2026年7月1日 PM4:30
いつの間にか眠ってしまっていたようだった。
頭も身体も重い。
無理やり寝返りを打って時計を見る。
7月1日 PM4:30。
5時間近くも眠ってしまっていたことに驚いた。
「起きないと…」
身体を起こそうとする。
全身が鉛のように重くて、うまく力が入らない。
泣き疲れて起き上がれないなんて、もう、そんな歳ではないと思っていたのに。
諦めて、自室の天井を眺める事にする。
「いつもの、私の部屋。」
その事実が、こんなにも残酷に感じられる日が来るなんて、想像もしていなかった。
「…知らない天井なら、まだ良かったのかな?」
わからない、わからない、かえりたい、…ドコに?
右腕で視界を閉ざす。
深く呼吸をする。
時計の音だけが聞こえる部屋。
ゆっくりと息を吐く。
心が、鋭くなっていく。
右腕を除ける。
そう、ここは、いつもの私の部屋だ。
私を守ってくれる場所で、私が守る場所だ。
ぼやけていた輪郭をなんとか繋ぎ止めて、思考を確定させる。
冷静に、論理的に。
大丈夫だ、私は、だいじょうぶだ。
ようやく起き上がることができた
時計はPM4:42を指している。
まずはもう一度外の様子を見に行かないと、と思う。
今もまだ、この場所が安全かどうかを、まずは確認しなければならない。
ベッドから立ち上がる。
クローゼットを開いて、動きやすいジーンズと長袖のシャツを取り出す。
部屋着を脱いで、外着に着替える。
乱れたベッドシーツと毛布を整える。
部屋着を畳む。
動きやすいように髪をあげて、ゴムでまとめる。
カバンからキーケースを取り出して、ジーンズのポケットにしまう。
ドアノブに手をかけたところで、もう一度だけ深呼吸をした。
ドアを開けて、部屋を出る。
エアコンで冷えた部屋の空気と、熱気がこもった2階の短い廊下の空気が混ざり合う。
正面の部屋は両親の寝室で、右隣には父の書斎。
どちらにも触れることなく階段を降りた。
顔を洗うために洗面所へ向かう。
鏡に映った自分は、なかなかにひどい顔をしていた。
顔を洗って水に流す。
こんな顔を、誰にも見られないと良いなと、思うことにして。
リビングに入って、冷蔵庫に向かって、お気に入りのカップでお茶を飲む。
最初の一杯を飲み干して、次の一杯をよそって、カップをダイニングテーブルに置く。
リビングの冷房は消さなかった。
靴を履いて、鍵を開けて、ドアを開ける。
7月の頭だから、午後5時近くなってもまだ太陽が高い。
初夏には珍しい雲一つない青空の下、人の気配が消えた街と、立ち上る無数の黒煙が見える。
午前と同じ陸橋に登った。
火災の位置は午前に見たときからかなり動いているように思えた。
周囲に燃やせるものがなくなったのか、何箇所かは火勢が弱まっているような気もする。
住宅密集地は延焼が拡大していて、田畑や水路、幹線道路などに阻まれたところから弱まっているのだろうと推測する。
程よい田舎で助かったと思う。
東京や大阪ならもっと大変な事になっているのかもしれないなと思ったが、確認する術も、おそらく確認する意味もないだろう。
午前中に予測した通り、この区域にはまだまだ火は届きそうにない。
早く雨が降ってくれればもっと安心できるだろうけれど、それこそ運次第というものだ。
今の時点で確認すべきことは確認できたので、長居はせずに家に戻ることにする。
大丈夫、だいじょうぶ…
また少し、心が軋む音が聞こえた気がした。
盆休みで少しストックが貯められたのと、ここから6エピソードは自分でも面白く書けたと思っているので、Dailyでの更新にしたいと思います。
次回は8/13(木) 20:40頃に更新する予定です。




