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2026年7月3日 PM その2

昼食を終えて、食器を洗う。

お母さんが作り置きを入れておいてくれていたタッパーが空になったので、それも洗っていく。

タッパーを洗いながら、今日は、お別れが多い日だなと、そんなことを思う。


お茶を飲んで一息ついてから、

「よしっ。」

と、気合を入れて、もう一度スーパーに向かう事にする。


自室から、旅行用の大きめのリュックサックを持ち出す。

日差しが強いので、帽子も持っていく。

保冷バッグに新しい保冷剤を入れて、別の大きめのエコバッグと合わせてリュックサックに詰めた。


帽子を被って、靴を履いて、鍵を開けて、外に出る。

昨日と同じ、青い空に、白と黒の雲。

夏の強い日差し。

「熱中症とか、気をつけないとね…」

もし、熱中症で倒れて動けなくなってしまっても、誰も助けてはくれないのだと思うと、恐ろしい。

3日前までは、ちょっとした苦労話で済んだような些細なことが、命の危機につながってしまうのだと、気を引き締める。


周辺状況の確認を兼ねて、今回は陸橋から回っていくことにする。

ショッピングカートを押して陸橋を上っているのは、客観的に見るとなかなかシュールな光景かもしれないなと思った。


陸橋の最頂部で立ち止まって、周囲を見渡す。

先ほど気になった自動車専用道路の方を意識して見てみると、やはり、火災の密度が他の方角よりも濃いように見えた。

自宅周辺には問題がなさそうなことを確認して、スーパーへ向かう。


午前中にカートの操縦に難儀した箇所は、車道を歩いて回避した。

これまで当たり前だった社会のルールからの逸脱に、また少しだけ心がざわついた気がした。


スーパーに到着する。

午前中と同じ、誰も居ない店内。

相変わらず、店内放送だけが流れ続けている。


今回は、まだ数日は保ちそうな生野菜類、たまご、納豆や漬物、酢漬けの魚介類などの発酵食品や漬物類を、冷蔵庫に入れられそうな分だけ確保していく。

加えて、常温で保存できる根菜類や乾物を買い物かごに入れていく。

夏の昼間に外を歩いて、汗もかいてしまっているので、スポーツドリンクのペットボトルも手に取った。

当座の飲料も確保しておきたかったけれど、それは涼しい時間に改めてということにしよう。


一通り確保できたので、セルフレジへ向かう。


「商品のバーコードを、読み取らせてください。」

左から右へ、バーコードを読み取らせた商品を流していく。


最後の商品をスキャンして、会計ボタンを押す。

「お支払方法を、タッチしてください。」

キャリアのQRコード決済を選択する。

スマホを取り出して、QRコード決済のアプリを立ち上げる。


⋯あぁ、と思った。


普段なら、立ち上がったアプリの真ん中に表示される、会員番号。

その場所に、

「ネットワークへの接続に失敗しました。

ネットワーク環境をご確認の上、ご利用ください。」

画面の左上には、"圏外"の文字が見えていた。


⋯わかっては、いたのだ、遠からず、こうなるということは。

それでもしばらく、その画面から目を離すことができなかった。


「ネットワークへの接続に失敗しました。

ネットワーク環境をご確認の上、ご利用ください。」


スマホを持ったままの右腕が、重力に負けてだらりと下がる。

うつむいた視線の先、バーコードリーダの赤外線レーザが、台の上に一本の赤い筋を作っている。


左手で天井を見上げて、一度だけ長く息を吐いた。

スマホをポケットにしまう。


セルフレジのタッチパネルで取り消しボタンを押して、買い物カゴをカートに戻して、作荷台に向かう。


リュックサックから保冷バッグを取り出して、要冷蔵の食品を詰めていく。

午前中、この同じ場所で、同じように荷物を詰めていた時の自分を思い出して、涙が溢れてきた。


「…なんだよ、なんだよ、なんだよ!」

私がどんなに縋っても、世界は私を拒絶するのに。

そんなことはもう、わかっていたはずなのに。


「…馬鹿みたいじゃん。」

それでも、縋りつこうとしてしまっていた自分が、惨めで、みじめで。

容赦なく突きつけられる現実に、抗えないことが、悔しくて、くやしくて。


常温保存の商品をリュックサックに入れていく。

八つ当たりだと分かっていても、つい手つきが乱暴になってしまうのを、今だけは、許してほしいと思った。


荷物詰めを終えて、下ろしていたリュックサックを背負う。

保冷バッグを肩にかけて、空になったカートを押していく。

入口で、カート置き場にカートを返して、外に出る。


それでも。

それでも、やっぱり、お金を払わずに商品を持ち出すことは何だか気持ちが悪い。

慣れるのには、しばらく時間がかかりそうだった。


夏の日差し。

湿度を感じる、ぬるりとした空気がまとわりついてくる。


スポーツドリンクのペットボトルを開けて、一口だけ口に含んだ。

パニック要素が主題ではなくなっているので、カテゴリをSF-パニックから、文芸-ヒューマンドラマに変更しました。


セルフレジのQRコード決済には、アプリ端末側がオフラインでも、セルフレジ側がオンラインなら決済ができる仕組みが用意されています。

晴菜は賢いので、多分そんなことには気づいているのですが、ここで彼女が怒ったのはそういうことではないのだろうと思っています。

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