2026年7月4日 AM その5
次の目的地であるホームセンターは、文化施設の北側に隣接しているので、すぐ目と鼻の先にあった。
道路を渡って、ホームセンターの駐車場に入る。
駐車場の入口にはロープが張られているだけだったので、下をくぐって入った。
広い駐車場には、数えるほどだが車が止まっている。
おそらくホームセンターの車なのだろう。
駐車場を縦断して、ホームセンターの建屋に到達する。
建屋の前面は園芸コーナーになっていて、それらにはシートがかけられているだけだったけれど、建屋の出入り口に当たる部分には、当たり前のようにシャッターが閉まっていた。
先ほどと同じく外周を回ってみるが、文化施設とは違って、そもそも出入り口の数が少なかった。
商品搬入口ならもしかしてと思ったけれど、幸運はそうそう続くものでもない。
「今度こそ、こじ開けるしかないかなぁ⋯」
外周を一周してスタート地点に戻ってしまったので、そう独りごつ。
問題は、鍵の掛かったドアやシャッターをこじあけるにしても、そのために必要な道具は、おそらくこのシャッターの向こう側に眠っているということだった。
「工事現場とか、建築系の会社からお借りするくらいしか、思いつかないけど…」
こことは、自宅を挟んで反対の方向にかなり行った先に別のホームセンターがあるにはあるのだけれど、そちらも24時間営業ではないから、おそらく同じ状況になるだけだろう。
店の商品や図書館の本を持ち出しておいて今更何だという話ではあるのだけれど、売り物や貸す物ではない物を盗るというのは、これまた別の悪行な気がする。
器物損壊となればなおのことだ。
「着実に悪行を重ねていってるよね、私」
信仰心があるわけではないけれど、死んだら地獄に落とされるのかしらと、ぼんやりと考えてしまう。
「いやいや、こんな理不尽な状況に置いた世界のほうが悪いんだから、そこは情状酌量の余地だよ、うん。」
⋯などと、独りごちたところで問題が解決する見込みなどない。
諦めて手段を考えようと思いなおす。
ホームセンターに置かれている商品は、今後の生活を考えると、欠かすことはできないだろう。
であれば、ここはもう、シャッターをこじ開けてでも入るしかない。
そして、シャッターをこじ開けるときに使うものと言えば、
「⋯バールのようなもの。」
まさか、自分がそれを、しかも、"バールのようなもの"としての"正しい使い方"をせざるを得ない時がくるとは、数日前までは思いもしなかった。
なぜだか、お父さんが「まさか、自分が伝説の"バールのようなもの"を手にする日が来ようとは!!!オタク冥利に尽きるなぁ!」と、バールを肩に担いで、ハハハと、楽しそうに笑っている情景が思い浮かぶ。
「⋯私は、バールは正しく釘抜に使う人生でありたかったよ、お父さん⋯」
盛大にため息をついてみる。
意外と、楽しいなって思いながら。
今の時点でここに居てもできることがもうないので、次の目的地に向かうことにする。
このあと行こうと思っていた総合スーパーは、来た道を戻って、スポーツドリンクを調達したコンビニのある交差点を、別の方向に曲がった先にある。
図書館のある複合文化施設を横目に見ながら、緩やかな坂を下っていく。
コンビニのある交差点が見える。
そこで、
「あれ?」
と思った。
何か違和感を感じたけれど、すぐには何なのかはっきりしなかった。
交差点が近づいてくる。
「…あぁ、信号。」
最初は日差しが強いせいかなと思ったけれど、近づいてきてはっきりわかった。
信号機が点いていない。
念のため、コンビニでも確認する。
さっき来た時には開いた自動ドアが開かなかった。
「ここまで、よく頑張たなぁ…」
本当に、頑張って持ちこたえてくれたと思う。
改めて、周囲を見回す。
「いままでありがとうございました。」
数多の電力関係者の代表として、頭上の電線に頭を下げておく。
満を持してやってきた停電。
きっとこの後、想定していないトラブルもたくさんあるだろうけれど、今の私にできる限りの備えはしてきたと思う。
だから、悲しさも、寂しさも、悔しさも、今はない。
このあたりの電力系統が3日間も持ちこたえてくれたおかげで、色々な情報をアーカイブできたし、冷凍食品の備蓄もできた、図書館に楽に入ることまでできた。
この時間を与えてもらえたおかげで、私は今、前を向いていられるのだと思うから。




