装備支給
「お疲れ様」
あの変な客がやってきた後から、急に客足が増えて忙しくなった。
そんな大量の客を戻ってきたマスターと起きた朱利によってみるみる捌かれていき、何とかそのラッシュを乗り切ってようやく閉店の時間がやってきたころ。
いつぞやのように、パティが店に降りてきた。
「お疲れ様です。今日はどうしたんですか?」
「ええ、ようやく用意が出来たから呼びに来たの」
すぐにマスターが傍に駆け寄って、要件を聞く。
パティはそんなマスターに少し楽しそうな声音で答えていた。
それから克人をじっと見て、
「あなたの装備が容易できたのよ、皆で地下に行きましょう」
そう言ったのだ。
―――
克人にとっては入るのはこれで二度目になる地下。
それは前回となに一つ変わる事のない、普通の地下室。
明かりに照らされ、生活に困ることはなさそうなこの一室に、喫茶店Lunaのメンバーは全員が集合していた。
「はい、これ」
そして部屋に入って早々に手渡されたのは一つのスーツケースと筒型のケース。
そのどちらもが、厳重に電子的な鍵がかかっており、手動で空きそうになかった。
「あ、いいな!新しい服でしょ!いいないいな!!」
「朱利、少し黙っていろ」
「あら、そうね近いうちに朱利も装備を更新する?」
「いいの!!」
「いいのよ。マスターもそうカリカリしないで」
「......はぁ」
パティたちがなにやら盛り上がっている間、克人はそのケースを開けようと試行錯誤していたが全く開きそうになかった。
やはり完全に自動化された電子錠らしく物理的にどうこうして開くようなものではないようだった。
「えっと、これはどうすれば?」
「当然身に染みて知っているとは思うけれど、この街であんまり高価なものを持ちあるくのは推奨されないわ。盗まれるもの」
「.........?...それは、当然だな?」
「だから、こういう本当に盗まれると困る重要なものや、装備のロックっていうのは使用者の音声を登録した音声認識キーになっているのよ。声真似で再現するにも限度があるし、解除ワードを知らないとどうしようもないからね」
「......なるほど」
実際に克人はその話を以前のチンピラ生活の時も何処かで聞いた覚えがあった。
しかし、自身にはそんな持ち歩くような大切なものもなく、荷物運びだって鍵の開け方をしる必要はなかった。鍵が付いたまま運べばそれで解決だからだ。
だから、実際にその機能を持ったケースを渡されて戸惑った。
「解放キーは『Luna』、すでにあなたの声で登録されているから、それで開くはずよ」
「............」
克人は教えたとおりにやって見せなさいと促されるように、恐る恐るパティに教わったばかりの言葉を紡ぐ。
「『Luna』」
その言葉と共にカチャリと思っていたよりも軽い仕掛け音が耳に届いた。
本当に開いたのかを確かめるようにケースを開くと、本当にあっさりと開いた。
「これが......」
「そ、あなたの装備よ」
克人がそれをスーツケースから取り出す。それはただ持ってみただけでは何の変哲もないただのパーカーのように見えた。
しかし、それが普通のパーカーではない事を克人は知っている。それを見たことがある。
「せっかくだから、マスターと朱利も着替えて来なさい。武器もちゃんと持ってきてちょうだいね」
「.........承知いたしました」「はーい!」
全員が一度部屋を離れて、着替えてから戻ってくる。
マスターも朱利もこの数日で見慣れた喫茶店の制服ではなく、あの日、襲われたあの日に着ていた戦闘用の服を身に纏っていた。
そしてそれは克人も同じだった。
「あらあら、良く似合っているわね。よかったわ、急いで作らせたから不備があったらどうしようかと思っていたけれど、これなら職人にお礼を言ってもよさそうね」
「なぁ、」
「どうしたの克人?やっぱりどこか変だったかしら?」
「いや、服は問題ないんだが.........」
装備に袖を通して思ったが、やはりただの服にしか感じない。
同じ組織の装備という事で全員が似たデザインではあるが、所々に差異はあった。
全員に共通しているのは紅いラインが入ったタクティカルパーカー。
ラインが幾何学的な模様を描いており、確かに布の服なのに機械的な印象を受ける。心なしかあの襲われた日にマスターと朱利が着ていた時よりも紅いラインに輝きが無いように感じる。
そして、その紅いラインはそれ以外にも多数に誂えてあった。
下半身は同じくラインの入ったズボン。克人とマスターはロングだが、朱利はふとももを晒すほどの短いタイプのものだ。
そして、脚に履くのはこれは完全に機械と言っていいほどにゴツイ見た目をしたブーツ。
膝下までを完全に金属の塊が覆う形となっている。
そして決定的に違うのはその武器。
マスターは腰の後ろのホルスターに2丁の拳銃を装備しており、その拳銃が知識の少ない克人にとっては初めて見る、銃口と銃身が縦に二つならんでいる回転弾倉式の拳銃だった。
朱利は一見すると何も持っていないかのように見えるが、腰や太もも、さらにはパーカーの内側などいたるところにナイフをしまっている。
あの建築用に頑丈に加工されているはずの鉄パイプを簡単に両断したナイフを全身に仕込んでいるのだった。
そして、克人は―
「俺の武器はなんでコレなんだ?」
その手に握るのは鉄パイプ。
いや、それはいささか悪く言いすぎた表現だろう。
歴史においてそれは確かに武器として名を残している。シンプルゆえにどこの世界、どこの時代であっても必ず一度はその武器を経由するであろう原始の兵器。
棍棒であった。
武器の大きさで言えばこの場の誰よりも大きく威圧感を放ってしかるべきであるはずなのに、二人の専用にカスタマイズされているのだろうと、伺い知れる装備を見てしまうとなんとも型落ち感の拭えない武器ではあった。
「いくつか理由はある。まず第一にお前はまだ戦闘を知らない。戦い方を知らない奴がもっとも簡単に戦闘力をあげるならばシンプルで訓練の要らない武器を持つべきだ」
克人の疑問に答えるのはマスターだった。
マスターは反論を許さないかのような冷静な語り口で説明していく。
「それに我々はまだお前に何が合っているかを計りかねている。まぁ、まともに戦闘をしていないからそこは仕方ないと諦めてくれ。そして最後にお嬢様がそれがいいだろうと、そう言ったからだ」
「............はい?」
前二つの理由は克人にとっても、そう言われてしまえば納得するしかない内容ではあった。
今までまともに武器なんて扱ったことがない、そんな中で一番マシに使えて、使った経験のある武器なんてそれこそ棒だ。
どこでだってそれなりに探せばあって、難しい事を考える必要がない。チンピラ御用達と言ってもいい。
だから、その理由については納得出来た。
克人が引っかかったのは最後の理由。
なぜパティがそんなことを言ったのか、曲がりなりにも俺の動きを見ていた朱利やマスターがそう主張するならまだ分かる。
しかし、恐らく店で目を覚ました時が初めてのパティがなぜそんなことを言うのだろうか。
「そうね、私がそれを推したのよ。理由は............今は、秘密。でも克人にはそれが似合うと思ったのよ」
「............」
似合うと思った。今聞かされるのはそんな理由だった。
克人はそれを聞いて何も言わずに数回、棒を振るう。
端を持ち、剣のように。
中を持ち、槍のように。
そして手の返しで勢いをつけて回転させて止める。
「......なるほど」
思っていたよりもしっくりきた。
克人はそんな思いを抱いて、ちょっと見た目がしょぼいのは我慢しようと思った。
「気に入ってもらえてよかったわ。それじゃ皆、せっかく装備も整って、着替えたのだから.........いよいよお仕事に向かいましょうか」
パティのその一言で部屋の空気が変わった。
葬備/防具
名前:反発式布服
「デザイア」にて戦闘に携わる組織が基本装備として用意する防具服。
その服に掛かる衝撃に対して発生する反発力をエネルギーを供給することで最大限まで強化することで、衝撃を相殺してダメージを抑える装備。
一着作るのにかなりの費用を必要としており、大量生産ができない一点もの。
あくまでも布の反発力を強化しているため、斬撃や延焼などには弱くほとんど減衰できない。




