↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/71

2026年7月3日 PM その7

ご飯を食べ終える。

目尻を軽く拭ってから、食器をシンクに運んだ。


水道が使えれば、1人分の洗い物は簡単に終わる。

明日からは、調理のことも考えていかないとと思いながら、水切り籠に洗った食器を立てていく。

水切り籠に立てる食器の枚数が少ないことにも、もう大分慣れた。


冷ましておいた冷蔵・冷凍用のご飯の容器に蓋をして、それぞれを冷蔵室・冷凍室に収める。

そこからシンクの排水溝のネットを交換しようとしたところで、あっ、と思った。

今日は7月3日で金曜日だ。

この辺りは、可燃ごみの収集日が毎週火曜日と金曜日と決められていた。


「今日、可燃ごみの収集日だったんだ。…ゴミって、どうしたらいいんだろう?」

今まで他のことが手いっぱいで全く考えていなかったけれど、ごみの処理はかなり重要な問題な気がする。

これまでのように家の前に出しておけば回収してくれるなんてことは、当然ない。

とはいえ、ごみを出さない生活というのは不可能だ。

今日までは、食事は母が作り置いてくれたものを食べていたから、ごみのことはほとんど意識しなくてよかったけれど、明日からは自分で食事を用意することになる。


「とりあえず、埋めるのかなぁ…」

イメージしたのは、縄文時代の貝塚だった。

いずれ生ごみは肥料にするという先日調べた農業知識も踏まえると、恒常的に出るのは飲食物の包装くらいのものだ。

1人分のゴミなら、そんなに量は出ないだろう。


「程よい空き地を探して、埋めさせてもらおう。」

自宅にはごみを埋められるような広い庭がない。

他人様の土地に勝手に埋めるというのは憚られるけれど、他に手段が思いつかないから仕方ないと思うことにする。


「…日々の生活を安定してこなすために必要なことを、ちゃんと考えないと。」

失われていくものを惜しむよりも、そちらの方が重要だという認識を新たにする。

とにかくがむしゃらに頑張ってきたけれど、これからは、生活を安定させることを考えないといけないのだ。

この三日間はわきに置いてきた、掃除やごみ捨てといった家事も計画的にこなしていく必要がある。

食事も、しばらくは保存食中心の生活にしてもよいかもしれないけれど、10年後、20年後まで考えるなら、むしろ、保存食に頼れるうちに基盤を安定させておく必要があるだろう。

これらの家事をこなすだけでも、特に慣れるまでは一日のかなりの時間を費やすことになるはずだ。


「とりあえず、長い目で見て何をやるべきかを、一度整理してみよう。」

そんなことを考えながら、調理台とダイニングテーブルを拭き終える。


「よし、食後の片づけ終わり。」

次は、沸かしておいたお風呂に入ろう。

今後のことを考えるのは、そのあとでいいことにする。


自室に戻って、着替えを取り出す。

このまま上水道が止まると、代替手段が構築できるまでは洗濯機は使えないということは先日調べてわかっている。

だから、今後の衣類は洗濯のしやすさを重視して選ぼうと思う。


選んだ着替えをもって、脱衣所へ向かう。

着ていたものを脱いで、浴室へ入った。


まずは髪を洗う。

母へのあこがれで伸ばしてきた長い髪。


今までも、洗ったり乾かしたりするのに時間がかかるなって思ってはいたけれど、

「…今後は、水のことも考えないといけないんだよね。」


長い髪は、手入れをしないとすぐに傷んでしまう。

私がお母さんの長い髪にあこがれたのは、それがとても綺麗だったからだ。

傷んでみすぼらしくなってしまったのでは、意味がない。

でも、上水道が止まったら、水の節約も考えないといけない。

今までのように、髪の手入れに資源と時間をかけるのは、得策ではないだろう。


「水道が止まったら、その時、短くしよう。」

そう、今決めた。

これも、失われていくものの一つなんだなと思う。

でも、不思議と嫌な気はしなかった。


新しい生活を始めるために、新しい自分になる、そのために髪を切るのは、多分、結構気分がよいと思ったから。

それに、あの時は残念に思ったけれど、今の、髪を短くしたお母さんも、変わらずにかっこよかったから。


でも、だからこそ、その時までは、この長い髪を大切にしようと思って、これまで以上に丁寧に髪を洗った。


洗い終えた髪をまとめて、身体を洗って、湯船に浸かる。


「この幸せも、今のうちだけなんだなぁ…」

疲れた体が温まって、ほぐれていく。

湯船に浸かっていると、色々なことが思い浮かんでくる。

湯船に浸かるのも、近いうちに贅沢の一つになってしまうのだ。


「今日も、色々あった。」

…本当に、色々ありすぎた。

浴室の天井を眺める。

昨日と同じ天井を見ているのに、昨日とは考えていることが全然違うのが、少し可笑しい。

昼間に感じた、あんなにも激しい憤りも、今は、おとなしくなっている。

昨日の私とも、昼間の私とも違う。

きっと、明日には、また違った私になっているのだろう。

明日の自分が、少しでも、幸せであればいいなと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。