2026年7月1日 PM5:19
洗いモードが終わって脱水モードに移行する頃に、私の身体の主導権も返還された。
また腫らしてしまった目元は、少し顔を洗ったくらいではもはやどうにもならないレベルだった。
「夕食、何にしよう…」
脱衣所に重ねてある新しいタオルを手にとって、おぼつかない足取りでリビングへと戻る。
リビングのドアをくぐると目に入る時計は、PM5:19を指していた。
そのままキッチンに向かって、シンクの前のタオル掛にタオルを掛ける。
冷蔵庫を開けると、上の段に母が作り置きしてタッパーに小分けされているおかずが収められている。
母は毎週、平日分のおかずを作り置きしていたから、今週中に食べれば問題ないだろうけれど、3人分あるので、意図せず増えた昼食分を入れても1人で食べ切れるかどうかだなぁと、悠長な事を考えている自分がいる。
意外と、よゆうがあるのかもしれない。
作り置きがある事自体は本当に有難かった。
しばらくはまともに料理をする気にはなれないと思ったし、何より、まだ母の料理を食べられることが嬉しい。
最後になるだろう母の料理を、最後だと思って食べられるのと、そうでないのでは、全然違うと思ったから。
とりあえずおかずを3種類選んで取り出し、食べられる分だけ皿にとりわける。
ご飯も一度炊いて余った分を冷凍したものが大体いつも冷凍庫に入っているので、それをレンジで解凍する。
食卓に、1人分の母の料理が並ぶ。
「いただきます。」
そう言って手を合わせて、食べ始める。
朝食と違って、夕食は大体母と2人で、仕事で遅くなりがちな父は遅くに1人で食べることが多かった。
なので、これは父の見ていた景色なのかもしれないなと思いながら、ぼんやりと箸を動かす。
カーテンの隙間から入ってくる夏の夕方の日差しだけが、父の見ていた景色との差分だろうか。
「おいしいよ、お母さん。」
父と母は本当に仲が良くて、父は母の細かなところまでよく褒めるひとだったから、きっとこれも、父の見ていた景色の再現なのだということにしておく。
「本当に、おいしい。」
本当においしくて、おいしくて。
私は、こんなにもおいしいものを毎日のように食べさせて貰えていて、本当に、しあわせだったんだなと思いながら、一口ずつ噛みしめるように食べていく。
いつもより時間をかけた夕食の、最後に食べたほうれん草とベーコンのソテーは、普段の味付けよりも大分塩気が強くて、
「お母さん、味付け失敗してるよ…」
って、そんなことを思いながら、目尻をそっと拭った。
次回は8/15(土) 20:40頃に更新する予定です。




