乱戦1
「死ねぇ!!」
上段から振り下ろされる剣が空を斬る。
それは克人のすぐ傍で振るわれた敵の攻撃。
確実にこちらを殺すという意思が込められているであろう、躊躇いのない勢いで振るわれた攻撃。
しかし、当たらない。
「っふ!!」
そして、剣が振るわれた音。敵の声からおおよその方向を知りえた克人がその手に握る棍棒をフルスイングする。
当然克人はよく見えていない。暗闇の中で相手の方向はおおよその位置でしか把握できていない。
そのため、こちらもまた躊躇などできない。
なにせどこで力を抜けばいいのか分からないのだから、全力で振りぬくことしかできない。
そも躊躇などいらない状況ではあるのだが。
「ぐぇ!!」
鈍い感触が棒を伝って手に帰ってくると共に、くぐもった声が響く。
どうやら克人の攻撃は正確に襲撃者へと当たったらしい。
そのことに一瞬、ほんの一瞬だが克人に隙を作った。
攻撃が当たったと言う安堵が、チンピラ上がりの自身の動きが、本職の人間相手に通じるという確かな慢心が、隙を作った。
相手は、木っ端。
末端も末端。
とは言え、確かにこの欲望渦巻く街で今日まで生き延びたアンダーグラウンドを住処とするマフィアの一員。
克人と比べてしまえば、場数も覚悟も、その質、数、厚みが違う。
重ねてきた歴史が違う。
克人の目に、光る物が見える。
それは鈍い輝き。
克人自身が着ている葬備が発している光を反射して、また輝くように見えた刃。
すでに目と鼻の先まで迫っているそれが見えた。
まずい、間に合わない。そう感じる暇もないほどに手遅れな位置。
油断が生んだ慢心、それが警戒を緩ませて、反応を遅らせた。
相手は命のやり取りになれたマフィア。
仲間がどうなろうと、敵を殺すという覚悟を持った集団。
多対一で、味方を犠牲にすることを躊躇しない。卑怯とも思わない。
力とは勝たなければ意味がないと、これまでの経験で知っている相手だった。
克人の瞳を紅く染めているコンタクトレンズ型の葬備が、克人の動体視力を強化し、振るわれる剣の刃がゆっくりと認識できている。
だが、それに反応するだけの身体能力がない克人にはそれを眺める以外が出来ない。
これは当たる。
このままこの剣で頭をカチ割られる。
それを覚悟して、無意識に諦める。
ドゥッ!!
そんな中、耳の奥。何か空気が詰まったかのような思考の中で、確かに聞こえた破裂音。
全てをかき消すようなその音と共に、強化されたはずの動体視力でもかろうじて何かが通り過ぎたと認識するのが限界なほどの速度で、飛来したものが迫る刃を弾いてどこかに飛んでいった。
「呆けるな!!思考を止めるな!動き続けろ!!」
破裂音とその声の方を見れば、こちらに向けた銃口から少しの硝煙を残しながらマスターが克人を見つめていた。
命を失いそうになったと言う事実と、それを救われたという事実を飲み込むのに数舜を要し、再起動する。
それと共に、今度は先ほどのような無様は晒さないようにと意識を深く強く練り上げる。
「了解!!」
その言葉は自身の頭を切り替えるために吼えた言葉。
今度は失敗しないという言外の宣言。
克人はこの場で恐らく誰よりも弱く、そして覚悟がない。
基本的なスペックだけは葬備によって底上げされた事で、なんとか対等に戦えるように見えている。そう思えているだけで、実際はまだ何も出来ないチンピラと大差がない。
ならばできる事はそのスペックに任せて暴れる事だけ。
その事実をようやく思い知った克人は言われた通りに暴れることにした。
思考を止めれば、覚悟の足りない自分は人数に潰される。
呆ければ、技術の足りない自分は簡単に刺される。
動きを止めれば、自分に出来ることは何もない。
だから、動き回れ。動き続けろ。
今の自分なら、葬備を着た自分なら、ただの人には出来ない動きが出来るのだから、それこそが今できる一番の強みなのだから。
「おお、うおおおおおおおおお!!!!!!」
自然と漏れ出る雄たけびをそのままに、どうせ着ている葬備の光で場所がバレているのだから声を潜める意味はない。
だからこそ、自信を鼓舞する雄たけびを。
克人の葬備が紅いラインを一際輝かせて、克人の意思に従う様にその身体能力を強化していく。
走る、走り回る克人は今、少しずつではあるが人間には到達できない速度になりつつあった。
マスターはそんな克人を見て、口元に笑みを浮かべる。
「いいな、なるほど。お嬢様の慧眼には感服する。これは確かに逸材かもしれない」
それは克人の戦闘をまともに初めて見た素直な感想だった。
葬備を用いた戦闘は、相応にセンスを求められる。
行動に対してそれを阻害するという事は無いため制御を誤るなんてことは滅多に起きない事故の類だが、イコール誰でも十全にその性能を引き出せるというわけではない。
人間、どうしたって自身のできる限界というのを何処かで認識している。
ここまでは出来るが、これ以上は無理という感覚だ。
これは一種の防衛反応と言えるだろう。
過剰な行動は自分にとって体を壊す自殺行為に他ならない。それを抑制するための感覚だ。
それは素人ほど限界を低く見積もり、玄人ほど正しい限界を認識できるようになる。
そして葬備はその限界を人間の限界のその先へ連れて行く。
つまりは玄人でも葬備ありでの限界というのを正しく認識できないと言える。
限界を誤認すればそこまでのスペックしか発揮できない。
スペックを発揮できないのであれば葬備は動きづらい装備であるというデメリットしか存在しないだろう。
だが、克人はすでに人間には出来ない速度で動き回っている。
それは最高速度という意味ではなく、急停止と急発進の制御が人間のそれを遥かに超えていた。
これが葬備を着た実践の初めて、いや葬備を着た行動の初めてだと思えば十分に天才と評して過言ではなかった。
マスターをして、葬備での戦闘には最初は手間取ったことを考えればなるほど逸材と呼ぶのも当然と言えた。
「死ねっ!!」
「断る」
克人の様子を観察し、必要ならば先ほどのように助けを入れられるように注意を払いながらも、自身に襲い掛かる敵の対処もこなしていく。
克人にはまだ出来ないレベルでの戦闘行動。
長い経験で培われた技術は、この場で遺憾なく発揮されている。
剣での攻撃を躱し、握った銃の底で剣の側面を叩くことで逸らし、自身の体を敵の方へ滑り込ませて近づくことで入れ替わる様に立ち位置を変える。
そして振りむかずに後ろへ二発発砲。
銃弾は敵の両足を破壊し、そのまま地面を叩く。
脚を壊されて倒れる男の影から飛び出た別の男が鉄パイプを振りかぶる。
あえて距離を詰めて、振り下ろされる前にその手を銃を握ってない方の手で掴み引き寄せる。
体が密着するほどの至近距離になり、握った銃口を男の顎に押し当てる。
「まっ!!」
何かを言う前に発砲して、黙らせる。
顎から上へ突き抜けた事で致命的な部分を打ち抜かれた男はそのまま力なく倒れて、マスターに寄りかかる形になる。
それを無造作に地面に捨てて、一息付こうとする。
「ちっ!」
しかし、それを許すほど甘い相手でもない。
何より銃をもった相手の対処をよくわかっている。
今度は四人がマスターを囲う様に襲い掛かってきた。
その意図はマスターにもよくわかっていた。
すなわち四方向へ同時発砲は出来ない。出来たとして、最低でも四発使わせられる。
銃使いの致命的な弱点は、弾丸が尽きてしまえば、リロードという大きい隙を作れるということ。
マフィアたちは知らない事だが、マスターの持つ銃はリボルバー式で装弾数は9発、場合によってはさらにもう一発あるが、基本は9発だ。
それが二挺ある。
乱戦の上、近距離戦闘を余儀なくされる状況のため今は片手を開けているが、やろうと思えば銃を入れ替えてまだまだ撃てはする。
だが、それも尽きれば必ずどこかでリロードは必要になるし、しなければ後は徒手しか残っていない。
マフィアたちは犠牲を承知で、その隙を作るために特攻しているのだった。
何より今マスターの握る銃は残り3発。四人をすべて倒しきることはできない。
ドゥッドゥッドゥッ!!
そこでマスターは迷う事もせずに三人に一発ずつ銃弾を放った。
それは暗闇の中だと言うのに、それを感じさせない精密さで三人の額に吸い込まれてあっさりとその命を奪い去った。
そして残った一人、後ろから迫っていた男と対峙する瞬間、撃ち尽くした銃を上空に投げて瞬間的に徒手となり男に組み付く。
振り下ろされる鉄パイプを躱しざまに顔を二回殴り、距離を話すために腹を蹴って吹き飛ばす。
落ちてきた銃をキャッチし、流れるように排莢する。
懐から銃弾を取り出し一息に二発装填する。
その隙を逃さないようにさらにマフィアたちが殺到する。
剣で襲ってくる男、また銃を放り投げて剣を持つ手を掴んでそのまま投げ飛ばす。
落ちてきた銃を右手でキャッチして、また二発装填。
また背後から襲われる。即座にその場でしゃがみ足を払う事で転ばせる。その行動の間にさらに二発装填。
今度は正面から振り下ろされた鉄パイプ。開いている左手で受け止める。
マスターもまた克人と同じ紅い光を放つジャケットを着ている。
多少の打撃ならば無効化することが出来るほどの葬備。
問題なく受け止められる。
そして、銃を握る右手で器用に懐から銃弾を取り出して片手で装填する。
これで9発。完全リロードが完了した。
「残念だが、この程度ではな」
左手で受け止めた鉄パイプをそのまま掴み、逃げられないようにしたうえで発砲。
撃たれた男が崩れるのを傍目に、先ほど足を払って転んでいた男にも発砲し命を奪う。
「舐めてくれるなよ」
克人がスペックを持って経験の差を埋めていたように、それだけスペックというのは戦闘に置いて重要な要素だ。
ならば、そのスペックの克人と戦い追い詰めかける経験と知識のあるマフィアと、同等レベルの経験と知識のある人間が克人と同等レベルのスペックを持っていたらどうなるか。
その答えが、ここに居た。
「さぁ、次だ」
キャラクター紹介
<名> マスター
<称号>睥睨する銃口
<年齢> 42
<願い> 不明
<ステータス>
STR 85(105)
CON 70
SIZ 80
DEX 99
AGI 70(100)
POW 80
<取得技能> ・なし
<起動キー>『COde:Luna開始』
<装備>
頭・超距離通信デバイス/片耳式
胴・反発式布服/タクティカルパーカー
腕・汎用補助手袋/指ぬき
腰・汎用補助布服
脚・加速式脚部装甲
<武器>
・加速式拳銃
・加速式拳銃
<アクセサリ>
・反応強化型コンタクトレンズ
<能力>
遠視
<詳細>
喫茶店Lunaの雇われマスター。
丁寧なのか荒いのか分からない独特な口調をしている。
長い戦闘の経験を持ち、それに伴う状況判断能力もある。
ただ、割と熱くなりやすく、挑発に弱い。
エネルギーカラーは紅




