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2026年7月4日 PM その4

両親の寝室を抜けて、掃き出し窓を開けて、ベランダに出る。

改めて外に出ると、強烈な日差しと熱気に迎えられる。

朝出かける前に干しておいた洗濯物は、すっかり乾いていた。


手早く取り込んで、掃き出し窓を閉めた。

エアコンをつけていない両親の寝室には熱気がこもっていて、とても長居はできそうにない。

洗濯物を持って、そそくさと自室に向かう。


自室もエアコンをつけていなかったので、同じく暑かった。

とりあえずエアコンをつける。

ボタンを押すだけで、すぐに冷たい風がでてくることのありがたみを噛みしめる。


「エアコンが全部壊れてしまったら、私、夏を乗り切れる気がしない…」

20年なんて贅沢は言わないから、せめて15年くらいは保ってほしい。

その間に、何か夏を乗り切る手段を考えよう…


2-3分も経つと、部屋が涼しくなってくる。

ベッドの縁に座って、洗濯物を畳んでいく。

部屋は涼しくなってきても、洗濯物はまだ熱気を帯びたままだった。

涼しくなってきた部屋で感じる衣類の温かみは、なんだか懐かしい感じがして、少しほっとする。


立ち上がって、畳んだ洗濯物をしまっていく。

最後に、壁にかけたままだったハンガーを手に取る。

シワにならないように伸ばしてから、セーラー服とプリーツスカートをハンガーにかける。


「卒業、2年も早まっちゃったよ。」

普通の高校生だった頃の私をしまって、クローゼットの扉を閉めた。


「今度、卒業式でもしようかなあ。」

そんなことをつぶやきながら、机に向かって、ノートPCの蓋を開ける。

昨日のままのデスクトップが立ち上がる。


「そういえば、スリープのままにしてたわ。電力の無駄遣いね…」

細かいことだけれど、今後は、使わない時は電源を切るようにしようと思う。


「使わない家電も、電源コード自体を抜いておこう。」

例えば、テレビとか。

もう、つける機会もないだろうから。


ノートPCの画面に思考を戻す。

昨日、そのまま蓋を閉じてスリープにしていたから、昨日のままのデスクトップが映し出されている。


「サーバからの応答がありません。しばらく時間をおいて、接続を確認してみてください」

AIアシスタントアプリの表示も変わらず。

このあたり一帯が停電した以上、そもそもこの家のインターネット接続自体が絶たれているだろう。


念のため、昨日確認した検索サイトが開いたままのブラウザをトップに持ってきて再読み込みをかける。

案の定、接続不能のエラーメッセージが表示される。

なんとなく、無言で手を合わせた、合掌。


「ルーターとその横にあるやつも、電源を抜いていいやつだね。」

とりあえず脳内に作ってある電力削減タスクリストに、タスクを追加する。


さて、どうやってスケジュール管理をするか、少し悩む。

これまでは、スマホと連携できるクラウドサービスのスケジューラを使っていたけれど、PCからはブラウザ版を使っていたから、もう使うことはできない。

スマホのスケジューラを開いてみる。

まだ使えるけれど、クラウドとの連携が切れてしまっているので、何かの機会にユーザー認証が切れてしまって使えなくなる可能性がある気がする。


「とりあえず、テキストファイルでいいか。」

予定を共有する相手もいない。

時間に強い制約があるわけでもないので、リマインドの機能も不要だろう。


ただ、やるべきことを書き出して、大体いつ頃やればよいかを管理するだけなら、テキストで十分だと思った。


『用が足りるならできるだけシンプルな方が良いんだよ。つまり、テキストエディタこそが真の万能ツールなのさ!!!』

いつだったか、お父さんも言っていた。


新しくテキストファイルを作って、今思いついているタスクを書き出していく。


まずは道具の確保。

とりあえず、ホームセンターに入るためのバールのようなものと、探索用の懐中電灯は確保しなければならない。

ホームセンターに入れたら、穴を掘る用のショベルとか、水をためておくためのポリタンクとかが必要だろう。

考え始めると他にも色々思い浮かんでくるから、ホームセンターで何を調達するかは別のファイルにまとめることにする。


他のタスクは何があるだろう?

ホームセンター探索以後のイレギュラーなものは、

・節電のために使えなくなった家電のコンセントを抜く

・ごみ捨て場の確保、穴掘り

・断水に向けた備え、雨水をためておく仕組み作り、井戸掘り

・総合スーパーの探索、衣類、食品、家電類の在庫確認

・家電量販店の探索、家電類の在庫確認


あたりだろうか。

農業が本格化したり、家電や住宅設備が故障したりすると、非定常のタスクも増えていくのだろうと思う。


あと、最後に1つ、

・卒業式をする


定常的なタスクとしては、

・食事、調理

・洗濯

・掃除

・ごみ捨て

・農業、電気工事などの勉強

・発電量、電力使用量の定期観察、記録付け

・畑の定期観察、記録付け

・天候の定期観察、記録付け

・自身の体調観察、記録付け

・自宅周辺の観察、記録付け


こんなところだろうか。

「ローテーションでやるのが良いよね。」

一人暮らしなのだから、掃除や洗濯も毎日やるほどの量にはならない。

従来と違う点として、天候=発電量のことも考慮しなくてはいけないというのもある。

電力を使うことはできるだけ晴れた日の日中にまとめてやっておきたい。


とりあえず、洗濯、掃除、ごみ捨てを1日ずつ、3日間でのローテーションを基本にしよう。

食事は晴れた日の日中に作り置きしておいて、夜には作らないようにする。

雨の日は洗濯やごみ捨てはできないから、雨が降ったら家の掃除と勉強に当てる。

昨日の反省も踏まえて、少なくとも8月いっぱいは外に出るのは午前中と夕方にしておいて、お昼は家の中でやれることをやっていこう。

そんな形で運用ルールをメモしていく。

期限を決めないといけない予定の管理方法は、後々考えればいい事にする。


別のテキストファイルを作成して、調達が必要なものを書き出していく。


どこかで入手する:

・バールのようなもの


ホームセンターで入手する:

・穴掘り用ショベル

・貯水用ポリタンク

・ブルーシート

・大容量バッテリ

・台車?リヤカー?

⋯


「バール、どこならあるのかな…」

書き出しながら、今一番必要と思っているものの入手方法を考える。

⋯入手方法を考えようと思うのに、どうしても、それを使って悪事を働く自分の姿が先にちらつく。

頭をブンブンと横に振る。


「⋯やっぱりどう考えても悪人だよぉ。」

頭のなかでバールでシャッターをこじ開けている自分は、なぜだか唐草模様の風呂敷を被ったいる古式ゆかしいスタイルだ。

どうせ同じ頬被りなら、堅実に農業とかを頑張るおばあちゃんを目指すべきだと思った。


そこで閃く。

⋯農業。

農業用倉庫!


なぜ今まで思いつかなかったのだろう。

畑をやっている山本さんや井上さんのお宅には、当然農機具を入れておく倉庫があるはずだ。

ひょっとするとそこには、それらしき道具も置かれているかもしれない。


「そもそも、ショベルとかポリタンクとかも、保管されてるんじゃないだろうか?」

昨日だって今日だって、視界には収まっていたはずなのに、今更のように思い至る。

他人様の物を盗ることや、建物に入ることへの忌避感が、今までこの選択肢を無意識に避けさせていたのかもしれない。


「ホームセンターに入れない以上、やるしかない、かなぁ…」

やっぱり、まだなんとなく気は進まないけど、また一歩、前には進めた気がした。

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