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『シン世界』、日本最強の92歳が全てを斬り伏せるッ!!  作者: のっぽ童子
『各国最強』編

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シ旋

「武器はこれだけではないんだよ」


グリロエが左の足で地面を踏み割ると、流れるように拾い上げ、投げ始めた。


「お前も使えるのだな」


だが、音もなく目の前にいる。

虎龍(フーロン)は右足で同じように地面をふ踏み砕く。


『震脚(しんきゃく)』からの右の『発勁』。


「読んでる」


グリロエは拳が来るであろう位置に加速させた左拳を向かわせる。

瞬間、拳が互いに衝突する。


(普通なら返ってくるわな。だがな、すぐに引いたらどうなんだ?)


グリロエが左腕を下げ、右サイドに回り込む。

彼の疑問はすぐに解かれる。

虎龍(フーロン)の右拳は割れていた。

流した力はどこかへ当てなければ、暴発する。


「なるほどな」


グリロエは攻撃ではなく、敢えて横へ跳んで距離を取った。


「全盛期ではない。それだけだな、悔やまれるのは」


「はっ、冗談きついな。俺は現在が全盛期だぜ。一回だって、衰えたと思ったことはねぇ。今、俺の手にあんのは軍人時代には持ってなかったものなんだぞ?」


グリロエの空気が戻る。


「軍人ごっこはもう止めたのか」


「俺は農家だ! なら農家らしく行こうじゃないか!」


ただ!彼の闘気は更に燃え上がっていた。


(農家らしく?)

(農家らしい戦い......?)


審判は惑う。


「農家らしく......か。その気持ち、分からないでもない。我の先祖は殺しを始める前に農業をしていたそうだしな」


虎龍(フーロン)は腕を組む。

農家らしい戦争なんて誰も分かったものではない。


「そうなのか」


「今の農業なれば......ドローンでも使う気か」


「俺はな、農薬を撒くのは好かねぇんだよ。やっぱ、無農薬こそ男だろ!」


いよいよ意味が理解できない。

グリロエが審判に当たる寸前まで足を下げ、走る。

その速度は陸上選手さながら。


(打か斬か)


否、答えは両方である。

グリロエは駆けながらに銃から銃剣を外し、銃本体を左へ、銃剣を右に持ち替えた。

瞬間、虎龍(フーロン)に熊のような力の打と斬が襲いかかる。


絶体絶命である。


だが......刹那、グリロエの鳩尾(みぞおち)に突き刺さる。

虎龍(フーロン)の右脚が。

あの筋肉の塊がなにもできずに後方へ吹き飛ぶ。

落ちそうである。

左足に踏ん張りを効かせてなんとか耐え抜く。


「なんだ? 腹が裂けちまったな」


グリロエの鳩尾(みぞおち)付近から銃弾で撃ち抜かれたみたいに血がしとどに落ちる。


「これを出さねば貴様は倒せんと判断した。『脚勁(きゃっけい)』......我がオリジナルだ」


グリロエは虎龍(フーロン)の奥の手を引き出すに至る。


「お前......元々、脚主体だろ? 攻撃は」


「ああ、そうだ。戦争とは個々の強さや武器で争うものであるが、情報も立派な武器。奥の手を使ってそれが対策されれば、こちらとしてもかなり痛手。できたら、使いたくはなかったのだがな」


虎龍(フーロン)の眼光が鋭くなる。

それはまるで猫のように鋭利であった。


「出し惜しみして、負けたら終わりだぜ? 使えるものは全て使うべきだ」


「じゃあ、貴様も使うといい。その心内(しんない)に潜む軍(・)神(・)を」


虎龍(フーロン)は知っていた。

ボッフ・ステラとの争いで現れた過去の残滓。

それが軍神だと。


(ボッフさんを殺しかけたこと、グリロエさんはああ見えて後悔してる。それをほじくり返すか......!)


アメリカ審判は今にでも手を出しそうなほどであった。

拳に力を込め、なんとか我慢する。

血が滲んでいる。


「へぇ、新人の癖に知ってるんだな?」

(手の内は全て知られてるって思った方がいいな)


グリロエの体が縮こまる。

恐怖ではない。

筋肉を固め、いつでも迎え撃てるようにしている。


「使うのか? 使わないのか?」


虎龍(フーロン)は着実にグリロエへ歩を進めていく。

おもむろに歩み寄っていく。


「後のお楽しみってぇことで......」


グリロエが武器を捨てる。

銃を、銃剣を。

軍神の名残を捨て去った。


ひゅ。


グリロエは既に虎龍(フーロン)の懐にいた。

両腕をハサミのように大きく開く。


(まともに受ければ......死ぬな)


虎龍(フーロン)が右足で彼の右膝へ蹴って、後ろに下がる。


「これはどうだい?」


グリロエの鞭のような左腕が放たれる。

速い。

虎龍(フーロン)は空中。

躱すのは困難。

一条の傷が右頬に走る。


「なるほど、貴様も五体が武器か」


武器を持っていたのでよく見ていなかったのだろうが、グリロエの爪もかなり尖っている。

十本の独立するナイフが彼には携帯されている。


突如。


グリロエの眼の奥が漆黒に染まる。

獲物を捕らえんとする鰐(カイマン)のように。


「『死旋(デス・ロール)』」


彼が左手を上へ、右手を下へ。

ただの手と爪が鰐(カイマン)の開いた口へ変化する。

待ち構えている。

相手が来るまで。

ずっと。


(これは軍神では持ち得ぬ技だろうな......面白い)


虎龍(フーロン)が歯を出して笑みを放つ。

左脚を直角、右脚を後ろへ伸ばす。

そして、左手を前に出し、右拳を引く。


(この異様なまでの圧力......私まで喰べられそう)

(これは一番喰らいたくねぇな......)


審判まで緊迫する。


動き出したのは載(タイ) 虎龍(フーロン)。

瞬間、右拳が突き出される。

軌道は蛇のように読めない。

体の全てを旋回させ、力を加速。

最高速度の『発勁』。


鰐vs蛇。


捕食するのは......ぐちゃり。

鰐(カイマン)だ。

鰐の上顎が一気に閉じられ、両の歯は蛇の胴を噛みちぎろうとする。

肉は弾け、血に塗れる。


だが、突如、彼の右脚が跳ね上がる。

それは的確に鰐の上顎を撃ち抜いた。


瞬間的に蛇が右へ体を回転させ、致命傷ながらもその歯の牢獄から抜け出した。

虎龍(フーロン)の蛇(みぎうで)はもう使い物にならない。

同じく、グリロエの上顎(ひだりうで)はあらぬ方向へひしゃげている。


「はは、お前の腕を喰ってやったぞ」


「貴様の一本と我の一本では重みが違う。貴様は四肢のうち二つがもう戦力にならぬではないか」


グリロエの左腕と右足に大きな損傷。

対して虎龍(フーロン)は未だ右腕のみ。


「俺への戦力外通告はご法度だぜ?」


破壊された左腕を横へ振るう。

腕の芯はまだ使える。


「我も」


虎龍(フーロン)が右腕を顔の位置まで上げる。

壊れた左腕が衝突する。

だが。

その時には左拳がグリロエの右横腹を穿っていた。

更に拳から親指を突き出して、奥を刺す。


「お忘れか? 化勁(カウンター)を」


「ファック......!」


グリロエが我を忘れて、必死に後退する。

彼の鉄壁のような肉が次々と貫かれていく。

その現実に目を背けそうになっていた。


「もう手は残されていないか」


虎龍(フーロン)はおもむろに近づいていく。

憐れむかの如く、静かにだ。


(勝機を探せ......打撃や斬撃にはカウンター、ヒットアンドアウェイと刺突は有効。だが、左腕は負傷、逃げる足も弱っている。近距離は不利、中距離でもあいつには脚がある、遠距離は石のみ......これって......)


グリロエの眼が見開かれる。

理解したのだ。

虎龍(フーロン)との埋めがたい圧倒的な戦力差を。

呼吸が荒くなる。


虎龍(フーロン)が一歩、一歩と進めていくうちにグリロエの心は一つのものに満たされた。


恐怖。


自分の力がここまで及ばない相手がいるのか、と。

体が震える。


「低体温症か? 気をつけた方がいいぞ」


虎龍(フーロン)の全てが邪悪に見えた。

グリロエは極限まで追い込まれる。

そして、彼の防衛本能が選んだ選択は......硬直。


鶏は目の前に線を引かれると敵に襲われたと思い、しばらく固まるという。


グリロエの身にも同じことが起こったのだ。


「良き戦士だった。安らかに眠るといい」


虎龍(フーロン)の眼には暗闇が広がっていた......







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