2026年7月5日 PM その2
しばらくそのまま外を眺めていたけれど、思考はそれ以上進まなかった。
諦めて、カーテンを引く。
部屋の中に目を向けると、LED照明の明かりが満ちた、自宅のリビングがある。
今日の我が家は、私の心に優しい。
日によって、自宅の中ですら表情を変えるのが不思議だ。
「…違うなぁ。変わっているのは、きっと私の心の方だ。」
一番の疑問ではないけれど、別の疑問だとしても一つ仮説がたって、少し頭がクリアになる。
それに、
「以前だって、よくわからなくても怖いと思う時はあった気がするから、案外、そんなものなのかもしれない…」
人の心は、複雑で、繊細で、そんなことに気付かなくてもよい程度には、従前の私は幸福で、満たされていたのかもしれない。
「さて、そろそろいい時間かな!」
気持ちを切り替えて、キッチンに戻る。
タイマーを確認すると、煮込み始めてから35分が経とうとしていた。
用意していたカレールーを開封する。
お母さんはいつも2種類のルーを入れていた。
当然、我が家の在庫もその2種類だから、同じように半分ずつ入れられるように準備しておく。
タイマーが40分たったことを告げたので、鍋のふたを開けて、ルーを投入する。
おたまでゆっくりかき混ぜながら煮込むと、いつもの、お母さんのカレーの香りが漂ってくる。
我ながらおいしそうにできたのと、時刻がPM1:30を過ぎようとしていて本当にお腹が空いていたから、お腹がぎゅ~っとなった。
先ほどまでの悩みなんて忘れてしまうくらいに嬉しくなって、頬が緩んでくるのがわかる。
とろみが十分ついてきたので、火を止める。
冷凍庫から、先日冷凍してあったご飯を取り出して、電子レンジで解凍する。
カレー皿に解凍したご飯を移して、上からカレーをたっぷりかけた。
ダイニングテーブルに食器を運ぶ。
席について、手を合わせて、
「いただきます!」
スプーンで掬って、最初の一口を頬張る。
…おいしい!
美味しくて、手が止まらなかった。
「お母さんのカレーの味だぁ…」
ルーが同じなのだから、当たり前。
当たり前なのだけれど、嬉しい。
こんなに近くにあったんだなと思った。
そのきっかけを、さくらが見つけてくれたのが、嬉しい。
「お母さんの味、第一号だね。」
スーパーで簡単に買えるメジャーなルーだから、今度スーパーへ買い出し…調達に行った時には、多めに確保しておこう。
他のメニューはまだまだ難しいけれど、目標に向けて、一歩前進。
お腹が満たされて、心が満たされて。
少なくとも今、この時間は、あぁ、幸せだなって思えた。
…きっとまた、夜になれば不安になる。
ふとしたきっかけで、この家の中でさえ、怖さを感じることも、きっとある。
それが何故なのかは、今はわからないし、今後もわからないのかもしれない。
それは、この生活を続けていく以上、いつまでも消えることはないのだろうけれど。
でも、少しずつでも、こんな幸せな時間を重ねていければ、私はなんとか、私のままでいられるかもしれない。




