願いを奪う装置3
投稿設定ミスってました...
「全員が...…?」
自然と克人の目線は部屋を順に眺める形となった。
この部屋にいる全員を順に視るために。
パティのその言葉にマスターも朱利も無反応だ。
と言うか朱利は、話に飽きてきたのか座った状態でこっくりこっくりと首を揺らしている。
「ええ、そうよ。私達『Luna』は、少数精鋭の能力者集団。それぐらいのインパクトがなければこの街の裏側では生き残れないもの...」
その言葉を聞いて、克人は少しだけ安心した。
パティはよくわからないが、自分よりも強い二人...マスターと朱利も能力者であるという事に安堵を覚えた。
それは自分では決して敵わない相手も、また人とは違う特別な力を持っているという事が分かったからだ。
克人はその考えを情けないとは思いつつも、しかし決して卑屈に考えてはいなかった。
それだけ強力な味方がいるのだという事に安堵したのだった。
「お嬢様、その言い方は......」
「うふふ、いいじゃない。嘘は言ってないわ」
「そうですが.........」
マスターが何やら複雑な表情でパティに苦言する。
確かにマスターならば自身の力に関して、悪戯に見せびらかして誇るような真似は余り好まないのだろうと克人は勝手に納得した。
しかし続くパティの補足によって、その浅はかな考えは真向から否定された。
「ごめんなさいね、ちょっと克人を揶揄いたくって、盛って話したわ。実はマスターも、朱利も、戦闘には直接関係ない能力を持っているのよ。下手をすれば体が頑丈であるという分、克人の方が戦闘向きと言えるほどに」
「.........え?」
それは二人が能力者であるという言葉よりも、余程衝撃的な言葉だった。
この二人が戦闘向きではない能力を持っている。
克人よりも確実に強く、このまま一生到達できそうにないようにも思えるほどの二人が、克人よりも戦闘に向かない能力を持っている。
つまりはあの戦闘能力に能力は全く持って関係が無いという事だ。
ほとんど見えていないような暗闇の中で、正確な射撃と近接での体捌きを見せたマスターも、人に本当に可能なのか疑わしい動きと、躊躇いのない攻撃によって多数すら蹂躙した朱利も、その動きに能力は関係無いと言う。
言ってしまえば、特別なのは装備だけ。
あの葬備さえ着ていれば、誰にでも出来るはずの範囲でしか戦っていなかったという事だ。
克人はできないと思った。
あの時の手に持った獲物は違うが、身に纏う葬備は同じものだった。
であれば、同じことが出来るばずなのだ。
だが、出来ないと確信してしまっていた。
「克人の言いたい事は何となくだが.........分かる。だが、朱利の動きはともかくとして、私の動きは鍛えれば誰でも出来るものだろう。今の、訓練も受けていない、チンピラ上がりの葬備にも慣れていないお前が私達の動きを見て、差を感じるのは当然だ」
マスターの言い方はどこか突き放す様に冷たかったが、克人にはその中に手を差し伸べるような声音も感じていた。
「お前は弱い、調子に乗るな、だから鍛えろ」そう言われているような気がしたのだ。
「.........鍛えれば、マスターのレベルになれんのか?」
「それはお前次第だ、だが今よりは確実にマシになる」
「分かった、鍛え方を教えてくれ」
「ああ、この話が終わったら訓練に付き合ってやる」
克人は確かに自分が弱い事を自覚していた。
周りが強いという状況には割と慣れていたからだ。
しかし、その状況に甘んじている事には今ようやく自覚したところだった。
だからこそ、今ここでマスターへ頼み込んだ。
そういう判断自体はとても早かった。
克人の前の暮らしでは、そう言った自分にプラスになる行動を躊躇する余裕がなかったから、そういった判断は即断即決する事を自然と身に着けたからだ。
「いいわね、私としても自分のお店の仲間が強くなるのには大賛成よ。頑張ってね」
そのやり取りを聞いていたパティは、本当にうれしそうに笑って手を叩いた。
その余裕のある態度に、克人の脳裏にふと浮かぶ疑問。
ここに居る全員が能力者であるなら、パティもまた能力者なのだろうか?
そして、マスターと朱利は直接戦闘に関わらない能力とは言うが、それぞれの能力とはどんなものなのだろうか?
だが、それを聞くことはできなかった。
なんとなく、聞いてはいけない気がしたから。
能力が、人の願いを叶えるために毒杯によって与えられたものなら、能力の詳細を知ることが願いを知ることと同義なような気がしたから。
その人が、生きたいと、死にたくないと願うのと同じぐらい当たり前で強く願った、その思いを簡単に教えて欲しいとは言えなかった。
「さて、これでもうストリガルを私達が使わない理由としては十分だとは思うけれど、折角だから教えておくわね?」
「.........ああ、頼む」
既にこの機械を使わない理由としては100%納得の行くような説明を受けてはいるが、曰く使わない理由は三つあるらしい。
克人としても、そこに何か意味があるのなら知っておいた方がいいだろうと思い、意識を元の話に戻してパティの言葉に耳を傾ける。
「なんだか、最初に伝えた理由が随分と驚かせてしまったみたいだけれど、後の理由は単純なのよ。二つ目はコレを使えば私達もまた、様々な組織に狙われるから。私たちはこうして少ない人数でも活動できるぐらいには力はあるけど、本当に力を持った組織にはかなわないわ。今も私たちにこの機械の調査を頼んできた組織みたいなのは相応の準備をして、決死の覚悟がなければ無理ね」
「......そうか、そういえばこの依頼が誰からの物か聞いてなかったな......誰からなんだ?」
克人の質問に、「そういえば言ってなかったわね」なんて軽い調子でパティが答える。
その様子に克人はそんな緩さでいいのだろうかと少しだけ訝しんだ。
「軍よ、警察軍からの依頼で私たちはコレの調査をしていたの」
「軍から.........!?」
警察自治軍―警軍や警察軍と呼称されるこの街における、自治組織であり、もっとも力をもつ権力団体でもある。
この街には正しい行政と言うものはない。
単純に上層に住む者たち、中層に住む者たち、下層に住む者たちで暮らしも、そこにある暗黙のルールも違う。
故にどれだけ権力者が指示を出したところでそれが正確に施行されることはなく、またどれだけ一般人が訴えたところで権力者までその声が届くことは無い。
だが、それでも完全な無秩序では街の体裁を保てなくなる。
そんな薄氷の上に立つ、不確かな秩序のために存在する強い力を持つ組織が二つある。
その一つが、警察軍だった。
この組織は自治組織を謡っているが、その実態はただの暴力組織でしかないのは街の全員が知っている。
軍が定めた秩序を乱したり、軍へ多額の援助金を支払っている組織に被害が出た時にその圧倒的な武力によって鎮静、平定するのだ。
それだけにこの街では特に有名であり、逆に言えば信頼と実績がある組織でもあった。
だからこそなのかこの組織は傲慢でも有名で、少しでも軽んじられることを嫌がり、実は大したことがないなんて噂が流れれば、その噂が無くなるまで噂をした人間を潰して回ったこともあると言われている。
克人が依頼人の名前に軍が出てきて驚いたのはそういった軍の性質をよくよく理解していたからだ。
「え、あの軍が?外部に依頼したって言うのか?」
「ビックリよね」
「ビックリで済ませられる話じゃない気がするんだが.........」
外部である『Luna』に依頼するという事は、軍だけでは解決が出来ないと言っているようなものだ。
そんな弱みを見せるようなことを軍がするとは思えず驚いたのだ。
「まぁ、ちょっとした伝手があってね。軍とは仲がいいのよ、『Luna』って。それに胡坐をかいて、弱みや内情を悪戯に吹聴すれば戦争になるでしょうけど、そういうつもりもないし......いいパートナーぐらいに思っているわ」
「............今更だが、なにもんだよ」
「ちょっと可笑しな、お金持ちよ」
本当の事を言うつもりがないのか、あからさまにはぐらかしつつも、その態度を一切隠す様子もなくパティは言い切った。
「それで、分かったかしら?今回の依頼は、あんまり依頼主からの心証を悪くするのはしたくない相手から、だから私たちはそんな依頼主が調査するよう頼んできた怪しい機械を使うわけにはいかないのよ」
「.........ああ、よくわかった」
そんな大きな組織が後ろにいる依頼なら、確かに勝手なことはできないだろうと克人は納得した。
これでは全員が能力者であるためメリットはゼロで、依頼主が軍でデメリットは絶大という事になる。
それは確かに使う事は無いなと、深く理解したのだ。
「それじゃあ、最後の理由ね」
『警察自治軍』
[階層]上位二層:警察自治軍本部
デザイアに置いて権力を二分している組織の内の一つ。
圧倒的な武力により他を押さえつけることで自治を行う警察組織だが、
軍にとって邪魔な存在を消しているばかりでまともな自治は滅多に行わない。
デザイア内での権力を独占するために、聖杯教会とは敵対している。




