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16/23

2026年7月1日 PM11:12

目を開けて、席を立つ。

集中が解けると、静まり返った家の中の気配を感じる。

ドアを開ける。

廊下の照明がついたままだった。


階段を降りて、玄関に向かう。

「慌てすぎだよ、私。」

誰にともなくつぶやきながら、脱ぎ散らかしていた靴をそろえて、もう一度履く。


そのまま玄関を出て、鍵を締める。

外は明るかった。

街灯も、アパートの廊下の蛍光灯も、パチンコ店のうるさいネオンも、昨日までと変わらず点いたままだったから。


「もうすぐ、点かなくなってしまうのかな。」

また、誰にともなくつぶやく。


陸橋の坂を登る。

夜になって、立ち上る黒い煙は見えにくくなって、逆にその根本を照らすオレンジ色の光が目立つようになっている。

何かが小さく爆発しているのか、時折大きく明滅するのが見えて、生きているみたいだなと思った。


夕方に考えた通り、風は南から北へと変わっていた。

付近で新たに発火している地点もなさそうで、安心する。

少なくとも今夜は、寝てしまっても大丈夫だと自分に言い聞かせて、また坂を下る。


陸橋から降りると、他の建物の影に重なって、遠い火災現場の炎が見えなくなる。

よく見なければ、立ち上る煙も濃紺の夜空に溶け込んでしまってわからない。

ここだけを切り取れば、まだ昨日の夜と大差ない、いつもの道が続いていた。

少しだけ、遠回りをしてみようと思った。


いずれ見られなくなるだろう景色を眺めながら、いつもの道を歩く。

ところどころに、明かりがついたままの部屋がある。

線路沿いの道に出ると、遠くに駅の明かりも見える。

今朝から動いていないであろう、ホームに入線したままの電車が見える。

今朝はあんなにも不安で、あんなにも怖かったのに、今はそれほど、不安や恐怖は感じなかった。

代わりに、少しだけ、胸が苦しい。


「なんで、私だけなのかな…」

きっと、理由なんてない。

理由があったとしても、何も変わらない。

でも、いつもの道を歩きながら、いつもとは違っていく景色を見ながら、そんなことを、考えてしまった。


家に帰る。

ドアを閉めて、鍵を締めて、靴をそろえる。

リビングのドアを開けると、冷たい空気が漏れ出てきて、夕方からエアコンをつけたままだったことを思い出す。

目に入るリビングの時計は、PM11:12を指している。


ダイニングテーブルには、飲みかけのカップを置きっぱなしにしてしまっていた。

少しぬるくなってしまったお茶を飲み干したけれど、喉が潤った気がしなくて、結局冷蔵庫へ向かった。

もう一杯、冷たいお茶を飲む。


今夜はもう少し、頑張っておこうと思った。

やらずに後悔は、したくなかったから。

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