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第5話 試合開始

二日後——試合当日。

体育館は異様な熱気と緊張に満ちていた。

簡易リングが急遽設営され、普段の授業では見られないほどの生徒たちが集まっていた。

噂は一気に広がり、特に猛田の横暴さを嫌っていた女子たちが遠巻きに大勢集まり、静かにリングを見つめていた。

彼女たちは声を出さず、ただ固唾を飲んで試合の行方を見守っている。

控え室からリングへ向かう通路で、桃子が茜の手を強く握った。

「茜……本当に大丈夫? 無理しないでね……」

桃子の声は少し震えていた。

茜は親友の顔を見て、精一杯の笑顔を作った。

「大丈夫。2ヶ月間、桃子と先生と一緒に頑張ってきたんだもん。

今日は絶対に勝つよ。桃子はリングサイドで、私を見てて」

佐藤先生が二人の肩に手を置いた。

「茜、焦らなくていいわ。自分のリズムを崩さないこと。

そして……信じて。君の拳は、もう十分に強い。

私もリングサイドで、ずっと見守っているから」

茜は深く頷き、真っ赤なグローブをはめた両手を軽く握りしめた。

掌の中が汗で湿り、心臓の鼓動が耳の奥で激しく鳴っている。

リングに上がった瞬間、観客の視線が一気に集中した。

体育館全体がざわめき、期待と好奇心が入り混じった空気が張りつめている。

向かい側に立つ猛田は、黒いグローブをはめ、余裕たっぷりの嘲笑を浮かべていた。

身長差も、体格差も、経験差も——すべてが猛田に有利に見える。

猛田がマイクを握り、観客に向かって大声で叫んだ。

「見てろよ! このチビ女をリングの上でボコボコにして、泣き叫ぶ姿を見せてやるぜ!

2ヶ月練習しただけじゃ、俺の相手にもならないんだよ!」

男子部員たちから笑い声が上がる。

「部長、ぶっ飛ばせ!」「女が何分かってんだよ!」という野次が飛んだ。

茜は深呼吸をし、マイクを受け取った。

声は少し震えていたが、目は揺るがなかった。

「猛田くん……桃子をいじめたこと、全部許さない。

今日で終わりにする。負けたら、二度と桃子に近づかないで」

猛田が大笑いした。

「はははっ! 気合いだけは一人前だな。

リングの上でボコボコにして、土下座させてやるよ!

女の分際で俺に挑戦状出すなんて、笑わせんな!」

レフェリーが二人を中央に呼び、試合開始の合図を待った。

茜は目を閉じた。

(怖い……体が震えてる……

でも、桃子がカフェで泣いていた顔を、もう二度と見たくない。

私は——守るためにここにいる)

目を開けたとき、茜の瞳には迷いがなくなっていた。

ゴングが、鋭く鳴り響いた。

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