追跡2
薄暗いデパートの中。
慎重に進んでいく二つの影。
壁に背を任せ、角の先を注意深く観察して、時には柱の陰に隠れる。
「次はここだ。意識をそっちに向けすぎるなよ」
「了解」
デパートというだけあって、内部にはいくつもの店が入っている。
その中には外見ただけでは店内の様子が分からないシャッターが閉まっているような店がいくつかある。
そう言った店に追跡している人物がいたら厄介だ。
何せ外からでは分からない上に、こちら側としては余り派手に行動して追跡していることがバレることは避けたいからシャッターをぶち抜くなんてことも出来ない。
そのため、一つ一つの店をガラス越しに見て回っていた。
もちろんその間に後ろから奇襲を受けない様に警戒しながらだったが。
「しかし、いないな.........俺たちが入ったのってあいつらが入ってそんなに経ってないよな?」
「ああ、だがここが仮に奴らがいつも使っている場所ならば、どこかに抜け道でもあるのかもしれない。とにかく怪しい場所を探すぞ」
「了解」
そのまま探し続けて上の階へと移動していったが、一向に何も見つけられない。
既にデパートの半分は探している。
屋上から探しているであろう朱利が少し遅れてやって来るとしても、いずれは交わるであろう階までやってきてしまっている。
「ここまで来てもだれもいない。やはりどこかに隠し通路でもあったか?」
「でも、このデパートの周りにもビルはあるけどそっちに繋がる道ならわざわざこのデパートを経由しなくないか?」
「いや、そういう攪乱のためだったり、そういうルートを通らないと入れない道だったり、このデパートを通らないといけない理由はいくらでもあるだろう。だが...」
マスターは違和感を覚えていた。
例え、自身の言った通り何かしらの理由でこのデパートを経由する必要がある通路の可能性というのは確かにある。
巧妙に隠されていて発見できていないだけ、という可能性もまたある。
だが、妙に静かすぎる。
奴らは今から何かしらの取引に向かったはず。
マスターたちが発見したのは数人だが、取引の現場もまた少数というのは考えずらい。
取引相手が裏切ったときの事を考えてある程度の規模で行われるはずだ。
であるなら、ここまで人気がないのはどういう事だろうか。
「...............一度、一階に戻ろう」
「え?戻るのか?」
「少し気になる事がある」
「?了解」
一階の裏口のあたりまで戻る。
シャッターは閉まっており、誰かが動かしたようには見えない。
「でけぇな、荷物の搬送用の出入り口か?」
「ああ、そうだろうな」
「こっからすでに外に出たとかは?」
「いや、コレだけ大きくて古いシャッターだ。開け閉めすればそれなりに大きな音が鳴るだろう。それを朱利が聞き逃すとも思えないし、コソコソ移動していた奴らがそんなことをするとも思えない」
「なら、なんでここに来たんだ?」
「ここから外に出たと思ったからだ」
「???」
マスターの言葉は一見矛盾していた。
克人にはその言葉の意味の違いを理解できなくて混乱が思考を支配した。
「シャッターは開け閉めしていないだろう。だが、もしこのデパートから出るならここかと思ったんだ。外に近く、何より排水用の下水道もここから伸びている」
マスターはそう言いながら辺りをぐるりと回りながら歩くと、唐突に立ち止まって克人を呼ぶ。
克人がそばによるとそこにあったのは人一人が通れそうなマンホール。
「ここからなら外に出れる」
「本当にこんなところに?」
「行けば分かるだろう」
克人が嫌な顔をしているのを無視して、マスターはそのマンホールを開けて中に入る。
備え付けの梯子は使わずに飛び降りる。
「ええ......」
ビルの上を駆けたのだからこれぐらい何でもないのだろうが、狭く、汚く、暗い穴に飛び込むというのは克人にとってなかなかに勇気のいる事だった。
それを平然と真顔のまま行ったマスターに少し気持ちが引いてしまった。
『なにをしている?行くぞ!』
耳に付けたデバイスからマスターの声が聞こえる。
どうやら待ってはくれないらしい。
「ええい!!」
そしてマンホールの下。下水道へ飛び込んだ。
―――
下水道は克人の思っていたものよりも綺麗だった。
もちろん、地上に比べてしまえば不衛生で汚いのだが、人が通れる十分な道があり、流れている汚水もおそらくデパートのである程度浄化された状態のものが流れているようだ。
そのため湿気と汚物の残り香のようなものが多少ありつつも、それ以外はそこまで眉を寄せるような状況にはなっていなかった。
「明らかに人が通ることを想定されているな.........それどころか、人がいた形跡もあるな」
マスターが指さす先にはまだ乾いていない血痕があった。
それが克人たちが追っている人物のものか、それ以外に人がいたのかを知る術はないが、確かに最近人がここに居たという証明ではあった。
「血ってことは、ここで争いがあったのか?」
「どうだろうな、危険な裏の取引に手を出す奴なんだから、恨みなんかも相応に買っているだろうが.........こんな隠し通路の入口で争うような事があるとは思えないが...」
この血痕の主はそこそこの傷をおったのか、大量ではないもののある程度の間隔で一定方向に血が垂れていた。
「これを追うのか?」
「ああ、一番可能性が高いからな。朱利にも伝えておこう」
マスターが耳のデバイスを操作して、現状を完結に説明し始める。
さっき克人の耳に届いたのも同じデバイスを使っての事だった。
「......は?お前いまなんて言った?」
簡単に説明を終わらせて、追跡に以降するのかと克人が思っていたらマスターのそんな荒げた声が下水道に響いた。
それと同時にマスターがデバイスをさらに操作すると克人の耳にも朱利の声が聞こえた。
どうやらチャンネルを切り替えて克人にも聞こえるようにしてくれたらしい。
『だからね!さっきから窓の外ででっかい火柱が何度も上がってるの!』
「............どっちだ!」
『えっとね、多分北?』
「北って......」
克人はその言葉で何が起きているかは全く理解していなかったが、何かヤバそうなことが起きている事だけは感じ取った。
そして北と言えば、この下水道。血痕が垂れている方向と同じだった。
「............朱利。お前はこのまま外にでてビルの屋上から状況を観察。いけそうなら干渉してもいいが、無理だと判断したら即座に撤退。いいな?」
『りょーかい!わかったよ!』
「克人、悪いが急ぐぞ。下手をすれば証拠も何もかも燃え尽きる!」
「りょ、了解。だけど、何が起きてんだ?」
「歩く災害のようなもんだよ」




