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デザイア・ルーツ  作者: 時ノ宮怜
叶わぬ夢、欲望が這いよる
14/14

COde:Luna開始

[中位八層:商業地区]


 既に日は落ち、通常の商店はとっくに営業を終了し灯りは消えていた。

 代わりに明るさを取り戻すのは、夜を舞台とする店たち。

 そこではこの街で数少ない、自由を謳歌することを許された人間が、その自由を再確認するためにやって来る欲望都市の中にあって、欲望というものを強く感じることが出来る場所だ。


 金はステータスだ、酒も人も薬も、あらゆる欲望がここで満たされていく。

 そんなディープな世界が広がっていた。


 克人たちはそれを高いビルの上から見下ろしていた。

 高さのせいか風が強く、吹き付けるようだ。


「なんで、こんな高いところに上ったんだ?」

「ん?高いところの方がよく見えるだろう?」


 純粋な疑問を克人が投げかけると、マスターがなぜそんな当然の事を?と首を傾げながら答える。

 高いところのほうがよく見える。

 確かにその通りなのかもしれない。

 見上げるよりは見下ろすほうが視界は広がるし、多くの物を見るのにはいいのかもしれない。

 しかし、こうも高いビルの上からでは克人には地上はかろうじて人が動いているのを認識できる程度で、その人間の区別や、何をしているかなど詳細な動作までは追えなかった。


「いないねぇ~、ほんとに取引ってあるのかなぁ?」

「お嬢様の情報だ。間違いないだろうな。それよりも朱利、お前また明るい目立つところばかりを探しているだろう。マフィア崩れの下っ端なんてこの時間の表を歩けるような奴じゃないんだから路地裏とかをよく見ろ」

「は~い」


 マスターのその言葉に克人は激しく同意したい気分だった。

 この時間の商業地区は力と金とコネが物を言う世界だ。

 例えどんなに喧嘩が強くても、上にのし上がることも出来ずにマフィアの下っ端やチンピラに甘んじている時点でこの街にはふさわしくない。


 克人はかつての自分だったらどこを通るかと考えながら道行く人の中に怪しい人物がいないかを、目を凝らして探す。


 彼らが今ここにいるのはパティによって、もたらされた情報があったからだ。


 ―――

「私の懇意にしている情報屋から教えてもらったのだけれど、ペイラファミリーの下っ端が取引を行いに商業地区(八層)にやってくるそうよ」


 大したことではないかのような驚きの軽さでパティはそう言ってのけた。


「............それを邪魔して奪えばいいのか?」

「そうね、それが望ましいけれど、取引場所が不明なのよ」

「は?」


 先ほど情報屋から情報を貰ったと言っていたのに、取引場所が分からないとは矛盾しているんじゃないかと思う。


「あくまでも情報屋がつかんだ情報は、ペイラファミリーが商業地区にやって来るという事だけ、商業地区のどこかまではわからないそうよ」

「それじゃ、手の出しようがないんじゃ............」

「だから、いったじゃない邪魔したり、問題の品を奪うのは望ましいって.........今回は調査のほうがメインね」

「調査?」


 なるほど、言っていた内容をよくよく嚙み砕いて思い返せば、確かに奪ってくるって話は克人が勝手に言っていただけであった。

 だからこそ、それは出来たらいいという物であり、今回の主目的は別にあるのだと言う。


「つまり、商業地区を調べて取引場所、ないしはペイラファミリーの本拠地かなにかを調べるのが今回の目的。という事ですね?」

「そうよマスター、話が早くて助かるわ。今回動くのは下っ端だけという話だから、そんなに派手に動き回ったりしないと思うけれど、むしろそう言う動きをする人間は分かりやすい物だから、きっと見つかると信じているわ」


 ―――


 そんなやり取りがここにやって来る前あったのだった。


 克人はそれを思い出しながらも、眼下に広がる街並みを細やかに見ていく。

 とは言っても彼の目には人間の区別なんてつかないから、本当になんとなくの印象でしか判断できていなかった。

 正直に言って見つかる気のしない作業ではあった。


「あ、」


 だが、すぐにそんな声が上がりマスターと克人の注目が街から声を上げた朱利へと集まる。


「あそこの人たち、妖しくない?」


 朱利は商業地区の外れ、夜の街の中で街灯も少なくほとんどが闇に沈んでいる方向に向かう人影を指さして言った。

 克人もそう言われて目を凝らすが、そこになにか動くものがいる程度にしか見えない。

 それが人間と言われて、初めて人間だと認識できるレベルだった。

 しかし、それを見つけた朱利は目の上に手を当てて少し遠くを見る程度の動作であっさりと見つけてしまった。


「なるほど、出かした。アレだな」

「そんな、決めつけていいのか?」

「決めつけ?そんなわけないだろう、あの三人の服に見慣れない同じエンブレムが付いていた。あれがペイラファミリーのエンブレムかどうかは分からんが、少なくとも同じ組織に所属するような集団だろう。なら調べる価値がある」

「............エンブレム?」


 マスターに至ってはなにを言っているか分からない。

 服に付いているエンブレムだって?

 かろうじて人間かどうかが分かる距離の暗闇に潜む人数を視認して、その服に付いているエンブレムが判別できる?


 到底人間とは思えない業に、改めて自分との差を感じてしまう克人。


「何を呆けている、行くぞ。葬備の電源を入るぞ」


 あまりの出来事に呆然としていた克人は、マスターのその指示で慌ててその身を正して、先ほど教えてもらった装備―葬備の力を解放するための起動ワードを言葉にする。


「「「『COde:Luna(コード:ルナ)開始』」」」


 三人の声が重なってその言葉を言った瞬間。

 着ていたただの服のような葬備に変化が訪れる。

 服にあしらわれた紅いラインに光が灯る。

 それと同時に、まるで自分の動きを外側から邪魔しない様に押し出してくれるかのようなアシストが起動する。

 ゴツゴツとした機械の見た目をしたブーツも紅いライトを点灯させて、妖しい軌跡を夜空に残す。


 そして、目に装着したコンタクトレンズ型のディスプレイが起動し、目が紅く光る。


 克人は自身の見た目を見ることはできないが、マスターと朱利に訪れたその変化を見て、自分もまた同じ状態になったのだろうと認識した。


「最初は慣らし運転がてら、追跡ミッションだ。遅れるなよ」

「了解」

「は~い」


 初めてのちゃんと組織としての裏の任務。

 初めての葬備を装着した状態での行動。

 緊張の残る体。


 今までは失敗とは自身の収入が無くなる事であり、自身の命が無くなる事だった。

 それは慣れた。慣れなければ生きていけなかったから。

 だが、今は自分の隣にいる仲間にそれが降りかかる。


 克人は絶対に失敗できないというプレッシャーを感じながらも、不謹慎に少しだけ高揚していた。

 まともな葬備というのはそれだけ、自信をくれるものだ。

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