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21/24

2026年7月2日 PM7:23

日が傾いてきて、空が赤らんできた頃、2日ぶりにお風呂に浸かった。

温まって、強張った身体がほぐれていく。

ぼんやりと、今日のこれまでを振り返る。


昼食を食べた後は、車のダッシュボードから説明書を回収して、そのままいつもの陸橋に登って、街の様子を眺めた。

既存の火災はおそらくこの家にまでは届かないという事に確証が持てつつあるので、昨日のような切迫した恐怖感はもう抱かなくなっていた。


その後は家に戻って、情報収集の続きに没頭していた。

情報も、家に籠もっていて集められる情報はかなり集められたと思う。

もちろん、完璧とは言い難いけれど、そろそろ街に出て、外の情報も集めていくべきだと思った。


「明日は、街の様子を見て回ろう。」

浴室の中に、自分の声が反響する。

湯船にさらに沈み込むと、それにあわせて水が動く音だけがする。

浴室の天井を眺める。


浴室にいると、やはり外との境界が曖昧になって、忙しくしているうちは抑えられていた色々な気持ちや思考が沸き上がってくる。


「なんで、私だけなんだろう?」

昨日も脳裏をよぎったその問いが、もう一度浮かんでくる。


「お母さんとお父さん、今、何をしているのかな?」

答えの出ない問いが、湯船の中に溶けていく。


「このまま沈んでしまったら、楽になるのかな?」

…それは、やっぱり違うなと思った。


身体を起こして、浴室を見回すと、母の愛用のシャンプーとか、父のひげ剃りとか、そういったものが目に入ってくる。

この家には、まだまだ両親の気配がたくさんある。

諦めるには、早すぎるだろう。

それに、

「残されたのが私じゃなくてお母さんだったら、きっと、後ろは向かないもの。」


湯船から出て、一度張っていたお湯を抜く。

湯船を軽くすすいで、新しく水を張った。

いつ断水してもいいように、備えられることは備えていこうと思って。


自室に戻って、ベッドの縁に座って、ドライヤーで髪を乾かす。

壁にかかった制服が見える。

気まぐれに開いたスマホのグループチャットは、相変わらず未読のまま。

もう日は沈んでいて、カーテンの隙間からも、夏の日差しは入ってこない。

両親だけではない、クラスメイトや先生、その他多くの人たちが消えてしまった街が、その向こうにある。

時計の針は、PM7:23を指していた。

この先どうなっていくのかは、やっぱりまだ、見当もつかない。


ドライヤーの電源を切る。

静寂。

立ち上がって、ドライヤーを片付ける。

夢を見はじめるには、まだ少し早い時間だった。


自室を出て、1階のキッチンへ向かう。

冷凍庫からご飯を出して、電子レンジで解凍する。

お皿を出して、冷蔵庫を開けて、母の作り置きのおかずを取り分ける。

食卓に食器を運んで、いつもの自分の席に座る。


手を合わせて、

「いただきます。」


黙々と食べる。

お風呂に入って力が抜けてしまったからなのか、夜の空気に充てられてしまったからなのかは、わからない。

昨日とは違って、ほうれん草とベーコンのソテーはちょうどよい味付けで、美味しいなと感じてはいるのに、胸が詰まったような感じがして、箸の進みが鈍っていく。

俯いて、箸が止まる。


「疲れているのかな…」

思い返せば、昨日の夕方からまともに休んでいない気がする。


時計の音だけが響いている。


今日は、

「もう、休もう。」

立ち止まるのは怖い。

けれど、今日はもう、走り続けることはできそうになかった。


とりあえず、まずは食事を摂り切る事にする。

お母さんのご飯があって良かったと思った。

美味しくて、残すのがもったいないと思えるから。

次回は8/31(火)20:40頃に更新予定です。

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