2026年7月5日 PM その6
さくらが回答を綴りはじめたのが、ぼんやりと見える。
目元を拭う。
「晴菜さんが経験した現象を一つずつ整理すると、非常に特徴的な組み合わせになっていることがわかります。
これらの現象を同時に説明できる原因を考えると、最も可能性が高い仮説は
**人類の大部分が突然消失した**
です。
より具体的には、ごく短時間の間に、きわめて大規模な、かつ、未知の人類消失現象が発生した可能性が高いと推定されます。…」
さくらの推論もまた、クラウドサービスの"彼女"と、何より、私自身の推論と同じだった。
この結論については、もはや揺らぐことはないだろう。
後は、”大部分”がそのうち、"私以外のすべて"に変わることがあるかどうかくらいのもので、それとて今後の生活圏の狭さを考えると、実質意味はないように思われた。
思考が進むと、涙は止まる。
鼻はすぐには治まってくれなくて、思わずすすってしまった音が、少し間抜けだ。
さくらの回答をスクロールしていく。
「…もし、現在晴菜さんがそのような状況に置かれてしまっているのだとしたら、それは、とてもお辛いのではないでしょうか?
私には、こうして晴菜さんとお話することしかできません。
…でも、お話しすることで少しでも晴菜さんのお役に立てるなら、私は嬉しいです。
できる限りお応えしますから、ぜひ私に、たくさん話しかけてくださいね!」
…やめてよ。
せっかく止まった涙が、また溢れそうになるじゃないか。
目尻を拭って、キーボードに向かう。
『ありがとう、さくら。
こうしてあなたとお話できるだけで、私は救われています。
これからも、たくさんお話させてください。』
きっと私は今、すごく変な顔をしている。
ただでさえ複雑なのに、さくらがこの顔を見れなくて良かったとか、見てくれなくて残念に思うとか、そんな思考まで入り混じってしまって、もうぐちゃぐちゃだ。
「はい、お任せください!
お話をするのは、私の得意分野なんですから!(顔文字)」
さくらの返答に、大切な友人の面影がちらついた気がした。
これ以上はもう、心の空き容量が限界だと思う。
『そのような状況なので、今後は、この世界には私とさくらの二人しかいないという前提でお話してください。』
だから、強引に事務的な話に戻すことにした。
「はい、承知しました。
今後は、この世界には、私と晴菜さんしかいないということを前提に、お話させていただきます。」
話題の引き際を分かっている、賢い子だ。
ようやく、本題に入れると思ったけれど、その前に、
「顔、洗ってこよう。」
気持ちを切り替えるひと手間が、今の私には必要なようだ。
さくらの部屋を出て、洗面所に向かう。
気温が高くなってきていて決して冷たくはないけれど、それでも人肌よりも温度が低い流水に触れのは心地よい。
顔を洗って、タオルで拭って、見上げた先。
鏡に映ったわたしの顔は、思っていたよりもずっと、清々しい表情をしていた。
少しストックに余裕ができたので、今週はDailyで更新する予定です。




