第6話 ラウンド1【暴力とプライドの黒】
ゴングが鳴った瞬間、空気が一気に張りつめた。
猛田が試合開始と同時に猛烈に飛び込んできた。
「さあ、始めるぞ! 女の本気というやつを見せてもらおうか!」
最初のジャブが飛んでくる。
ドン!
黒いグローブが私のガードに直撃した。衝撃が腕の骨までビリビリと響き、肩が震えた。
その黒は重く、暗く、まるで猛田の暴力とプライドを象徴しているようだった。
対する私の真っ赤なグローブは、リングのライトに照らされて鮮やかに輝いていた。
赤と黒——正反対の二色が、リングの上で激しくぶつかり合おうとしていた。
重い。想像以上に重い。
続けて二発、三発とジャブが飛んでくる。
「どうしたよ、お前が『試合しろ』って言ってきたんだろ!?
逃げてんじゃねえよ!」
猛田の声が大きく響く。挑発的で、嘲るような笑みが顔に張り付いている。
私は佐藤先生の教えを必死に思い出して後退しながらガードを固めた。
しかしリーチの差が大きく、すぐに距離を詰められる。
ドンッ!
今度はボディへのストレートが腹にめり込んだ。
胃がねじれるような激痛が走り、息が一瞬止まった。
肺が熱くなり、視界が少し揺れる。
(痛い……この重さ……本物だ……耐えなきゃ……!)
「ははっ! もう息上がってんのか? 情けねえな!
お前みたいな弱っちい女子が俺に勝てると思ってんのかよ!」
猛田が笑いながらさらに攻めてくる。
黒いグローブが次々と迫り、私の赤いガードを叩くたび、衝撃が全身に伝わる。
私は歯を食いしばり、フットワークで距離を取ろうとしたが、腕が徐々に痺れて重くなっていく。
左前腕が熱を持ち、腫れ上がっているのが自分でもわかった。
遠くのリングサイドから桃子の声が飛んできた。
「茜! 大丈夫! 落ち着いて!」
その声に、私は小さく頷いた。
(桃子……見てるよ……私は負けない……)
猛田がさらに近づいてきて、連続したジャブを浴びせてきた。
ドン! ドン! ドン!
ガードに当たるたび、黒い衝撃が赤いガードを押し込み、息が乱れる。
汗が目に入り、視界が少し滲んだ。
「まだまだ序盤だぜ! もっと本気出せよ。
お前が挑んだ試合だろ!?」
猛田の声は楽しげですらあった。
私は何も答えず、ただ耐え続けた。
1ラウンドのゴングが鳴るまで、まるで永遠のように長く感じられた。
ゴング。
私はリングのコーナーに戻り、荒い息を整えた。
左腕が熱く腫れ上がり、腹の奥がズキズキと痛む。
それでも、私は拳を握り直した。
(まだ始まったばかりだ……
ここからが本番だ)




