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エピローグ:腹が減っては……
事務所に戻ると、案の定、祢城さんは電話にかじりついていた。
「もしもし、特上寿司を10人前。あと、サイドメニューの唐揚げとポテトも全部ください。……ええ、大丈夫です、食べますから」
「10人前って……」
俺は呆れてソファに倒れ込んだ。
「麦くん。人生は短いんだ。美味しいものを食べられるうちに食べておかないと、いつ時間が止まるか分からないからね」
祢城さんは、電話を置き、不敵に笑った。
「さあ、チップを置こう。次の事件が起きるまでに、僕の胃袋がどれだけ大きくなるか。……賭けるかい?」
「賭けませんよ。俺の給料がパン代で消えちゃいますから」
コーヒーの香りが事務所を満たす。俺の鋭い鼻は、次に届くであろうお寿司の「酢飯の匂い」を、もう遠くからキャッチしていた。
不条理な世界の中でも、お腹は空く。
そして、隣には信頼できる(けれど食い意地の張った)探偵がいる。
「よし、パンは5個じゃ足りないな。20個買ってきてくれ」
「自分で行ってください!」
俺たちの日常は、まだ始まったばかりだ。




