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22/23

2026年7月2日 PM8:18

なんとかご飯を食べ終えて、お皿を洗った。

水が流れる音で、時計の音は聞こえなくなる。

水が肌を伝っていく感覚は、少しだけ心地よかった。


洗面所に向かって、歯を磨く。

歯ブラシがこすれる、規則正しい音がする。

歯茎が柔らかく刺激されるのにあわせて、絡まった思考が、少しだけほぐれた気がする。


自室に戻って、寝間着に着替えた。

机の上には、開いたままのノートPCがある。


「こんばんは、Harunaさん。何かお手伝いできることはありますか?」

いつもの定型文が表示されているのが見える。


椅子に座って、キーボードに手をかける。

日中、今後のためにと考えて情報を求めていたときには、流れるように手が動いていたのに、今は、全く動き出す気配がなかった。

知りたいことや聞きたいことはたくさんあるはずのに、何を聞きたいのか、何を知りたいのかが、今はわからない。

"彼女たち"では答えられないだろうことを、あえて問いかけてみようとは、少なくとも今は、思えなかった。

そっと、蓋を閉じる。


時計の音が聞こえる。

時刻は、PM8:18。


部屋の電気を消して、ベッドに潜り込む。


いつもなら、電車や車が通る音が聞こえていた。

けれど、今日にはもう、それは無くなってしまっている。


窓の外、カーテンの隙間から、パチンコ店の騒がしいネオンがかすかに主張している。

明日にはもう、これも無くなってしまうのだろうか?


そんな風に世界との繋がりが強調されてしまうから、夜は孤独なのだろうかと、そんなことを考えながら、私は、眠りに落ちていった。



⋯チャイムの音が鳴っている。

目を開けようとすると、なぜか身体が重い。

ザワザワという喧騒が聞こえる。

ここは、学校?


そうだった、学校だ。

今は何限目だったっけ?


フワフワとして、考えがまとまらない。

クラスメイトの話し声は聞こえる気がするのに、内容は頭に入ってこない。


窓の外には、夏の青空が広がっていて、ガラス越しに日が差し込んでいる。

なのに、夏の熱気は伝わってこない。


帰らないと。


いつもの昇降口、

校門を抜けて、駅に向かう。

いつものように電車に乗る。

改札を抜けて、家に向かう。


日差しが眩しいのに、夏の暑さを感じない。


鍵を開けて、ドアを開けて、玄関をくぐる。

ただいまをいわないまま、靴を脱いで、リビングのドアを開ける。


「晴菜おはよー。」

キッチンから、お母さんの声が聞こえる。


「おはよう、晴菜。」

ダイニングテーブルのいつもの席に、お父さんが座っている。

テーブルの上には、朝食が並んでいる。


そこはおかえりでしょう? と思って時計を見る。

9:15。

お母さんもお父さんも遅刻じゃないかと思って、視線を戻した先には、両親はいなくて。


テーブルの上には、3人分の朝食だけが並んでいて、時計の音だけが、やけに大きく聞こえた。


あぁ、そうだった。

だから、これは…



目を開けると、自分の部屋の天井が見える。

時計の音が聞こえる。

目尻から頬やこめかみのあたりにかけて、あるいは、目頭から眉間にかけて、皮膚が突っ張った感覚がある。

きっとまた、泣いてしまっていたのだろう。


「顔、洗おう」

むくりと身体を起こす。

頭が重い。


部屋を出ると、両親の寝室の扉がある。

扉を開けると、誰も居ないベッドが見える。

先程の夢の続きが、眼の前に広がっていた。

中には入らずに、そのまま扉を締める。


1階に降りて、洗面所で顔を洗って、リビングに入る。

リビングの明かりをつけると、ガランとした部屋の様子が見える。

私だけが、取り残された部屋。


誰もいないダイニングテーブルを見つめる。

「おはよう、お母さん、お父さん。」

先程の、夢の中では言えなかった言葉が、零れる。


冷蔵庫に向かって、冷やしていたお茶を取り出した。

なんとなく、お母さんがいつも使っていたカップを手に取る。

お気に入りの犬のキャラクターのマグカップ。

お茶を注いで、飲み干す。


ふと見上げた時計はAM3:42を指していて、時計から戻した視線の先には、やっぱり、父も母も居なかった。

次回は、9/2(水)の20:40頃に更新する予定です。

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