カワサキへの帰還途中で
ゲンタロウたちが野営の準備をしている中、ショウはミサキに負傷者の輸送についての相談をしていた。
「んー、足を怪我した人が二人ですかー。確かに、今の状態では簡易キャリアーで運ぶのは無理ですねー」
簡易キャリアーの荷台には、ミサキたちが見つけてきた120ミリ無反動砲が鎮座していた。
この無反動砲はキャリアーの荷台に強引に固定され、射撃の制御が可能となるように電源などがキャリアーとちょっと強引に接続されている。
「簡易キャリアーに外付けの荷台もどきを強引にくくりつけて、そちらに無反動砲を移動させれば、荷台で怪我人を運べますかねー? そうしちゃうと、当然ながら無反動砲は撃てませんけどねー」
「そこは仕方ないだろうな。その方向で頼めるか?」
「はーい、わっかりましたー」
「そうすると、荷台もどきを造るための資材が問題となりますね」
「資材はその辺からかき集めるしかないだろうな」
「資材に関しては、ゲンタロウさんにも相談してみよう」
ショウが指示を出せば、イチカたち三人は行動の方針を相談し、すぐさま動き出した。
◆◆◆
「おう、お姉ちゃんたち! その辺の廃ビルの中から、使えそうなモン探してきたぜぇ」
「さすがに、この辺で資源になりそうなモンは粗方発掘し尽くされていたからよー。大したモンは見つからなかったんだわ。すまねぇな」
手すきの発掘者たちがそれぞれ、外付け荷台に使えそうな資材を集めてくる。
とはいえ、誰かが言っていたように、この辺りでは使えそうな資材は既に発掘し尽くされているため、彼らが持ち寄ったのは、放置された自動車のフレーム──それ以外の外装やパーツは既に持ち去れている──を強引に切り出した物や、どこかのビルの一室で使われていたと思しき、半ば割れたパーテーションぐらいだ。
それでも中層部となれば、遺跡の外縁部とは違って多少は資材と呼べる物が残されているのが救いだろう。
ミサキはそれらを携帯用バーナーで強引に溶接したり、何とか補強に使えそうな小さな鉄片などを無理矢理継ぎ足して開孔し、ボルトや折れた鉄筋の一部を差し込んだりしつつ、最後に車両の応急処置用補強テープを用いて何とか形にしていく。
「いやぁ、ミサキちゃんは体はちっこいのに手際が凄ぇいいよな。まるで熟練の技術者みたいなだな」
「フタバのお姉ちゃんは、女にしては力があるよなぁ。ぶっちゃけ、俺よりも力強くね?」
「イチカさんは何のデバイスもなしに、どうしてそんなに速く正確に強度計算ができンだ? まるで小型のコンピューターが頭の中に入っているみたいだぜ」
他の発掘者たちは、彼女らを手伝いながらその人間離れした作業に感心するばかり。
そうして、集めたガラクタと格闘しつつ、何とか日が暮れる前に外付け荷台の設置が完了した。
「何とか外付けの荷台を簡易キャリアーに括り付けましたが、無理な走行はできませんよー。そんなことをすれば、キャリアーごとひっくり返っちゃいます」
「おう、了解だぁ。後の問題は……儂らの車両が置いてある場所まで、あのキャリアーが走り抜けることができるかどうかだなぁ」
ゲンタロウたち一行が各車両を駐めた場所から、この旧LHエレクトロニクスビルの付近までは徒歩で移動してきた。
理由は普通の車両では通行できないから。そのため、足回りが脆弱で整地を走ることを前提としている簡易キャリアーで、荒れに荒れた場所を通行することは無理だろう。
「んー、そうですねー……ゆっくり進めば、何とか行けるかも? もう、どうしても無理だったら、その時はその時で考えましょー」
ミサキの人間離れした操縦技術であれば、何とかなるかもしれない。とはいえ、障害物などで物理的に走り抜けることができない場所もあるだろう。その時は、障害物の方を何とか撤去するなど臨機応変に対応するしかあるまい。
往路で見た路面の様子を考えれば、これだけの人数がいれば何とか対応できそうだ。
「よっしゃ! 明日、夜明けと共に行動開始だ! 見張りを立てながら今日は順番に休むぞ! ショウ、ケン、コウジ、歩哨の順番決めすっから、ちょっくら集まってくれや」
ゲンタロウの指示の下、各チームで歩哨の順番を決めていく。普段、ショウたちのチーム単独であれば、睡眠の必要のない《ジョカ》たちに全て任せるところだが今回はそういう訳にもいかない。
そして、ショウ、ゲンタロウ、コウジ、ケンの各チームの順番で歩哨に立つことになり、発掘者たちはそれぞれ休息に入るのだった。
◆◆◆
夜間、何度か【インビジリアン】の襲撃はあったものの、特に怪我人を出すこともなく切り抜けた一行。
襲ってきた【インビジリアン】が〈ゴブリン〉や〈ウルフ〉など数こそ多いが左程強くはなかったこと、迎撃側である発掘者たちがベテラン揃いであったこともあり、さしたる脅威ではなかったようだ。
中には〈オーク〉なども混じっていたようだが、一体か二体ほどだったので、こちらも脅威とはなりえなかった。
そして夜が明け、簡単な朝食を済ませた一行は帰路へ着く。
「じゃあ、ゆっくりと走行しますけど、何かあれば言ってくださいねー」
「おーう。面倒かけるが頼むな、ミサキちゃん」
「少しぐれぇ揺れたって文句は言わねえよ」
簡易キャリアーの荷台に乗せられた二人の怪我人が、軽い調子でミサキの言葉に答えた。
「おーし、じゃま、出発すんぞー。ミサキの嬢ちゃんは焦らなくてもいいから、安全運転で頼まぁ」
往路とは違い、特に道案内も必要ないので先頭はコウジのチームが請け負った。彼らは斥候も兼ねるため、一行よりやや先を進むことになる。
その次にゲンタロウのチーム、更にその次に怪我人を乗せた簡易キャリアーを運転するミサキ──怪我人を乗せていることもあり、他の発掘者たちと速度を合わせながら──を囲むようにしてショウのチームが展開、その後ろで殿を務めるのがケンのチームだ。
簡易キャリアーの荷台に乗った怪我人以外にも負傷者はいる。そのため、一行はゆっくりとした歩みで車両を駐めた場所を目指す。
「《ベヒィモス》まで辿り着けば、後は楽だな」
「そうですね。他のチームの車両もありますし、怪我人を運ぶのも問題ないでしょう」
「簡易キャリアーの外付け荷台に積んだ無反動砲とキャリアー本体も、ゲンタロウたちの大型トレーラーなら積み込めるだろう。後で頼んでみよう」
多くの物資や弾薬を積み込めるように設計されている《ベヒィモス》のカーゴスペースは結構広いが、それでも無反動砲ユニットと簡易キャリアーをそのまま積めるほどはない。
なお、カーゴスペースは乗り込む人員が多い場合、折り畳み式の補助座席を引き出して人員スペースとしても利用できる。
「揺れの方は大丈夫ですかー? できる限り揺れないように運転していますけどー?」
簡易キャリアーを操縦しつつ、ミサキが荷台に乗せられた怪我人たちに問う。
「おう、思ったより揺れが少なくて快適なぐらいだ」
「ミサキちゃん、どこでこんな操縦技術を覚えたんだい? そこらの発掘者よりも断然操縦上手いよ」
「ありがとうございますー」
怪我人たちの答えにミサキが笑顔を浮かべれば、釣られるように彼らも笑みを零す。
こうして、何度か【インビジリアン】が迫ってきたことはあったものの、ベテラン揃いの発掘者たちは無事に車両を駐めてある場所まで戻ることができたのだった。
◆◆◆
車両に施してあった盗難防止用のカモフラージュを外したり、防犯用の罠を解除したりした後、一行はカワサキ・シェルターへの帰路へとついた。
怪我人はそれぞれのチームが有する車両に乗せ、無反動砲と簡易キャリアーをゲンタロウたちの大型トレーラーに積ませてもらう。
「ところで、あの無反動砲を持ち帰ったとして……この《ベヒィモス》で運用できるのか?」
ミサキが操縦する《ベヒィモス》の中、車長席に座るショウはミサキに尋ねた。
「もちろん、運用可能ですよー。本来、この《ベヒィモス》の主兵装はユニット構造になっていて、作戦目的に合わせて簡単に換装することが可能なんですー」
「だが、それはあの地下格納庫のように、整った設備があってこそって話じゃなかったか? あの地下倉庫と同じ設備を整えるには、個人じゃかなり高額になるって言っていただろう?」
《ベヒィモス》はユニット換装式兵装システムを採用している。これは作戦目的や討伐目標である敵の特性などに合わせて、最も適した兵装に手軽に換装できるシステムだ。
だが、その換装システムも整った専用設備あってこそ。そして、その専用設備を整えるには、個人では厳しい出費となるだろう。
「それはあくまでも『素早く』、『手軽に』、そして『確実に』換装するためにはって話ですねー。例えば、ウイリアム様のお家のガレージの天井に、換装作業用のクレーンなどを設置すれば換装作業は可能ですー。当然、専用設備を用いた場合よりも手間も時間もかかりますけどー」
「なるほど。となると、帰ったら一度オヤジと『スルガ屋』のコウジロウさんに相談かな?」
現在に搭載されている12.7ミリ連装機関砲と、今回手に入れた120ミリ無反動砲。この二つの兵装を目的に合わせて使い分けることができれば、ショウたちのチーム戦力は一段と高まるだろう。
◆◆◆
そんなカワサキへの帰路。
途中で何度か中・大型【インビジリアン】の襲撃を受けた。数台の車両が連なって移動するため、どうしても連中の気を引いてしまうのだろう。
だが、各車両に搭載されている兵器を用いれば、中・大型相手でも苦戦することはない。
今回非常に苦戦した〈オロチ〉も、発掘者たちの車両に搭載されている強力は火器を用いれば、もっと簡単に倒せていたに違いない。
「いやぁ、やっぱ手持ちと車載じゃ火力が違ぇよなぁ」
大型トレーラーの助手席に座るゲンタロウが、車載兵器の斉射を浴びて粉砕されていく中型【インビジリアン】の群れを眺めながら、呑気な言葉を零す。
「そりゃあそうだろ? 手持ちの火器じゃどうしたって威力が限られっからな」
彼の隣でハンドルを握るチームメンバー──シンイチという名の中年発掘者──が、ゲンタロウの言葉に応じた。
「まぁなぁ。遺跡のもうちょい奥まで車両で入り込めると、発掘も楽になるんだがなぁ」
「そいつぁ、発掘者なら誰もがそう思っていることだろ? 今のところ、遺跡の比較的奥の方まで入れるのは、ショウのトコの装甲車ぐらいだしな」
「それな。ショウたちがあの装甲車を見つけた場所、儂らも探してみるか?」
「二台目の装甲車があるかもってか? まあ、今回の件で装甲車があったって場所の目ぼしはついたが……」
〈オロチ〉との戦闘中、フタバとミサキが一時的に戦線から離脱し、短時間で例の無反動砲を見つけてきたことを思い返しながらシンイチが零す。
一時離脱から復帰までの時間を考えると、ショウたちが装甲車を見つけた場所は戦場だった場所からそう遠くはない。
あの戦場付近を念入りに探れば、装甲車の隠し場所を見つけ出す確率は高いだろう。
「けど、『二匹目のドジョウ』が本当にいると思うか?」
シンイチの問いに、ゲンタロウは真剣な顔で暫く考えた後、頭を横に振った。
「いや、もう『ドジョウ』はいねぇだろ。もし、『ドジョウ』が残されていたのなら、あの時フタバの嬢ちゃんたちは簡易キャリアーじゃなく、そっちを使ったはずだ」
ゲンタロウの言葉に、シンイチもすぐに納得する。
「ゲンタロウの言う通りか。お? コウジたちから連絡だ」
無線機に、斥候を兼ねて一行の先頭を走るコウジたちの車両から連絡が届く。
「どうしたぃ、コウジ?」
『ゲンタロウか? ここからそう遠くない所でなにやらドンパチやっている奴がいるらしい。そいつから救助依頼が入った』
「詳細は?」
『オクタマ・シェルターに所属するトレーラーが、【インビジリアン】の群れに襲われているようだ。どうする?』
「決まってらぁ。救助に行くぞ! シンイチ、他のチームにも伝えろ!」
「りょーかい、っと」
ゲンタロウの決定の下、発掘者たちは帰路を逸れて襲撃を受けているトレーラーの救助に向かうことになったのである。




