第7話 ラウンド2【女の本気】
ゴングが鳴ると同時に、猛田がさらにギアを上げてきた。
「女の本気というのを見せてもらおうか!」
「所詮は女、弱いけどな。」
ジャブが飛んでくる。
今度は先ほどより速く、重い。
ドン! ドン! ドン!
黒いグローブが私のガードを叩くたび、腕全体が痺れ、肩にまで衝撃が走った。
私は後退しながら耐えるが、猛田のリーチが長いせいで距離を保つのが難しい。
「ははっ! どうした? さっきの勢いはどこへ行ったんだよ!?
お前みたいな弱っちい女子が俺に勝てると思ってんのかよ!」
猛田が嘲笑しながら右ストレートを放ってきた。
私はギリギリでガードしたが、衝撃で体が後ろにのけぞった。
続けて左フックが腹にめり込む。
ガンッ!
内臓が締め付けられるような激痛が走り、息が一瞬止まった。
胃が熱くなり、吐き気さえ感じる。
(痛い……本当に痛い……
このパンチの重さ……男の力って、こんなに違うのか……)
「息上がってんじゃねえか! 情けねえな!
2ヶ月練習しただけじゃ、所詮この程度かよ!」
猛田が楽しそうに笑いながらさらに攻めてくる。
連続したコンビネーション。ジャブ→右ストレート→左フック。
私は必死にガードを固め、フットワークで逃げようとしたが、腹の痛みが足を重くさせる。
視界が少し揺れ、息が上がる。
(苦しい……体が重い……でも、まだ耐えられる……!)
遠くのリングサイドから桃子の叫び声が飛んできた。
「茜! 大丈夫!? 落ち着いて! 先生の教えを思い出して!」
その声に、私は小さく歯を食いしばった。
(桃子……見てる……私は負けない……絶対に……)
猛田がさらに近づいてきて、挑発を続けた。
「なぁ、お前本当に桃子のヒーロー気取りか?
はははっ! 笑わせんなよ!
お前みたいな弱い女が俺に勝てるわけねえだろ!
今日、リングの上で泣きながら土下座させてやるよ!」
ドンッ!
またボディへの一撃が腹に深く刺さった。
痛みが背骨まで響き、視界が一瞬白くなる。
息が苦しくて、肺が熱い。
それでも私は後退しながら猛田のパンチの軌道を読み、隙を待った。
終盤、猛田の右ストレートが少し大きくなった瞬間——
私は一歩踏み込み、左ジャブを放った。
「てえぇぇい!」
パシッ!
拳が猛田の顔面にクリーンヒットした。
「っ……!」
猛田が初めて顔を大きくしかめ、後ろに少し下がった。
その瞬間、遠巻きにいた女子たちから小さなどよめきと歓声が上がった。
「当たった……!」
「茜ちゃん……!」
猛田は頰を擦りながら、目つきを鋭くした。
「てめえ……本気でムカつく女だな。
次は本気でぶっ飛ばしてやる!」
私は荒い息を吐きながら、グローブを握り直し、声を振り絞った。
「私は絶対に負けない!
女が本気になったら、どんな男だって越えられる!」
「女の本気を見せてやる……!!」
猛田は歯を食いしばり、吐き捨てるように言った。
「はっ……女の本気だと?
ふざけんな! 所詮は女、男には勝てねえんだよ!
その生意気な口、リングの上で叩き潰してやる!」
2ラウンド終了のゴングが鳴った。
私はリングのコーナーに戻り、大きく息を整えた。
全身が熱く、左腕が腫れ上がり、腹の奥がズキズキと痛む。
それでも、胸の奥では闘志が静かに燃え続けていた。




