挿話一 とある女子中学生は高嶺の花に焦がれる
「新入生代表、有島晴菜さん。」
「はい。」
凛とした、よく通る声だった。
その場にいた全員の視線が、一斉にその声の主に引きつけられたと感じたのは、きっと私の気のせいではないだろう。
スラリと伸びた長身。
演台に向けて颯爽と歩いていく後ろ姿はまっすぐで、一本にまとめられた長く艷やかな黒髪が、歩みに合わせてしなやかに揺れている。
ちんちくりんな私と違って、真新しい制服も自然な着こなしで、上級生だと紹介されても素直に信じてしまうだろう。
演台に立つと、整った顔がこちらを向く。
原稿に目を落とさず、まっすぐに聴衆を見つめながら、流暢に新入学の喜びと感謝を紡いでいくその姿に、私は、心を奪われてしまった。
それが、私、山科美月が、有島晴菜を認識した最初の機会だった。
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「ねえねえ夏帆ちゃん、有島さんって、どんな子?小学校同じだよね?」
入学式のあと、最初のホームルームが終わってすぐ、後ろの席の吉田さんに話しかける。
丸みを帯びた眼鏡がよく似合う子で、文学少女って感じがする。
「晴菜ちゃん?んー…真面目で、気さくで、頭がよくて、運動もできて、あと、すごく良い人。」
「…おまけに美人。完璧超人じゃん。」
思わずため息をついて、天井を仰いだ。
そんな私をみて、吉田さんがクスクスと笑っている。
「山科さん、面白いね。まあでも、気持ちはわかるかなぁ。今日もかっこよかったし。」
吉田さんの視線が動いたので、私もそちらに視線を向ける。
教室の左前方に、有島さんが座っている。
配布されたばかりの教科書を、どこか真剣な顔で捲っている姿も様になっていた。
いやそもそも、入学式の日に周りの子たちに話しかけもせず、もらった教科書を読み出すってところが普通じゃない気がする。
先程のホームルームでの自己紹介を思い出す。
「有島晴菜です。
先程の入学式は緊張してしまっていたので、上手く挨拶できていたか心配です。
最近興味があるのはpythonを使ったソフト制作で、父と一緒に簡単なアプリを作ったりしています。
アニメやゲームも好きなインドア派ですが、運動も好きなので、部活はバスケットボール部に入ろうと思っています。
みなさん、よろしくお願いします。」
趣味がソフト制作ってなんだよ、とか、インドア派なのに運動部なんかい、とか、あれで緊張してたの?、とか、ツッコミどころがたくさんある隙のない自己紹介だ。
「…人生2周目なのかな?」
私のつぶやきに、吉田さんが今度はプッと吹き出す。
「山科さん、やっぱり面白い。」
「ありがと!美月で良いよ、ミッキーでも可!」
吉田さんが、これまたアハハと笑う。
よく笑ってくれるいい人だ。
「分かった、美月ちゃん。
うん、それもわかるなぁ、なんか、達観してるんだよね、晴菜ちゃん。
小学校の頃の休み時間もね、誘ったらドッヂボールとか一緒にやってくれるし、晴菜ちゃんも楽しそうだったんだけど、なんか子どもの遊びに付き合わせちゃ悪いな、みたいな、そんな感じになっちゃったりで。」
いきなりミッキーには到達しなかったかぁ。
どうやら、吉田さんは見た目通りの控えめな女の子のようだ。
しかし、なるほど。
「これが俗に言う、高嶺の花ってやつですかなぁ。」
「同意するけど、美月ちゃんは美月ちゃんで面白い表現するね。見た目によらず読書家と見た。」
「えぇー、見た目によらずってどーいうこと!?本が好きなのは事実だけど!」
さっき自分も吉田さんを見た目で判断してしまっていたことは棚に上げて、ちょっと大げさにむくれておく。
「ごめん、今のは私が悪かった。人を見た目で判断するのは良くない。でもね、美月ちゃんがすごくかわいいってことだから、悪意はないから!私も本が好きだから、うれしくて!」
吉田さんがアワアワしてしまう。
ちょっと突っ込みすぎたかもしれない、反省。
「わかればよろしい。
まあでも、私も見た目によらない自覚あるし、気にしないで!
後ろの席が夏帆ちゃんで良かった。
よかったらおすすめの本紹介してよ!」
そう言って笑顔で右手を差し出す。
「うん。ありがとう。
美月ちゃんの好きな本も教えて欲しい。」
吉田さんがホッとした顔をして、手を取ってくれる。
中学校初日、正直不安だったけれど、後ろの席の子が、趣味の合いそうな子で良かった。
そして何より、この教室には高嶺の花が一輪、咲いている。
彼女とも仲良くなれるといいなって、そんなことを思いながら、もう一度その姿を眺めた。
先程独立短編として投稿したものと全く同じ内容です。
当初は本編に組み込むのは難しいと思っていたのですが、なんか上手くつながってしまったので、本編に関連する挿話としてエピソードに加えました。




