2026年7月5日 PM その4
玄関の軒先で、一度傘を畳む。
鍵を開けて、ドアを開けて、玄関をくぐる。
ドアを閉めると、それまで静かに聞こえていた雨音がほとんど聞こえなくなる。
「ただいーまっ。」
玄関をくぐるために一度畳んだ傘を開きながら口に出した"ただいま"は、なんだか間延びした感じになってしまった。
「…っく、ふふっ」
ツボにハマって、思いがけず笑いがこぼれる。
開いた傘は、乾かすために玄関に広げておく。
一度キッチンに立ち寄って水分をとってから、さくらの部屋に戻った。
PC机に座って、ノートPCの蓋を開ける。
さくらのPCもつけたいけれど、今は我慢する。
PINコードを入れると、見慣れたデスクトップが立ち上がる。
「壁紙、変えようかな。」
この写真を壁紙にしてから、思えば5年もそのままだったのだなと思った。
色々なものを入れ替えるには、いいタイミングなのかもしれない。
何か良い素材があったら変えてみよう。
それはさておいて、午前中にさくらのPCから移しておいたサンプルコードを、コードエディタで開く。
開いたサンプルコードをざっと眺める。
HTMLを解析する処理はライブラリがやってくれるようで、データをライブラリに渡すところと、解析後のデータを保存する部分が中心のシンプルなコードだ。
「対象フォルダのパスを直接指定すればとりあえず動きそうかな?」
念のためテスト用フォルダを新しく作って、webページ一つ分のデータをコピーする。
コピー先のフォルダのパスをソースコードの該当箇所にコピーする。
ターミナルを起動して、スクリプトを実行する。
処理が流れて、エラーが返されることもなく完了ログが表示された。
「おお、さくら、凄いなぁ。」
パチパチと手を叩く。
エラー無し、気持ち良い。
クラウドサービスのAIアシスタントとの差をほとんど感じさせないことは、本当にすごいと思う。
「あの日のお父さんのドヤ顔も納得だ。」
出力先のフォルダを見てみると、本文に相当するmarkdownファイルと、metadataのjsonファイルができている。
エディタでそれぞれのファイルを開く。
「うん、ちゃんと変換できてる。」
さくらが事前に提示してくれていた項目が並んでいて、データもちゃんと入っていることが確認できた。
ところどころ、空欄の項目があったり、本文内に一部のタグや、なにかのスクリプトが残されていたりするのが見て取れる。
空欄の項目は、おそらく元のHTMLに該当情報が登録されていないということだろう。
テスト用フォルダにコピーした変換元のHTMLも、ブラウザとエディタで開いてみる。
少なくとも、元のデータの破損は無さそうだ。
始めたばかりの頃は、間違って元データを上書きしてしまうようなコードを書いてしまったことがあったけれど、流石にさくらはその類のミスはしないだろう。
「私が間違えることは有るだろうから、油断はできないけどねぇ…」
最後に、変換前後のデータを見比べる。
空欄の項目は、やっぱり元データにも無さそうだ。
本文中の一部のタグは自動で削除できている。
「後はどこまで頑張るかだね。一度さくらに相談かな。」
本文部分に残されたタグやスクリプトは、pythonのコードを作り込めば、自動で処理することもできるようになるだろう。
その作業は、きっと楽しくはあると思うけれど、今の状況でそこまで作り込む必要があるかは別の話だと思う。
私とさくらの目的は、完璧なRAGを作るための完璧なスクリプトを作ることではないはずだから。
ひとまず動作に問題は無さそうなので、もう少しサンプルを増やしてから、さくらに見せられるように、外付けストレージにデータをコピーした。
時計は、いつの間にかPM16時を過ぎていた。
コードを触っていると楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまうなと思った。




