2026年7月1日 AM9:15
「ただいまぁ!」
正直、もう期待はしていないと思っていたけれど、家の玄関をあけたら、いつもより大きな声を出さずにはいられなかった。
それでもやっぱり返事はなくて、そのことがまた、容赦のない現実を突きつけてくる。
リビングに入って、照明をつけて、冷房をつけて、カバンを置く。
いつもは落ち着くリビングなのに、今はどうしようもなく不安を煽ってくる。
今朝と変わらず、時計の音だけが大きく聞こえる。
仰ぎ見た時計は、AM9:15を指している。
投げやりな気持ちで、とりあえずテレビをつけてみる。
この時間帯は多くの局が朝の情報番組を生放送しているはずだ。
だけど…
チャネルを変えてみる。
思った通り、生放送の番組を放送しているはずのチャネルはデータなしとなっていて、録画番組だけが"平常通り"放送されていた。
そのことには、もはや気味の悪さも感じなくなっていた。
生放送の番組が放送されていないことは、私にとってはもう”知っていたこと”なのだなと思った。
現実の解像度があがっている。
テレビを消して、崩れるようにソファにもたれかかる。
無性にのどが渇いて、飲みかけのペットボトルの水を飲みほした。
考えるべきことはたくさんある。
優先順位をつけないと。
今日見た出来事を改めて考えようとするとめまいがするけれど、両親にも、他の誰にも頼ることは出来ないのだ。
自分1人で、なんとかするしかない。
考えろ、考えろ…
まずはとにかく安全確保が最優先で、今の時点で最大の脅威は火災だと思う。
黒煙が上がっている場所はどれもそれなりに遠くに見えたけれど、消防活動が全く行われない状態だといったいどこまで燃え広がるのかがわからない。
それに、近隣の住居から新たに出火する可能性もあるかもしれない。
なにより、事故を起こしている車が、ここから駅までに向かう間ですら何台かあったのだ。
動いていた車は、みなおそらくどこかにスタックしている状態だと思うけれど、先程の経験でエンジンが停止するまでは、何かのきっかけでまた動きはじめてしまうこともあるとわかった。
どこかにぶつかった衝撃でガソリンが漏れていたりしたら、そこから出火してしまうこともあるのかもしれない。
まずはこの家にとどまっても火災に巻き込まれる危険性がないかどうか、それだけでも確認しよう。
そうと決めたら、もう少しだけ頑張れる気がした。
解決できないことを考え続けるよりも、解決できるかもしれないことを考える方が心が落ち着く。
何よりも、今ここで死んでしまうのは嫌だなと思う。
まだのどが渇いている気がして、冷蔵庫のお茶をお気に入りのカップに注いで、一気に飲み干した。
「そういえば、朝ご飯食べてないな…」
そんなことを思ったけれど、今ここでゆっくり食事をする気にはなれなかった。
時計を見る。
時刻はAM9:38。
鞄から鍵を取り出す。
冷房は消さない。
靴を履いて、家を出て、鍵を閉める。
歩き出してからふと、今回は「いってきます」と言わなかったなと思った。
ep1-2の表現を大幅に見直しています。
ご興味があれば読み返してみてください。
次回投稿は8/6(火) 0:30を予定しています。
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