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『シン世界』、日本最強の92歳が全てを斬り伏せるッ!!  作者: のっぽ童子
『各国最強』編

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シゼンニ撃ち勝つ者

「逃げるは恥だが......役に立つかなぁ?」


ジャリッ。

ヴィクトルは足下にあった大きめな石を右手に取ると、敵に背中を向けて走り去っていく。


「ちっ!」


ただ、ガイマスはそれに追いつけない。


(ヴィクトルさん、そりゃないぜ!?)


審判たちも必死になって彼の後ろを走る。


(経験上、フィールドにも限界はある。だが、あそこは使えるな)


彼が目指すその先。

風車である。


数秒後。


ガイマスが風車前まで着く。


「はぁっ......はぁ」


止まれば、息は上がる。


(隠れているな。不意を突く気か。乗ってやる)


ガイマスは勇敢にも風車の中へ足を踏み入れた。


「なっ」


瞬間、ガイマスが驚愕する。

そこにヴィクトルの姿があったからだ。

彼は入口正面にある風車を回すためであろう機械の近くにいた。


「俺は逃げも隠れもしねぇ」


「逃げてはいるだろ」


ガイマスの頬から汗が滴り落ちる。


「早めにやっておいた方がいいんじゃねぇの? なにするか分かんないよ?」


ヴィクトルが煽る。

ガイマスは揺らがない。


「僕の予測の前では誰だって無力さ」


しかし。

彼は前へ突進する。


(ここは観光地だ。出入りを制限するための縄があんだよ)


ヴィクトルは両方が固定された縄を力でちぎる。

その縄に拾った石を巻き付ける。

そして、単純に振り回した。


近くにあった樽や柵を破壊するだけでなく、歯車を狂わせる。

高速で回転する石はガイマスへ直撃する。

しかし、


「多少なりの犠牲は必要」


ガイマスはその石を左で掴んでいた。

その手からは初めての血が垂れる。


「こりゃいいや」


ヴィクトルは引っ張るでもなく、その縄を離した。

そして、右手からなんともう一つの石が現れる。

それを右カーブに投げる。

同時、ヴィクトルが直進。


(石との同タイミングでの攻撃ならば、左を放ってくる。右で掴んで殴る可能性も捨てきれないな)


ガイマスは仁王立ちのまま動かない。


「おらぁ!」


ヴィクトルは石と同じ瞬間に右拳を固める。


(やはり! 掴むか、そのまま来るか!)

「ゴッ......」


突如、ガイマスのへそに電撃のような衝撃が走っていく。

その衝撃はガイマスを狼狽えさせるには十分であった。


彼の予測の範囲へ出ることは......有り得たのだ。

そのヴィクトルの選んだ予測外の選択、それは左のメリケンサックを外し、指の力のみで放つこと。


鉄塊の指弾である。


右拳が来ると確信した瞬間、ガイマスの視界から左手は消えていた。

その僅かな隙を縫った完璧な猛撃。


「掛かったなぁ!」


ヴィクトルの追撃の一手。

それも誰も予想だにしなかった。

右の回し蹴り。

彼は最低でも普通のボクサーではない。


「ぐっ......読めてる」


しかし。

ガイマスは屈み、そこから右の鉄爪を放つ。

避けるのが困難な体勢。

当然、ヴィクトルの腹の肉が裂ける。


「そんなもんなら、いくらでもどうぞ」


ヴィクトルが繰り出す。

ただの右と左の雑な連打だ。

だが、ガイマスの負傷は見た目より大きい。

受け流すのが精一杯である。


いや、投げも難しい状態か。


(掴んだ瞬間、右か左か、はたまた脚、頭も有り得る。

ならば、相手の体力を削る!)


ガイマスは最小限の力を使って、ジャブの応酬を捌ききるつもりだ。


十数秒後。

審判もようやく、観戦しに到着していた。


ただ、時が経てど経てど、ヴィクトルのジャブは緩まない。

それどこか、ますます勢いが増しているようにも見える。


「はぁぅ、はぁ」


ガイマスが先に尽きそうなものである。


(なぜ、弱まらない! 人間はずっと全力を出せるわけじゃないんだぞ! まさか......こいつ)


どうやら、ガイマスは奴のことを予測しかけているようだ。


(ヴィクトルさんに長期戦は通じない、だってあの人は......)


ヴィクトル・ストライプ。

彼はかつて、ロシアの最も寒いとされるオイミャコンで育ったわんぱくな少年であった。

そこではどんなものでも凍る。

魚も、水も、言葉までも。


そんな地域で彼はアスリートを目指した。

しかし、その壁は大きかった。

周りの人間は十年に一人の天才、百年に一人、千年......要は手の届かないほどの才を持つ者ばかり。


彼は挫折した。


だが、ある時、アスリートというものはいつも体調、天候に左右されることに気付く。

天才になれないのならば、天才にないものを補ってやろう。

そう意気込み、ヴィクトルは二五歳の頃から世界中を周るようになった。

世界一暑い場所、磁力のきつい場所、酸素の薄い場所......彼は自身を過酷な環境に置き、かつ慣れさせた。

そして現在、ヴィクトルは三四にしてなににも揺るがされない安定を手に戦っているのだ。


(俺のスタミナは尽きねぇ)


いよいよ、ヴィクトルの拳が軽減されてはいるものの、多少なりとも入るようになってきた。


「ブフッ......」


突如、ガイマスが大量の血を吐いた。

これまでに指弾以外の有効打はない。

すぐにヴィクトルが手を止める。


「なっ!」

(今来るのかよ......?)


オランダ審判は自分の脚を殴った。


「なにか知ってるのか?」


「知ってるもなにもだよ......あいつはな、ハードゲイナーの治療で体に負担させちまってる。だから、もしかしたら寿命はもう少ないかも、と医師に言われたんだ......本人に言えるわけがねぇ......」


審判の茶のズボンがぽつぽつと円状に濡れる。


「そりゃないぜ、神様よ」


アダムは天を見た。


「どうした? なぜ、手を止めた?」


ガイマスは出血を気にせず、訊く。


「いや? なんでもねぇ」

(不調だろうがなんだろうが全力でやるっきゃねぇんだよ。こりゃ、戦争だぜ)


ヴィクトルは壊れた歯車を両拳の中に入れ、行く。

そして、全力で振り抜く。


(体が思うように動かない......? 気のせいだ)


ガイマスは右脚で奴の土台(あし)を崩す。

となれば、ヴィクトルの拳は諸刃となる。

それを狙ってガイマスが腕を掴み、体を後ろに倒してヴィクトルを放り投げる。


「グッ......」


ヴィクトルは木の壁に衝突。

だが、大した損傷にはならない。


「やっぱ、あんたの投げは一味違ぇや。どういう原理だ?」


「冥土の土産に教えてやろう。簡単なことだ。体重(おもさ)と重力(おもさ)を掛け合わせれば、どんなに力がなくともある程度の威力は出せる」


「なるほどなぁ。ま、訊いたところでそういう技術は俺にゃ分からねぇけどな」


減らず口を叩く。


「ガッ......」


瞬間、ガイマスがまたもや大量の血を出した。


(メリケンサックがそこまで効いていたか......)

「来いよ」


ガイマスは自身のことを予測できていなかった。

ヴィクトルの右拳(ジャブ)が飛ぶ。

『千見の明』はその一撃を確実に捉えていた。


「ガフッ......」


しかし。

それは彼の両手をすり抜けて、顔面に激突した。

鼻から血が吹く。


(ガイマス、そろそろ楽にしてやんよ......)


ガイマスは抵抗しようとする。

しかし、手が出る前に殴られる。

ひたすら殴られる。


「っ?」

(あれ......なんで今、殴られてるんだっけ)


彼は困惑していた。

意識が飛びかける。

それでも、血は飛び駆ける。

的確に弱点が射抜かれる。

この拳はヴィクトルらしくない。


油断も、減らず口も、おちゃらけたような言葉も、今の彼にはない。


(もう止めてくれ、ヴィクトルさん! あんただって苦しいはずだ!)


(ガイマス......)


審判は見守ることしかできない。


「あっ......」


それでも、ガイマスは小火にように風に消されそうになりながら、燃え上がろうと相手へ近づいていく。


「......ヴィクトル・ストライプ。嘗めるなっ!」


瞬間、命が燃えた。

ガイマスは貫手を振るう。

冷徹な拳と鉄爪の突きが交わされ合う。


ヴィクトルの体からも、ガイマスのあらゆるところからも、血の滝で溢れかえる。

しかし、その損傷はガイマスの方が激しい。

腕力、肉体の強さ、速さどれをとってもヴィクトルに勝てるはずもない。

ガイマスはそれでもなお、ヴィクトルを攻め続ける。

いや、攻撃することしか頭に残されちゃいないのだ。


「がァァァァ......」


ガイマスの穴という穴から赤い液体が零れる。

その心臓は生きるのを拒否している。


「これが最後の一撃だ。受けてみろよ、なぁ、ガイマスよぉ」


ヴィクトルが左拳を引く。

腕は隆起していた。

放とうとしているのは全力のストレートだ。


「かかってこい......よ」


ガイマスが両手を構える。


(ヴィクトルさん、それで良いのかよ?)


(これがお前の最期なのか)


二人共々、同じ気持ちに陥っているようだった。

瞬間、破壊的なストレートが走る。




だが、その速度は有り得ないほどに遅かった。

数秒してようやく、ガイマスまで辿り着くほどに。


(来なよ、お前の人生を味わってみてぇからよ)


彼はそれを手に取り、体重移動を行う。

これが最期の一撃となるだろう。

ガイマスの最期の一撃は......背負い投げ。


ヴィクトルの体を重々しく背負う。

そして、頭と腕を下げる。


瞬間、脳裏に重い過去と審判との楽しい思い出が泉のように湧いてくる。


心血を注ぎ、魂を燃し、人生とも言える技が今、落とされる!


ドダッ!!!


ヴィクトルは木床に背を向けて、受けた。

防御も抵抗もない。


「まともに受けちまったよ。こりゃ、数日は動けねぇな。流石だぜ、ガイマス」


ガイマスが膝を突く。


「今なら......皆......仲良くして......くれるかな」


幼児の言葉のようだった。

それが進む度に小さくなる。

脈動も同様に。

そして、音もなく静かに横になった。


その頃にはもう、息はなかった。

死んだのだ。

先ほどまでヴィクトルを圧倒していた猛者が今や、眠るような顔で死んだのだ。


「勝者、『ロシア最強』ヴィクトル・ストライプ......!」


アダムが涙をぼろぼろと溢れさせている。

この死闘は終わった。


ガイマス・ルベア・アルフレッド、ここに眠る。



前の話に書いていたガイマスの古きあだ名『白い女性(ウィッテウィーヴェン)』は伝承では悪にも善にもなる存在。

悪の方では夜に旅人の命を奪ったり、人を攫うなどと言った怪異として語り継がれ、その虐めの表面化したものとも言えます。

一方、善の方では人々の助けとして知恵を授けたり予言を与えたとされており、これは『オランダ最強』としてのガイマスを表現していると言っても良いでしょう。


もし、虐めなどなく平和に暮らせていたのなら、また別の終わりを迎えていたのかも知れませんね。


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