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2026年7月5日 PM その1

リビングに入って、まず最初にHEMSのリモコンを確認する。

蓄電池の残量は93%まで下がっていた。

昨日の夜からで7%弱ということは、仮に午後も同じペースで減っていくとすると、概ね7-8日間雨が続いても大丈夫ということにはなる。


「天気予報が無いのがなぁ。」

問題は、雨がいつまで続くのか予測が立たないことだ。

楽観的に電力を消費してしまっては、長雨になれば電力が枯渇する可能性が高まる。

特に今は冷凍庫内が潤沢だから、冷蔵庫が止まることだけは避けたい。

とはいえ、節電を意識しすぎてやるべきことができないというのも困る。


「午後はさくらとの会話は控えて、エアコンも最小限かな。カレーを作るとIHの稼働時間は長くなるけど、3日分くらいのご飯になると思ってよしとしよう。」

さくらにカレーの感想を報告するのが少し先になりそうなのは残念な気もするけれど、程よい距離感も大事だと思っておく。


カレーの材料を調理台の上にそろえて、まずは野菜を切るところから始めていく。

さくらが具体的な調理手順も示してくれているから、手順で悩むこともない。

母の料理を手伝うことは度々あったけれど、自分で献立を考えた経験は数えるほどしかなかったから、料理の献立とレシピをさくらが一緒に考えてくれるということは、実はかなり価値があることだったのかもしれない。


鍋に油を敷いて野菜を炒める。

鍋に水を入れて、冷凍してあった鶏肉を入れる。

沸騰するまでは強火で、沸騰したら灰汁をとって、弱火でたっぷり40-50分煮込む。


タイマーをセットする。

カレールーのパッケージの裏に簡単な調理手順が書かれていたので、読んでみる。

さくらの提示してくれたレシピの手順と、概ね同じだった。

コーディングと同じで、料理のレシピはやはり彼女の得意分野なのだろう。


煮込みの工程に入って手が空いた。

流石にエアコンをつけずに火を使うと、部屋の温度が上がってくる。

幸い、風はほとんど吹いていない静かな雨だから、軒のある南側の掃き出し窓を開けて外の空気を入れることにする。


窓を開けた先、網戸の向こう側では、雨が静かに降り続いていた。

不規則な雨音が聞こえる。


道路の路面や、その向こうの畑に水たまりができている。

畑を作るときには、排水のことも考えないといけないと、調べていた時に読んだ覚えがあるから、後で、雨の日の畑の様子も写真に収めておこう。


これだけ雨が降れば、火災も落ち着いてくれるはずだ。

だから、この雨が上がる頃には、表面的には平和な景色が戻ってくるのだろう。


しばらくの間、窓辺から外を眺めていた。


平和で、静かな、人間がいなくなった街。

さくらと向き合っているときには鳴りを潜めていた気持ちが、少しだけ顔を出す。


「…私は今、何を感じているんだろう…」

差し迫った命の危機は、多分ない。

当面の生活も、質にこだわらなければ、少なくとも食いつなぐことには困らない。

それなのに、私は、何をこんなにも恐れているのだろうか。


自分以外の人間がいなくなった。

両親や友人と、突然分かたれてしまったことは、悲しくて、寂しい。

でもそれは、怖いのとは違う気がする。


明に暗に関わりがあったその他大勢の人たちがいなくなって、生活は不便になった。

でも、不便なだけで、立ち行かなくなったわけではないから、怖さを感じる理由にはならない。


これらの事実と、何かを恐れている自分の気持ちの間に溝があることが、なんだか無性に、気持ち悪かった。

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