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2026年7月1日 AM10:56

朝食を食べ終わったけれど、すぐには次の行動に移れなかった。

現実への解像度が上がって、得体のしれない恐怖を感じることはなくなってきたけれど、今度は情報量が多すぎて、思考が前に進まなくなってしまう。


時計を見る。

AM10:56。

時間だけは勝手に進んで行ってしまうことが、今はありがたく思える。

時間で行動を区切らないと、何もできなくなってしまいそうだったから。


11時になったら次の行動に移ろう。

そう決めて、何をしたいか、何ができるかを考える。

まずお皿を洗おう、これはやるべきことだ。

制服も着替えてしまおう、少なくとも今日はもう、制服を着ている必要はない。

思えばすごく汗をかいていたから、今更になってその不快感が気になってきた。

いっそのことシャワーも浴びてしまおう。


今日初めて、先の予定が”普通のこと”で埋まった気がする。

お皿を洗って、体も洗って、新しい服に着替えよう。

そうやって、昨日までの普段を、今日からの普段に繋いでいくのだと思った。



AM11:00になる。

「よしっ」

と、立ち上がる。


油物がないので、食器類はすぐに洗い終わった。

水切りかごに洗った食器を立てる。

シンクの手前にかけてあるタオルで手を拭う。


朝1度目に帰宅したときからリビングに置きっぱなしにしていた鞄をもって自分の部屋へ戻る。

ベッドの上に、乱雑に散らかった部屋着を見て、今朝のことを思い返す。


「私、取り乱してたんだなぁ。」

今も、頭の中は混乱し続けているけれど、思考は随分と落ち着いていると思う。

認識している事象は、"両親がどこにいるかわからない"から、"少なくともこの国の人間の大多数が失踪した"にグレードアップしているはずなのに、事態が大きすぎて逆に冷静になってしまったのだろうか。

私の中で、"両親が失踪した"ことが事実として認識されたことで、"両親がどこかにいるかもしれない"という期待を抱かなくなっていた。

わずか4時間の間に。


期待をしなければ、冷静でいられるのだなと思った。


カバンを置いて、部屋着を回収して、チェストから新しい下着を取り出す。

換えの衣類を持って浴室へ向かう。


脱衣所で着ているものを脱ぐ。

汗で濡れたシャツと下着を洗濯機に入れようとして、昨日の洗濯物がまだそのまま残されていることに気づいた。


「お母さん、今朝は洗濯できなかったもんね。」

洗濯機の中には、昨晩入れたであろう両親の衣類も残されている。

昨晩までは、両親が確かにここにいたのだということを実感する。

もう取り乱しはしないが、代わりに、具体的な喪失感が迫ってくる。


いけない、弱気になるな。

私は、だいじょうぶだ。


浴室に入って、シャワーを出す。

汗をかいたまま冷房の効いた部屋にいたことで、自分の身体が思ったよりも冷えていたようだった。

温かいお湯が肌を伝って流れていくのが心地よい。


まずは腰くらいまで伸ばしている長い髪を洗う。

髪を伸ばしたのは母の影響だった。

私は幼い頃からずっと、母の長い髪を綺麗だなと思っていて、母のようにしたいと髪を伸ばしている。

母自身は、私が中学に上がった頃に短くしてしまったのだけれど。

「もうおばさんなんだから、短くていいんだよ」

って、母は笑っていたけれど、私はもったいないなと思ったことを思い出していた。


ボディソープを取って身体を洗う。

自宅の浴室には小さなスリガラスの窓があるだけだから、こうして身体を洗うことに集中していると外界との接点がなくなる。

昨日までの"普段"が色濃くなって、私は束の間、今日これまでの出来事から離れられたような気がした。

次回は8/10(月)の13:00頃に更新予定です。

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