そして、ヴィクトルまで移動する。


「そうとも限らねぇよ」

ヴィクトルが背にある木の枝を掴み上げ、上へ逃げ込む。

その樹はまるで大型トラックを縦に立たせたみたいに巨大だった。

もし、登ろうとしても上からヴィクトルが落としてくるだろう。


(うわっ、ずるいな)

審判ですら思うことだった。



「ここで策を練らせてもらう......え?」

そんな余裕だったヴィクトルの口角が崩れる。


「木など鍛錬でいくらでも割ってきた」

刹那、マエンが左脚を振り上げる。

ドゴンッ!

膝が樹皮へ衝突する。


すると、表面から亀裂が走り、それが内部、深部へと染み込んでいく。

木は根、幹、葉で支え合っている。

今、その均衡が崩壊した。

木は自重にすら耐えれなくなり、倒壊した。


「よっと」

ヴィクトルは既に後ろへ飛び降りている。

奴が迫って来てはいない。


「もう手立てはないだろう。潔く死んだ方がいい」


「......潔(いさぎい)い死ってなんだ? さらっと死ぬのが潔いのかよ。泥臭くたって、藻掻いたって、生き残ることこそが人ってもんじゃねぇのか?」

その隣には多くの人間がいた。

生き残ろうと、目標を達成しようとして不遇にも亡くなってしまった方々。


その人たちの過ごせなかった人生、それをヴィクトルが引き継いでいる。


ヴィクトルの怒りのゲージが飽和する。

彼は砕けた材木を蹴り飛ばす。


だが、マエンは腕を急斜角にして、その木撃を流す。

細かい破片は甘んじて受け入れる。


その直後、マエンの懐に侵入。

左から土の塊を放つ。


(これは目くらまし......本命は握り石(こぶし))


予想通り、右腕がフックの形で運ばれる。

マエンが半足下がる。


その瞬間、右手が完全に開かれる。

中に入っている石は当然、拳の届かなかった領域まで投擲される。


(判断を間違えたか)

マエンが石を右腕に喰い込ませる。

浅いが、皮膚は斬れる。


マエンは足を無理に地面へ。

そして、大地を蹴り、前へ爆走。

その時には横に右肘が展開されてあった。


(やっべ、近づきすぎた!)

ヴィクトルは必死に後退する。

幸いにも肘は届きそうにない。

ヴィクトルの目蓋(まぶた)がほんの僅かに落ちる。


刹那、どういうわけか、肘の下から左腕が現れたではないか。


ヴィクトルの防御は遅刻している。

それをもろに土手っ腹へ。

だが、特段と軽い。


「これは嫌がらせだ」

マエンの本命、それは......。

左脚を軸にして回転させた背面からの......左肘。


ヴィクトルの顎へとそれは誘われる。

防ぎようなどない。

あるのは無慈悲なまでの実力差。


脳が揺れたのか、ヴィクトルは仰向けで崩れ落ちた。

だが、彼は笑って見せた。


ここからが、本当にここからが、俺との戦いなのだと、言わんばかりであった......














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