↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/89

第7話 転廻

※本作はフィクションです。

作中に登場する「本懐法」その他の法律・制度・行政手続等は作者による創作であり、実在する法律・制度ではありません。

また、実在する人物・団体・事件等とは一切関係ありません。



沼田隆市。

紗奈と、紗奈を殺した沼田果穂を結ぶ接点。


こいつは市内の住宅地に一軒家を持っている。

少なくとも現住所はそうだ。


「ここだな」


今の時刻は13時25分。

住宅街は、昼下がりの静けさに包まれていた。

道を歩く人もほとんどいない。

遠くから、どこかの家のテレビの音がかすかに聞こえる。


「中にいるのか?」


退職したとのことだが……再就職したのか?

状況が状況だけに、この辺りではかなり難しいはずだが。

小さな市だ。

噂はすぐに広まるだろう。


「どうする?白昼堂々、乗り込むか?」


誰も聞いていないのに、独り言がついつい出てしまう。

ハンドルを握る手は、手汗でベタベタになっている。


(どうするべきだろうか……今、とりあえずインターホンだけ押すか?)


外から伺った様子では、中に人がいるかはわからない。

こちらから見える全ての窓は、カーテンが閉じられている。

カーテンが揺れる様子もない。


「インターホンだけ押して、反応を見てみるか……」


意を決して車から出る。

沼田家は、周囲の家と何も変わらない一軒家だった。

庭も荒れてはいない。郵便物が溜まっている様子もない。

それなのに、人が住んでいる気配だけがなかった。

家のインターホンを押して反応を確かめる。


──物音は聞こえない。


もう一度押す。


「すいません!電力会社の者です!点検に伺いました!」


もちろん嘘だ。

これくらいなら……まぁ、別に問題ないだろ。


──反応はない。


(いないのか?)


嘘をついて釣り出そうとしたが、どうやら不在らしい。


(どこに行った?)


「いないかぁ……隣近所に聞いてみるか?」


(しかし、狭い街だ。近所付き合いはおそらくある。そう考えると、なにか情報が得られるかも?)


確かに本懐法には第25条に妨害行為を禁じる条文がある。


(それでも直接的な妨害だけだ。情報を忘れたふりをすることまで妨害とは言いにくい。拡大解釈すぎる)


話半分。

当てになる話が聞けるかは不明。


(少し、時間を空けて様子を見に来るか?)


俺はまた日が暮れてから、ここに戻ってくることにして、一度その場を離れた。


それまでの時間を潰す間、俺はとりあえず道具の準備をする。

刺す、にしても自分の家の包丁は嫌だ。

家に帰ってから、その包丁で食事の準備をしようとは思えない。

新しく買うことにする。


だが、何度も刺すわけにはいかない。


(遺体の損壊はダメだ。息の根を止めるまで。そこまでだ)


郊外の大型ホームセンターに向かう。

店内では、家族連れが楽しそうに商品を眺めていた。

園芸用品の前では、老夫婦が何かを相談している。

子供が走り回り、店員がそれを注意している。

その中を、俺は人を殺すための道具を買いに歩いていた。

目当てのものを見つけてレジに向かい、ポイントカードを出すのも忘れない。


「まさかなぁ、日用品以外でここの世話になるとは思わなかった」


(経費精算のときってポイント記載のレシートでもよかったかな?)


条文の細かな記載が気になり、車の中で条文を調べる。


「しかし、やることがないな」


昼寝、という気分でもない。

仕方がなく、スマホを取り出して動画を見漁る。


「うん。仕事中と変わらんな」


暇な部署。

やることのない日常。

本懐の実行者になっても、やってることはいつもと変わらない。

それがとても可笑しかった。


(はぁ……なにやってんだろ。俺)


気分の浮き沈みが激しくなるが、時間が過ぎるのはいつも通り遅い。


日暮れまでまだ時間はある。


(早いけど、戻ってみるか)


沼田の家に戻ったが、変化はない。

仕方がなく、道行く人に尋ねてみる。


「すみません。ちょっとお聞きしたいんですけど」

「え?」

「あちらのお宅の方って、いつ頃お帰りになるのかな?って。あ、僕、沼田さんの前の会社で同僚だったんですけど、どうしてるか気になって……」


沼田の家を指さして聞く。

年配の女性、買い物帰りだろうか。

呼び止められて多少不機嫌そうだ。


「さぁ?ちょっとわからないですね」

「あー、そうなんですか」

「最近見てないよ、沼田さん。ずっと前から」

「え?ずっと帰ってないんですか?」

「んー、帰ってないかはわからないけど、結構前から顔は見てない、かなぁ?」

「え?」


晶は思わず聞き返した。


「ずっと前って……どれくらいですか?」

「さぁ……半年くらいじゃない?」

「半年……」

「奥さんも一緒に見なくなったねぇ」

「……奥さんも?」

「うん、そう。二人とも」


女性はそう言って、買い物袋を持ち直した。


「仲良かったんだけどねぇ。最近は全然見ないよ。居づらいんじゃないの?事件があったでしょう?」

「……そうですか」


晶は沼田家を見た。

閉じられたカーテン。 人気のない家。


(じゃあ、二人ともどこにいる?)


半年………

事件後、しばらくしてから。

公判中だったはずだ。

少なくとも、自由に長期間出歩ける状況ではなかったはず。

海外は、可能性としてなくもない。

だが、薄いな。

半年も近所に姿を見せていない。


「すみません。ありがとうございます。一旦会社に戻って確認してみます」


頭を下げて車に戻る。


ホテル?

いや、半年も連泊できるか?

いい辞め方じゃなかったはずだ。

貯金を潰せばいけるのか?


果穂は専業主婦って公判では言っていた。

つまり資金は隆市側だ。

生活資金でモメる夫婦が連泊?


──考えにくいな。


「裁判に出廷できる場所にはいるはずだ。そう考えるのが、今のところは自然か……」


ひとまず、この場は離れよう。

暗くなってから、明かりがつくかを確かめに来たほうがいいな。


それまでは離れて、沼田夫妻の情報の開示を求める場所を探してみよう。


役所か……時間的に厳しいな。

時間通りに閉まる。

到着する頃には、時間外だ。


本当に帰っていないのなら、この役所は明日になる。


「そうなると、面倒なんだけどなぁ」


そう言い残して、一度その場を離れた。


──その夜。

22時頃から再び沼田家が見える位置に車を停める。

この時間になると、住宅街から人の気配が消えていた。

街灯だけが一定の間隔で道路を照らしている。


沼田家の窓は、相変わらず暗い。


23時。

0時。

1時。


時計を見るたび、数字だけが進んでいく。

2時を過ぎても、何も変わらなかった。


「ホントにいねぇの?」


そのまま時間は過ぎて、3時頃まで様子を見ていたが、明かりがつくことはなかった。


張り込みの途中、不審者として警察を呼ばれたが、認定証を見せると静かに立ち去った。


「本懐の申請者ですか?」

「はい。認定証もあります」


警察官は認定証を確認すると、しばらく黙っていた。


「……対象者の自宅ですか?」

「はい」

「わかりました。ただ、近隣から通報が入っていますので、長時間の滞在は控えてください」

「分かりました」


それだけだった。


「じゃあ、最後にこれだけ」


最後に深夜とわかっていてインターホンを鳴らす。

中にいるなら反応があるはず。

迷惑行為だからな。


──反応はないな。


「仕方ない。明日か」


一度ここを離れよう。

明日出直しにして、沼田果穂に関して調べてみよう。


「今日はもう遅いしな。ホテル、空いてるか?」


この日は結局マンガ喫茶で夜を明かすことになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。