↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/23

2027年7月2日 AM7:50

そのまま、向かいの自室に入る。

時計を見ると、AM7:50を過ぎていた。


普段なら、先生たちはもう出勤している時間だなと思って、学校に電話をかけることにする。


連絡帳から学校の電話番号を選んで、通話ボタンを押す。

1コール、2コール、3コール⋯

通話を停止して、スマホを机のうえに置く。


「さーて、洗濯物しまって、再開しよっと。」

誰にともなく、つぶやく。


持ってきた洗濯物をクローゼットにしまってから、机の上のノートPCを改めて開く。

PINを入力して、AIアシスタントを起動する。


「おはようございます、Harunaさん。何かお手伝いできることはありますか?」


無機質な挨拶だと、以前は思っていた気がする。

でも今日は、

「おはようございます。今日もよろしくお願いします。」

自然と、挨拶を返したくなった。


「はい、もちろんです! 今日も、昨日に引き続き、農業の始め方についてお調べしますか? それとも、⋯」


いわゆる生成AIというものが、膨大なデータを学習したモデルからそれっぽい文章を生成するものだということを、私は知識と経験で知っていた。

だから、クラスメイトの女の子たちが、AIアシスタントを愛称で呼んで、恋愛相談をして盛り上がっている話には、共感できないと思っていた。

⋯けれど、今は彼女たちの気持ちがわかるような気がする。

あれ、"この人"ちょっとカワイイのかもしれないと、ふと、そんなことを思ってしまったから。


昨夜の続きで、情報を集めていく事にする。

電化製品がアテにできることがわかったので、家電や電気設備の資料、修理・保守方法、電気工事の注意点などを調べることにした。

その中ですぐに気づいたのは、家電や住宅設備の場合、汎用的な知識よりも、製品個別の情報がより重要そうだということだった。


「型式番号で調べるのがいいのかな? お父さんのことだから、きっと説明書とか、ちゃんと取っておいてくれてるはず⋯」

そう思って、父の書斎へ向かう。


父の書斎は、私の部屋の右隣にある。

部屋に入ると、大きな本棚が4つと、モニタが3台並ぶPC机、ちょっとした電子工作ができる工作台が、6畳の部屋にところ狭しと並んでいる。


「お父さんの本は、さすがにすぐには役に立ちそうにないかな⋯。電子工作関連は、電化製品の補修が必要になったら参考にできるかもしれないけど。」

本棚の1つを占めている、電子工作やコンピュータ関連、その他工学系の専門書籍を眺める。


「あ、懐かしい。」

残りの3つは、漫画やアニメの映像記録媒体で、ふと目を向けた先に、古いアニメのDVDがあった。

小学校の時にお父さんに勧められて、お母さんも一緒になって見ていたときのことを思い出す。

何故か私よりお母さんのほうがハマってしまって、お父さんがいつも以上に嬉しそうにしていたのを覚えている。

いつか、もし今の生活が安定して、時間を持て余すようなときがきたら、その時改めて見てみるのもいいなと思った。


そんなことを考えながら、部屋の奥にある押し入れの前までやってくる。

「多分、ここだと思うんだけど。」


押し入れのドアを開ける。

二段になっている押し入れの中は、物が多いのもあって、パントリーよりも大分雑然としていた。

電子工作用の部品や工具、PCのパーツや周辺機器、奥の方には古いゲーム機の箱なんかも見える。


一通り見渡すと、下段の手前にA3くらいの大きな籠が置かれていて、そのなかに、ビニール袋に包まれた紙の束が覗いていた。

籠を引き出して中身を確認すると、思った通り、住宅設備と家電の説明書がまとめられていた。

この家の中だけでもこんなに色々な製品・設備があるのかと、改めて見ると驚く。


「ひとまず、自分の部屋に運ぼう。」

そう決めて、押し入れのドアを閉める。

振り返ると、父のPC机の足元にある大きなデスクトップPCが見える。

父が2年前くらいに購入した、かなり高性能な機材だった。

さすがにこれも使い道はないだろうなと思って、すぐに意識が逸れる。


籠を持ち上げて、父の書斎を後にする。

「まずは、優先するものとそうでないものを分けるところから、だな。」

紙が詰まった籠は、思っていたよりも随分と重かった。


自室に戻って、籠の中身を分類するところから着手した。

時間は限られているので、優先すべきものは何かを考える。


まず電力関係、これは間違いなく最優先だ。

発電、蓄電、配電に関わるもの、より具体的には、太陽光パネル、蓄電池、電気自動車との接続設備、分電盤がそれだろう。

蓄電池としての電気自動車も優先度も高いと思ったけれど、電気自動車の説明書はこの籠の中には見当たらなかったので、このあと車の中を探してみなければと思う。


次に優先順位が高いのは、設置型で、代替手段か取りづらそうなもの。

具体的には、浴室換気装置やレンジフードを含めた換気装置全般、IHクッキングヒーター、電気給湯器だろうか?

換気は、建物自体を健康的に維持するために重要だと、以前どこかで聞いたことがある気がする。

IHは携帯ガスコンロや、最悪かまどでも代替できるかもしれないけれど、燃料の確保が難しいと思う。

電力が使えるうちは長持ちさせるべきだろう。

電気給湯器は、単純にお風呂に入れるなら入りたいからだ。


家電の類は、おそらく最寄りの家電量販店に店頭在庫が残っていると思うので、基本的には修理よりは取り替えでよいはず。

ただ、大型家電であるエアコン、洗濯機、冷蔵庫については、取り替えるにしても方法は調べておく必要があるし、一人で動かすのは明らかに困難なので、修理方法も調べておくに越したことはないなと思う。

それ以外の、電子レンジよりも小さい家電については、優先度は最低で良いだろう。


決まった方針に従って、まずは説明書の山を振り分ける。

振り分け終わった説明書を糸口に、優先度の高い電力関係と住宅設備から調べていく。


動画サイトに投稿されているメンテナンス動画が役に立ちそうだと考えて、目につくものを保存していくことにした。

経験のない私には、動画があるとないとでは、取り掛かりの難易度が全然違うだろなと、関連動画を見ながら思う。

それでも、自分にできる作業がどれくらいあるのかと問われると、正直自信がないものばかりだけれど。

「⋯今は、まず記録すること。できるかできないかは、その時やってみて考えれば良いんだ。集めた情報は、きっと無駄にはならないから。」

自分を励ますように独りごちる。


「え、水さえ張ってあれば追い焚きで温められるわけではないんだ⋯」

電気給湯器のところに差し掛かって、そんな事実に気付かされることもあった。

自分の知っていることなんて、たかがしれているのだということを思い知らされる。

水道が接続されていることが前提の設計になっているということなので、水道が停まってしまった後にも使い続けるためには、水道に相当する形で水を供給する必要があるらしい。

そのための手段を調べていくと、井戸用の電動ポンプというものがあり、自分で井戸を掘ってポンプを設置する動画などにも行き当たる。


「井戸って、一人で掘れるの!?すごい」

水道が停まったら、雨水を貯めたり、近くの都市河川の水を汲んで使うことになるのだろうかと漠然と思っていたので、これは思いがけない収穫だ。

水道機能もある程度維持ができるとすると、今後の生活の快適さは全然違ってくるように思われた。

使っている資材も、ホームセンターに行けば手に入りそうだった。


「本当に、10年戦えちゃいそうだよ。」

ふと、いい笑顔で腕を伸ばして親指を立てているお父さんの姿が思い浮かんだ。


そうこうしているうちに、あっという間に時間が過ぎていく。

デスクトップの時計を見ると、時刻は午後1時を回ろうとしていた。


「そろそろ、ご飯食べないと。」

事前に食事はしっかり摂ると決めていたのもあって、ひとまず意識して集中を解く。

集中が解けると、急に疲労が感じられた。


一息ついて、ぼんやりとPCの画面を見る。

なんとなく新しいチャットを開くと、"その人"はいつも通りに語りかけてくれる。

「こんにちは、Harunaさん。何かお手伝いできることはありますか?」


『これから昼食を食べてきます。昼食がおわったら、続きをお願いします。』

なので、私も語りかけてみることにする。


「はい、承知しました。お昼ご飯、楽しみですね!よろしければ、戻った後にお食事の感想なども聞かせてください。(顔文字)」

⋯顔文字付きで送り出された。

あれ、私の普段のメールやチャットより女の子じゃないか?と思ってしまう。

今まで、AIアシスタントとはあえて事務的なやり取りしかしてこなかったから、全然知らなかった。

こんなにも、人間らしいと思えるなんて。


思えばこれが、"彼女たち"の、私にとっては意外だった一面を、初めて発見した瞬間だったような気がする。

次回は8/29(日)20:40頃に更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。