ショウ滅
大国オランダが消滅した。
そんな話が監獄中で広がっていた。
ガイマスが死亡し、その埋め合わせとして新たな『最強』を呼んだのだが、仇となった。
その『最強』は初戦にて離脱を決意。
それは事実上、オランダの瓦解を意味していた。
このまま、物資を喰われてなくなるならと首相自らが白旗を掲げた。
オランダはベルギーと合併することとなった。
それとは別にヴィクトルも話題に上がっていた。
『オランダ最強』は寿命などで死んだのではなく、彼が殺したのではないか、と。
その言葉はヴィクトルの根幹を深く傷つけていた。
「ヴィクトルさん、気に病むことはないですよ。悲しいですが、彼はああいう運命だったとしか......」
「運命? 違ぇだろ。周りの人間の言動があいつの自由を奪っていったからだ。あいつだって、こんな戦争になんか出たくなかったはずだ」
ヴィクトルの眼の下には隈ができている。
よっぽど彼......いや、彼らのことが悔しくて仕方なかったのだろう。
そう開けた道を歩いていた時、周りの視線が刺さる。
苦しかった。
軍人や審判、『最強』までもがヴィクトルを見て笑ったり、目を逸らすようにしていた。
(あいつはこういう気持ちだったのかなぁ......こりゃ、きちぃや)
ヴィクトルが足下を向いた。
白色のシャツと黒のズボンが映るのみである。
しかし、その前にほんの少しだけ黒のスポーツウェアが見えた。
「こっちを見ろ」
その声にヴィクトルが顔を上げる。
眼前には『タイ最強』マエン・グウトがいた。
マエンは彼の目の奥をじっくりと見続けた。
「ふん、そうか」
なにも言うまでもなく、マエンが周りに体をやる。
「お前ら、こいつは殺してはいない。俺が保証する。それでも文句があるのなら、俺に来い」
マエンは先の戦いでファニーン・リスタンを殺害している。
そして、その他にも『カンボジア最強』と『コンゴ最強』を徒手で殺めていた。
こう言ってはあれなのだが、説得力がある。
「ちっ、マエンだぞ」
「殺されたくねぇ」
小さいながらもそう聞こえた。
「あ、ありが......」
ヴィクトルはなにがなんだか分からないという顔で感謝を述べようとする。
「勘違いするな。お前が俺と同じ眼かどうか確かめただけだ。まぁ、俺と戦うと言うのならば、いつでも受けて立つ。場合によっては殺す」
マエンは後ろを向いたまま、帰っていった。
突如、ヴィクトルが震える。
「あれ、ヴィクトルさん......?」
「次はあいつと......戦る!」
(あいつとなら、なにか変わるかも知れねぇ)
マエン・グウトvsヴィクトル・ストライプ......その日も決して遠くはないのかもしれない。
その頃、二人の最強が肩を並べて歩いていた。
『ドイツ最強』ボッフ・ステラと『アメリカ最強』グリロエ・ジョーズである。
ボッフは茶と黒のダボダボの服とズボン、グリロエは高級そうなキラキラとした黒曜石のようなものをどちらにも着用していた。
こちらは別の大通りである。
「グリロエ......さん?」
ボッフが曖昧な敬称で話しかける。
「ボッフ、まだ呼び方に悩んでんのか? 普通にグリロエでいい」
「いや、俺より年上だからさ......」
「どうでもいいわ。年功序列なんて言うがな、早く生まれたからなんだって感じだしよ」
グリロエの筋肉が服をはち斬らんとする。
「分かった、グリロエ。次の戦いは大丈夫なのか? え〜と......」
「中国だ。まぁ、俺の敵じゃない」
グリロエが不気味な笑みを放つ。
「毎度毎度、怖いんだよ。その笑顔」
「昔から笑ったことないからなー。今日から笑う練習でもしてみるとするさ」
「頑張ってよ。試合も、笑顔もね」
お返しの二パァっと明るい笑顔がグリロエに向いた。
「ああ」
グリロエの口角が少し和らいだ気がした。
一方、中国の方にて。
軍人の基地に顔を出していた。
居るのは王と新しく入った虎龍だ。
「虎龍さん、ここが私たちの誇る軍です!」
元気のいい声だ。
「ん、貴様らは前の......」
虎龍の視界に映ったのは轟道対シャルルを護衛していた軍人三人だ。
「当主様に覚えて頂けるのは光栄の極みです」
その内の一人が前へ出る。
「あの時はよく我を呼んでくれた。結果、その判断は正しかった。だが、貴様ら......載一族を背負っている自覚はあるのか?」
シャルルの戦士の人格が暴走した、あの事件。
それを終結させたのはこの虎龍である。
「「「はい!!!」」」
「そうか、ならいいのだが。貴様らの最低ラインは三人であの事態を止めれるようになることだ」
虎龍の圧は練り上げられていた。
虎が放つものとは比べ物にもならない。
近くにいるだけで死を感じさせる。
「「「はっ」」」
三人は共に下がる。
「虎龍さん、明日が初戦になりますけど、準備はできてますか?」
「愚問。載一族はいつでもどこでも戦える殺し屋集団だ。そうだな、弟の二の舞にならぬよう努力はするが」
「え......? それは聞き捨てならないですよ!? 万祝さんは命を賭けて中国に貢献したのに、その言い方はあんまりじゃ......!」
王の感情は暴発する。
「すまんな、言い方を変えよう。我はいずれ万祝の仇を取る。あの『インド最強』を必ず討ち倒してやろう」
万祝は前、バブエ・カルダットと争い、負けた。
その仇討ちに行こうと言うのだ。
「それなら、喜んで!」
王のわんぱくさが戻った。
(なんか凄い人が来ちゃったな......私ももう少し頑張ろっと)
こうしてアメリカと中国の戦が始まるのであった......




