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デザイア・ルーツ  作者: 時ノ宮怜
叶わぬ夢、欲望が這いよる
7/13

割と終わった世界

解説回になりますが、割とどうでもいいっちゃどうでもいい話なんで

話半分ぐらいで読み飛ばしていただければ

 喫茶店Lunaの地下。

 そこは薄暗い地下という印象を全く与えず、普通にライフラインが整っており人工の灯りによって明るさが保たれていた。

 克人がそのことに違和感を覚えている事に気が付いたのか、パティによって「そんな薄暗い場所なんて嫌よ、辛気臭くなってしまうわ」と説明された。


 そんな思っていたよりも普通の地下通路を少し進んだところで、一つの部屋にたどり着く。

 そこは大きなスクリーンに壁際に並べられたロッカーという、いかにもと言った雰囲気の部屋だった。

 克人にとってはこういう部屋の方が、今から始まるのだという緊張感を正しく感じられて肌に合っていると思った。


「適当に座ってちょうだい」


 パティがスクリーンのすぐ傍に腰かけて、マスターと朱利は恐らくそれぞれの定位置があるのだろう、迷うことなく座っていく。

 初めてこの場に来た克人は落ち着かない様子で、数舜迷ってからマスターの近くに腰を落ち着けた。


「さて、今回は新情報の共有のために集めたのだけど...メインの理屈としては新人の彼にウチのやり方を伝えるためっていう意味の方が大きいわ」


 ここまではいいわね?とでも言いたげなパティの視線が全員を順番に巡り、満足したかのように頷いて話を続ける。


「まずはおさらいからしましょう。克人、あなたはどこまでこの街について知っているかしら?」

「どこまでって、多分一般的な話以上の事は知らないぞ?裏の事情なんかはさっぱりだ」


 前提として必要となる知識の量について克人がどれほど持っているかを確認してから、パティは指を唇にあてて虚空を見つめる。


「んー、そうね。では基本からおさらいしましょう」


 そしてパティはこの街について語る。

 それは歴史、そして背景。

 ただ毎日を必死に生きてきた克人にとっては塵ほどの価値もなかった知識であり、しかし今後この組織で活動していく上で必要になるのであろう知識。

 というよりは、ある程度は知っておかねばならない常識なのかもしれない。


 パティが手元のパネルを操作すると、スクリーンに何か建物の地図のようなものが映し出される。


「さて、これがこの街「デザイア」の全容よ。と言っても、機密で公開していなかったり、データが意味をなさないぐらい毎日のように姿を変える場所もあるから、基本形ってだけだけど」


 克人はもちろんそれを見たのは初めてだ。

 自身の住む街のその姿を知るのが初めてだった。


 街はいくつかの階層に別れており、下に行くほど大きくなっておりまるで何かの塔のような姿をしていた。階層に別れているのは街で過ごしていれば嫌でも知ることになるため克人でも知っていたが、それがそれぞれどれほどの広さなのかはしっかりと意識したことはなかった。


「まず、私達(Luna)があるのはここ、中位五層と呼ばれる区画。比較的上層ではあるけれど、本当に上層と呼ばれる区画は街の支配者のための階層だから、私達が入ることは基本的にはないわ」


 上層は特別な存在のための区画らしく、仮に克人がそこへ向かおうとすれば一度目は立ち入り禁止と追い返され、二度目には即座に逮捕、または処刑だ。これほど一般人が近づくことができず、同時に忌避する場所もないだろう。


「中位層でもかなりの格差はあるけれど、一番したが九層。確か、あなたはここの出身だったわね」


 克人の居た居住区と呼ばれる区画は中位九層だ。それを考えれば、この喫茶店のある場所は随分と上のほうにあると言える。というか、中位層は五層が最上位であるためここが実質の最上位層とも言えるだろう。


「そして、そのさらに下。下位層と呼ばれる区画。克人はここについては?」

「いや、あまり知らないが、九層でなんとか生きているチンピラたちの間では下位層に落ちたら二度と戻ってこられないと言われていた。.........だから、どんなに割のいい仕事でも下位層にだけは行くなって噂だ」


 実際、少ない顔見知りが下位層へ仕事に行ってから見なくなったこともある。

 この噂は奪い奪われが日常と化している底辺のやつらですらお互いに守り、教え合うほどに信じられている話だ。

 下位層でなにが起きて、何が待っているかなんて誰も知らないが、九層ですでに底辺のような生活をしているのにさらにその下となれば、もはや何が起きても不思議ではないと誰もが納得していた。


「そうね、それは概ね間違ってないんじゃないかしら。下位層に行くにはしっかりと武装して戦う準備をしなければ危ないから」

「は?」


 克人は確かに下位層は危ないとは思っていた。奪い奪われが常態化している層よりもさらに下なのだから、もっと秩序のない地獄なのだろうと、そう思っていた。

 しかし、武装しないと危険とは?


「そうねそうよね、この街の中で産まれ、そして十分な教育を受けた訳ではない克人は知らないのも無理はないわね。克人、あなたはこの街の外がどうなっているか知っている?」

「いや............知らない」


 当然だ。克人はこれまで独りで生きてきた。仕事は見て覚えた、たまに他人に構う余裕のある大人に少し教えてもらったこともあったが、その大人からして中位九層に生きたチンピラだ。ろくな教養があるわけでもなく、そもそも明日生きるのに必死な連中が街の外なんて生きる上で必要のないことを考える事は無かった。


「街の外は、人間だけを選別して殺す毒が蔓延した世界になっているのよ」

「人間だけを殺す?」

「そう、空気も土地も水も、そしてそこに住まう人間以外の動物たちも、そのことごとくが人間を殺す毒となっているの」

「.........なんだ?その、毒?人間だけを殺すのか?」


 街の中で過ごした克人にとって人間以外の生き物というのはあまり見たことがない。

 しかし、虫もネズミも見たことはある。

 ああいうのは、確か人間の住みずらい場所に集まると言うのを知っている。

 逆にそいつらを追い出せば人間が住むことが出来るという事も知っている。


 仕事でそういうのを駆除するときに、それらを殺す毒を使ったこともある。

 その毒は人間にも効くから、慎重に取り扱ったのも覚えている。

 だけど、その逆。

 人間を殺す、人間だけを殺す毒は聞いたことがない。

 だけど、存在はするのだろう。それに疑問はない。

 疑問なのは、


「それはなんだ?それを撒いたやつは、頭がおかしいんじゃないか?」


 それに尽きる。だってメリットよりもデメリットの方が大きい。

 街の外すべてを毒にしてしまうほどの毒を撒けば、自分たちだって危ないはずだ。

 街の中に何かの間違えで入ってきてしまえば、一気に全滅するほどの危うさだ。


「そうね、頭がおかしかったのよ。あの当時の人間たちは」

「?知っているのか?その人間を」

「ええ、昔話になっているからね、聞かせてあげるわ上の方の階層じゃ普通に語り継がれている、世界の話を――『ある日、世界は、人類は滅びた―」


 そうしてパティの口から語られた昔話は、この世界が毒に沈むまでの、人間の、人類のどうしようもなさを如実に表したどうしようもない終幕の話だった。


 克人はそれを聞いても大して心動かなかった。それはその話に思うところが何もなかったからではない、ただありのままに人間とはそういう物だと実感していたからだ。

 話は興味深く、なるほど街の外が終わってしまった原因としては分かりやかった、しかしそこに付随する人間の愚かさなんて、今更語られる必要もなく知っている。

 だから、克人が気になったのは、


「その話、それが下位層が危険って話にどう繋がるんだ?」


 そのことだった。

 その話が全て本当の事だったとして、この街はその純白の願いとやらで残された最後の可能性なのだろう。だとしたら、この街だけは人類が生きていける場所という事になる。

 ならば、下位層の危険とは何なのだろうか。


「......昔話にも出てきたけれど、外の世界は空気も汚染されているわ。それにそこで育った生き物もいる。人類の生存圏を脅かすような生き物がね。そして、この街の最も外に近いのは下位層なのよ」


 ヒントを伝えるかのように、一つ一つ丁寧に要素を並べていくパティ。

 克人も途中で気が付いた。

 そうだ、人類が生きていける場所と生きていけない場所を隔てるものは何なのだろうか、単純に何か見えない壁のようなものがあるはずもない。

 昔話で語られたのは、可能性の話だ。だとすれば、その二点を隔てたのは.........


「下位層が外と内を分ける壁の役目をしている?」

「そういうことよ」


 克人は知らなかった。知らなかったが確実に、世界は割と終わっていたらしい。

ep.4冒頭の昔話


『欲望都市デザイア』

階層構造をした人類最後の生存権

毒とそれに適応した魔獣から人類を守る都市。

上位、中位、下位と階層に明確な差を作っている。

これは建設当初の混乱を最大限抑えるためという目的があったが、今では腐敗の温床となっている。

[上位層]

街の権利者、為政者、軍人などの限られた人間、限られた階級のものしか立ち入ることを許されず、エネルギーの供給量がもっとも優先されるべき施設が密集しているため、必然裕福になっていく。


[中位層]

街としての機能のほとんどを担う階層。

一般人の住居、商業施設、学園、宗教施設など生活に関わるほとんど全てがそろっている


[下位層]

街と外を分ける壁の役割を与えられた階層。

すぐ傍が魔獣と毒の世界であるため、土地や空気に少しばかり汚染が残っており、また定期的に強大な魔獣が襲い来る環境。

忘れられた廃棄区画。

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