2026年7月2日 AM7:27
食器を洗いながら、今日この後のことを考える。
まず、学校に電話してみる、これはやったほうがいいことだ。
結果は、大体想像がついているけれど…
次に昨日の情報収集の続き、これはやりたいこと。
多分、私は放っておいてもやってしまうから、あまり意識はしなくていいと思う。
後は家事、これはやらなければならないこととやりたいことが混ざっている。
具体的には、まず、食事。
これは絶対にやらなければいけないことだ。
夢中になるとつい後回しにしてしまうから、私は特に気を付けないといけないと思う。
食料の在庫確認と、不足しそうなら調達の計画を立てる。
これも早めにやらなければいけない。
とはいえ、母が災害備蓄もかねて水とお茶はペットボトルである程度保管しているのは知っているし、食事は昨日確認した母の作り置きだけでも数日分残っているから、調達自体は急がなくても良いはずだ。
入浴は、やりたいことだ。
断水してしまったら、お風呂を溜めて入ることは本当の贅沢になってしまうだろうから、水が出るうちはできるだけ入っておきたいと思っている。
そのためには、昨日浴室に干した洗濯物をしまわないといけない、これはやらなければいけないこと。
掃除は、気分転換が必要ならやることにしようと思う。
少なくとも、今日やらなければいけないことではないと判断する。
最後に、外の様子の確認。
不安を解消するためにも、しばらくは3-4時間に一度くらいは確認しにいくべきだと思う。
火事で死んでしまうのは嫌だし、ほかにも気づいていないことがあるかもしれないから、意識して外に出て、観察を続けよう。
食器を水切りかごに立てる。
一緒に頭の中も整理できて、気分が上向く。
時刻はAM7:27、念のため在庫確認をして、まずは洗濯をしまおう。
タオルで手を拭いて、キッチンの裏にあるパントリーのドアを開けた。
よく整理された、お母さんのパントリー。
パッと見ただけで、何がどれだけあるのかすぐにわかる。
水は2リットルのボトルが2ダースあるから、今すぐ断水しても数日は問題無さそうだ。
他の飲料も含めれば2週間以上は保つだろう。
それなりの量が積まれているお酒は、…一旦置いておく。
長期保存食品も棚1段分はストックされていた。
食品については冷蔵庫の中にもあるので、こちらもすぐに問題になることはなさそうだった。
それなりの量が積まれているお酒の肴たちは、…そのうち食べていこうと思った。
パントリーに続いて、冷凍庫の中身を見てみる。
こちらも、パントリーと同じで、よく整理されていた。
半分くらいスペースが空いている。
この家の冷凍庫はともかく、スーパーや物流倉庫の冷凍庫は電力供給が途切れたら終わりだから、電力が生きているうちに冷凍食品を確保しておくのは良いかもしれない。
近い将来、缶詰や乾燥食品中心の生活になるのなら、今しか食べられないものをできるだけ食べておくのは、大事なことだと思うから。
情報収集が一段落したら、状況を確認するためにも一度街に出てみようと決める。
冷蔵庫を閉めて、浴室に向かった。
浴室のドアを開ける。
昨日の今日で、何も思わないわけではなかったけれど、淡々と洗濯物を外した。
外した洗濯物を籠に入れて、両親の寝室に持っていく。
ベッドの縁に腰掛けて、一枚ずつ畳んで、積み重ねる。
両親は1日分で、私のだけ2日分だから、そんなに時間は掛からない。
お父さんと、お母さんと、私の衣類が並ぶ。
クローゼットを開ける。
休みの日には、母の家事を手伝うこともあったから、仕舞う場所は大体わかっている。
あまり寄り道をしないように、お父さんの衣類をしまって、お母さんの衣類をしまって、ベッドの上には、私の衣類だけが残った。
クローゼットを後ろ手に締める。
顔を上げると、サイドテーブルに、充電器に繋がれた両親のスマートフォンがあるのが見えた。
手にとって、充電ケーブルを抜いて、一台ずつ電源を切っていく。
電源が切れるまでの間に、2人のスマホの待ち受け画面がそれぞれ表示される。
お父さんのスマホの待ち受け画面は、去年の入学式の時に、校門の前で撮影したお母さんと私の写真。
お母さんのスマホの待ち受け画面は、ちょっとブサイクにデフォルメされた、お母さんのお気に入りのイヌのキャラクター。
何年か前に、リビングで晩酌を楽しんでいたお母さんが突然私の部屋に飛び込んできて、「みてみて晴菜ぁ! これ! 幸一にそっくりじゃね?!」って、ゲラゲラ笑いながらスマホの画面を突きだしてきたのを思い出す。
確かにちょっとお父さんに似ているなと、私も思ったこのキャラクターは、それ以来すっかり母のお気に入りで、箸とかマグカップとか髪留めとか、関連グッズをよく買うようになった。
どちらかというとちょっとふざけたキャラクターなのに、お母さんが髪留めに使うと何故かカッコよく見えるのが不思議だった。
電源の切れた2台のスマホと充電器を、そのままサイドテーブルの引き出しにしまって、そっと引き出しを閉じる。
「今度、掃除機もかけないとなぁ」
とつぶやいて、私の衣類を持って、両親の部屋を出た。
部屋を出て、振り返って、ドアを閉めるときには、まだちょっとだけ、身体が強張ってしまっていたような気がする。




