2026年7月6日 AM その2
ご飯を食べ終えて、洗い物をして、早速今日1つ目の仕事にとりかかることにする。
玄関の下足箱から、母が草むしりなどのためにまとめ買いしていた軍手を取り出す。
帽子を被って、靴を履く。
ドアを開けて、玄関をくぐる。
昨日とは打って変わって、夏らしい青空が広がっていた。
昨夜の早いうちには雨は上がっていたようで、路面はほとんど乾いていた。
ドアを閉めて、鍵を閉めて、軍手を着ける。
裏の井上さんのお宅にお邪魔して、倉庫からショベルをお借りした。
「どうやって持つのが持ちやすいんだろう、肩に担ぐ?」
気分は土方のお兄さんだ。
…ものすごく似合っていない気がする。
ゴミ捨て場所の候補として目星をつけていたのは、陸橋越えて、更に南に少し進んだところにある広い空き地だった。
宅地にしたら戸建て住宅5棟分くらいになりそうな土地で、おそらく売り時を待っていたのだろうと思われる。
自宅からは、およそ200mくらい離れている。
近くの都市河川は北から南に向かって流れていて、もし今後、例えば川の水を利用することがあっても、自宅周辺には影響がないはずだ。
土地もわずかに北から南に傾斜しているから、畑への影響もないだろう。
井戸水への影響まではわからないけれど、これ以上遠いと流石に不便だと思うし、判断材料にも乏しいので、今は考えないことにする。
区画整理された土地なので、道路面から60cmくらい盛土がされている。
「とりあえず道路の高さくらいまで掘ればいいかな?」
そう決めて、少し奥に入ったところにショベルを突き立てた。
「んっ!これは、思ってたより、重労働…!」
そもそもショベル自体がそれなりの重量なのに、そこに土を乗せて持ち上げなければならない。
少し湿り気が残っている土は、柔らかくてショベルを入れやすいのは良いけれど、重量はましているはずだから、それも負担の要因なのかもしれない。
時刻はまだAM7時を過ぎたあたりだけれど、日差しは強くて、気温もかなり上がってきている。
吹き出す汗を拭いながら、とにかく黙々と掘っていく。
生まれてからこの方、幼少期に砂場で小さなスコップを使って穴を掘ったことくらいはあったけれど、大きなショベルを使って本格的に穴を掘ったことはなかったから、新鮮な体験ではある。
「うぬぅ…っ!」
思わず変な声が出てしまう。
まだ思い描いていた穴の半分も掘れていないけれど、もう腕がパンパンだ。
「くぅぅ…ふぁ!!」
最後はもう、最初の頃の半分も土を載せられなかった。
土を持ち上げて掻き出すのが、穴が深くなるほど大変なのだということがよく分かった。
何とか穴の外に土を掻き出して、ショベルを地面に突き立てる。
「だめだ、もう、むりぃ…」
突き立てたショベルの持ち手に手をついて、もたれかかる。
肩で息をしながら、服の袖で汗を拭ってしまう。
「…タオル、持ってこないとダメだったぁ…」
我ながら、気が利かなかったなぁと思った。
しばらく休むと、段々と呼吸が整ってくる。
「仕事って、大変なんだ。」
土木にしろ農業にしろ、こんなに大変なことを誰かがやっていてくれたのだと思うと、本当に頭が下がる。
同時に、現代日本の女子高校生の非力さを改めて痛感する。
「全然不十分だと思うけど、まずは、一旦これで…」
深さは大体40㎝くらいだろうか?
広さはようやく、45Lのゴミ袋が4袋くらい入るかどうかといったところだ。
深さも広さも、当初考えていたレベルには全然届いていないけれど、ひとまず物を入れてみて考えることにする。
「とりあえず、ごみ袋を取りに戻ろう。」
そう思って、一旦穴から出る。
ショベルも穴から引き揚げて、一旦穴の周りに掻き出した土の山にもたれかけさせておく。
家までの道を引き返す。
来た時よりもなんだか長く感じるのは、きっと疲労のせいだろうか。
「朝からこんな調子で、大丈夫か、私…」
そんなことを考えながらふと見上げた先、青い空に、白い雲が浮かんでいる。
ここ数日、当たり前のようにあった黒い筋は、今では遠くに幾筋か見える程度になった。
世界には、平穏が戻ろうとしているように見えるのに、私の生活は、まだまだ前途多難なようだった。




