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デザイア・ルーツ  作者: 時ノ宮怜
叶わぬ夢、欲望が這いよる
25/30

願いを奪う装置1

「というわけで、克人くんが目を覚ましましたー!!」

「おめでとー!!」


 ぱちぱちと拍手の音が部屋にこだまする。

 現在は喫茶店Lunaの地下、克人がここに来るのも3度目になるが、かつてここまで明るく出迎えられたことはなかった。

 部屋には、克人が困惑している姿を楽しそうにいじるパティと、純粋に克人が起きてきたことを喜んでいる朱利、部屋の隅にはその様子を呆れ気味に眺めているマスターの姿があった。


「もう、克人はノリが悪いですね。せっかくあなたの快気祝いをしているというのに、何ですかその反応は」

「いや、困惑が強すぎてなんて反応していいのかわからん。というか、あんた楽しんでるだろう」

「そんなことはないわ。ちゃんとお祝いしたいって気持ちは本物だもの」

「おめでとう!おめでとー!!」


 どうやら、今宵の女性陣はとってもハイテンションのようだった。

 克人は救いを求めるかのように、唯一冷静でいるマスターへと視線を向ける。


 だが、マスターはそんな視線を受けて、返したのはある意味残酷な宣告だった。


「諦めろ」

「......えぇ」


 シンプルに見捨てられて、ますます困惑する克人。

 一体、自分が寝ている間に何があったというのか。

 少なくとも、あの作戦の日よりも前は、克人の状態一つでこんなに大盛り上がりするほどの好感があったように思えない。

 というより、朱利はともかくパティは明らかに面白がってあえてそういう立ち振る舞いをしているようにしか見えなかった。


「マスターも、せっかく新人が大手柄を上げたんだから、一緒に喜んであげないのかしら?」

「いえ、あれはあくまでも運が良かっただけです。確かに誰の功績かと言われれば、克人でしょうが、その結果をあまり手放しで褒めるのは本人のためになりません」

「まったくお堅いんだから」

「ですが、必要です」


 克人をいじるのに満足したのか、今度は一歩引いていたマスターに対して苦言をするパティ。

 しかし、そこは流石の隙のなさ。

 マスターは、ぴしゃりとパティの誘いを断り自身の言葉を言い切った


「まったく少しぐらいいいじゃない」

「いいじゃん!いいじゃん!!お祝いだよ!お手柄だよ!」

「手柄?」


 どうやらこのハイテンションにも理由はあったらしい。

 しかし、克人にはその心当たりがなかった。

 手柄と言われても、自分が何かを成したという実感がなかった。


「そうよ、そうね。克人は何のことかわかっていないようだし、このままブリーフィングと行きましょうか」


 パティがそういうと先ほどまでの騒がしくも楽し気な雰囲気は鳴りを潜め、引き締まった空気が部屋を満たしていた。

 その急激な温度変化にも似た空気の推移に克人はまだ慣れていない。

 そのため、自分だけが話に取り残されているかのような錯覚を覚えるが、パティはそれすらも見抜いているかのように、ゆっくりとタメを作ってから話し始める。


「さて、先ほどから言っているように克人が私たちに重大なものを勝ち取ってきてくれました」


 そういいながらコトッと机に置いたのは見覚えのある小さな機械。

 見覚えがあるとはいいつつも克人はこれに関して、あまり深堀すると危険だと直感で思ったため、こうしてまじまじと見るのは初めてだった。


 それは手のひらに収まるサイズの小さな箱型の機械。

 強いて言えばエネルギーカプセルが見た目としては一番似ているだろうか。

 あれよりもよほど複雑な構造の機械のようだから似ているだけなのだろうが。


「なんかエネルギーカプセルに似ているな」

「そうね、役割としては似たようなものだから、見た目も似ているんじゃないかしら」

「似ている?役割が?」


 エネルギーカプセルは、その名の通りエネルギーが詰まっているカプセルだ。

 この街で暮らすうえで必要不可欠なものであり、金なんて上等なものを持たない人間たちにとってはそれこそが金の代わりとなる代物だった。


 そんなものに似た機能だという。

 というか、この機械がどんなものなのか分かったのかと克人は思った。


「この機械について知っているのかとでも言いたげな顔ね」

「そりゃ、それがどんなもんなのか知っていたなら、なんで事前に教えてくれなかったんだろうなって思って...」

「もちろん知っていたら教えていたわ。でも、あの時は知らなかったのよ。今、私が、私たちがこの機械について、その機能について知っているのはあなたのお陰だもの」

「俺の?」

「そうよ、さっきから言っているじゃない大手柄だって。あなたがこれを持ち帰ってくれたおかげで、現物を解析して、その機能がなんなのかを知ることができたのよ」


 パティは本当に嬉しそうにそう言った。

 対して克人は少し複雑な気分だった。

 ようやく、自分が褒められている理由が、女性陣が大喜びしている理由が分かった。

 だが、それはマスターの言っていたとおりあまり自慢できるような成果じゃなかった。


 その機械を持ち帰ったのは自分ではないと克人は考える。


 あの時、自分はただ成す術もなくただあの騎士に殺されかけただけ、そんな克人と機械を持ち帰ったのはマスターと朱利だ。

 ならばやはり手柄はその二人にあるべきだった。

 自然と克人はそう考えていたが、パティ達にとっては紛れもなく克人の功績だという。


「ま、克人はアレを知らないからね」

「アレ?」

「後で教えてあげるわ、今はこの機械のことよ」


 気になることを言う。

 克人としてはまだまだ納得ができない事ではあるので、さっさと説明して欲しい。

 アレとはなんなのだろうか、それを知れば今回のこの成果が自分のものであると思えるようになるのだろうか。


 きっとそんなことはないんじゃないかと思うが、それでも後でと言われれば、納得せざるを得ない。


「さて、この機械、『ストリガル』という名前らしいわね。これは能力者を量産することができる機械だということがわかりました」

「!?」


 能力者、能力、それは先ほどパティに教えてもらった概念だった。

 なるほど、あのタイミングでパティが能力について説明しに来ていたのはこのためだったらしい。

 確かに、能力というものを知らなかったらこの機械のやばさに気が付けないのだから。


 と、克人は思っていたが、どうやら機能を知って驚いているのは克人だけだったみたいだ。


「あれ、これってやばいと思ったんだけど.........そうでもない?」

「いや、克人。お前の感覚は正しい、ただ私と朱利が驚いていないのは、単純にこの解析結果が出たのはお前がまだ意識の無かった時でな、私たちは先に知っていただけだ」

「ああ、そういう.........え、じゃあやっぱりこの機械ってかなりやばい?」

「ああ」

「ええ」

「そうらしいよ?」


 数少ないとされる能力者。

 命の危機でもなきゃ発現しない能力。

 そんなものが量産できる機械。


 そう詳しくなくてもわかる。これはやばいと。

 克人もまた、それに気が付いていた。

 この間の任務で分かった、マスターも朱利も間違いなく強者だ。

 マフィアたちと戦って、まったく負けていない。

 立った二人で、組織一つと同等かもしれない。


 だが、この機械を使い始めてから形勢が変わった。

 それはつまり、それだけ能力というものが戦闘で役に立つということだ。

 それを量産できる。


 武器を直接量産するのとは、少し違うのかもしれないが、これは立派な兵器だ。

 これがたくさんあって、それをたくさん使うだけで、屈強な訓練された戦士にも匹敵する能力者を作れる。

 それはもはや、この機械の存在が=で戦力といっても過言ではなくなる可能性があった。


「しかもこれ、使うためにかなり酷い準備が必要なのよね」

「酷い準備?」


 なんというかあまり聞き馴染みのない組み合わせの言葉だった。


「そう、言ったでしょう?能力ってのは願いを叶えてもらっら付いてくるおまけ、ならこの能力者量産マシンはどこから願いを持ってきているんでしょうか」

「持ってくる?そういうものなのか?」

「ええ、そうよ。能力は毒杯(せいはい)の領分。人間には再現できないわ。けど、願いなら再現できる。純粋な強い願いを引き出す方法は、一つだけ確実な方法がある」


 パティは可笑しいものを見たとでも言いたげ、少しだけ嘲笑の混じった笑みを浮かべていた。

 克人も馬鹿ではなかった。

 モノを知らないだけで、考える力自体はあった。

 だからこそ、その不気味なパティの表情と言葉から推察ができる。できてしまう。


 毒杯(せいはい)が叶えるほどの純粋な願いでありながら、方法が分かりやすい願い。


 先ほどのパティの言葉がフラッシュバックする。


『毒杯(せいはい)が願いを聞き届けるほど純粋で強い願いなんてそうそう生まれないわよ。もっともその可能性が高いのって、やっぱり命が掛かっているいる時じゃない?』


 ああそうだ。たしかにこれなら、簡単に再現ができる。

 だが、本当に?そんなことをする人間がいるのだろうか。


 いや、いる。この街ではそうでなければ生きられない人間だって多くいるのだから。


「ようするに、拷問して生きたいと思わせればいいのよ」


 パティから告げられたのは胸糞の悪くなりそうな話だった。

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