ユニット換装システム
「様子はどうだ?」
「隔壁は問題なく開けられそうですねー」
ゲンタロウたちから離れたフタバとミサキは、《ベヒィモス》が隠されていた地下格納庫へと続く隔壁の前まで来ていた。
周囲の風景と巧みに紛れるように偽装された隔壁は、その存在を知らなければまず気づかれることはないだろう。
イチカのように各種センサーを常に作動させていれば、隔壁の存在に気づくこともあるかもしれない。だが、そこまでする者はまず存在しない。
事実、【パンデミック】以降、この隔壁に気づいた探索者は皆無だ。
偽装された隔壁の一部、目立たない箇所に小さなパネルがある。もちろんこのパネルも偽装されているが、その存在を知るフタバたちは容易くそれを見つけた。
そのパネルにミサキが触れると、パネルが微かに輝く。
ミサキの指先からパネルへと隔壁の開閉コードが流れ込み、隔壁がゆっくりと開いていく。
「ふー。開閉システムが無事でしたねー」
「あの大蛇が地下で暴れたせいで、システムに異常が起きていたら面倒だったからな」
「その時は、フタバ姉様が力づくで隔壁を開けるしかありませんでしたねー」
フタバの言う大蛇──〈オロチ〉が旧LHエレクトロニクスビルの地下で暴れたことで、地下は壊滅的なことになっているだろう。おそらく、通常のルートでは地下に潜ることは極めて難しいに違いない。
そこで、フタバとミサキは以前が出口として使ったルートからの侵入を選択した。
《ベヒィモス》が隠されていた格納庫であれば、〈オロチ〉が暴れた影響をそれほど受けていないと推測したからだ。
結果、その推測は正しく、外側から隔壁を開くことに成功。外と地下格納庫へと続く隠し通路が露わになる。
「よし、行くぞ」
「わっかりましたー。でも、アレが問題なく稼働しますかねー?」
「それは直接確かめるしかないだろうな」
互いに言葉を交わした二人は、格納庫へと続く通路へと足を踏み入れた。
◇◇◇
ずずん、という重々しい音がヨコハマ遺跡の一角に響き渡る。
ちまちまと自分に攻撃してくる小さな敵の群れに対し、〈オロチ〉は巨大な口を開けながら突っ込む。
「散開!」
そんな巨大な【インビジリアン】に対し、探索者たちはリーダーであるゲンタロウの指示の下、素早く手近な遮蔽へと身を隠して〈オロチ〉の突進をやり過ごす。
「チャンスだ! 蛇野郎のケツに鉛玉を食らわせてやれ!」
突進を躱して背後を取った形になった探索者たちは、好機を逃すまいと一気呵成に〈オロチ〉に銃弾を浴びせる。
「ちっ! 5.56ミリどころか7.62ミリでも通用しねえのか!」
「おい、もっと火力のある銃器を持っている奴はいねえかっ!? グレネードでも手榴弾でもいいっ!!」
「グレネードも手榴弾も全部使っちまったよっ!! くそっ!! 誰か.44マグナムとか持ってねえのかっ!?」
「駄目だっ!! .44マグナムでも、外皮を貫く程度で痛打にはなってねえっ!!」
大型のリボルバーを構えた発掘者が悲痛な叫びを上げる。
〈オロチ〉の外皮は相当強靭なようで、拳銃弾やライフル弾ではダメージを与えられない。
「着弾をもっと集中させろっ!! 同じ個所を集中的に攻撃するんだっ!!」
その言葉と同時に、ゲンタロウは構えた大型拳銃の引き金を引いた。
銃口から飛び出した巨大な弾丸は、〈オロチ〉の首辺りに着弾。同時にべちゃっと音を立てて蛍光ピンクの塗料を青白い巨体に付着させた。
「ワシが付けた目印に攻撃を集中させろっ!! どんなに硬ぇ装甲だろうと、集中打を浴びせれば何とかならぁっ!!」
ゲンタロウが撃ったのはある種のペイント弾だった。塗料に含まれた特殊な磁気を、専用の受信機を用いてペイントされた標的を追跡するための特殊弾丸である。
塗料の磁気がそれほど強くはないため、一定の距離でしか信号を受信できないこと、【ブルーミスト】の濃度によって受信が難しくなるなど欠点も多い装備だが、単に目印として使うなら問題はない。
ベテラン揃いの発掘者たちは、すぐにゲンタロウの意図通りに銃弾を集中させる。
無数と言ってもいいほどの弾丸が、〈オロチ〉の体にペイントされた部分やその付近に叩き込まれていく。ベテラン揃いの発掘者たちの射撃の腕は、やはり確かだった。
たとえどれほど強靭な装甲であろうとも、同じ個所を集中して叩かれればいつかは耐久を越える。
実際、集中的に弾丸を浴びせられた〈オロチ〉の外皮が、圧に耐え切れずに血肉と一緒に吹き飛んだ。
「っおっしゃっ!! このまま同じ個所を攻撃し続けて、被害を広げるぞっ!!」
ゲンタロウの声に、発掘者たちの士気が上がった。
◇◇◇
「フタバ姉様、ありました!」
「お、見つけたか!」
《ベヒィモス》が隠されていた格納庫、その更に奥に存在する場所。
そこには《ベヒィモス》に搭載するための各種オプションが収納されていた。
索敵能力を更に上げるセンサーユニットなどの支援装備、20ミリバルカン砲などのより強力な武装など。
現在の《ベヒィモス》には、車体上部に12.7ミリの連装機関砲が搭載されているが、この上部兵装はユニット構造になっており、目的や作戦に合わせて他の兵装に容易に換装することが可能となっている。
とはいえ、オプションユニットの換装には専用の設備が必要であり、この隠された格納庫以外での換装は難しいだろう。
もちろん、カワサキ・シェルターで専用の設備を造ることは可能だが、個人の財力ではちょっと難しいに違いない。
「でも、肝心の《ベヒィモス》がありませんけど、そこはどうしますー? さすがに《ベヒィモス》を取りに行く時間はありませんしー」
ここにあるオプション兵装は、全て《ベヒィモス》に搭載して使用する前提の設計になっている。そのため、装備の大きさや重量などから個人で扱うことは非常に難しい。
「簡易キャリアーでゲンタロウたちの所まで運び、後は私とおまえで運用するしかあるまい」
「やっぱりそうなりますよねー」
フタバの言う簡易キャリアーとはフォークリフトのような物であり、あくまでに荷物の運搬に用いられ、戦闘用には設計されていない。
走行速度も自転車並み、兵装や装甲は一切なし。ただ、物を運ぶためだけの車両である。
「それで、どのオプションを運びます?」
「そうだな……やはり、これしかないだろう」
と、フタバは換装オプションのひとつへと目を向けた。
◆◆◆
廃墟と化したとあるビルの四階部分から、スナイパーライフルを構えて〈オロチ〉を見下ろすショウ。
その傍らには、ショウのサポートと護衛を務めるイチカの姿もある。
「ゲンタロウ様たちは、攻撃を集中させて〈オロチ〉の装甲を抜いたようですね」
「そのようだな。だが…………」
ショウたちからも、ゲンタロウらが攻撃点を集中させて〈オロチ〉に痛打を浴びせたことを確認できた。
しかし、〈オロチ〉は手近な廃ビルに噛みつくと、その強靭な顎でビルの残骸を食いちぎり、そのまま嚥下する。
すると、先ほど被弾した箇所が見る見るうちに塞がっていく。
「ゲンタロウさんたちのやり方では、致命打にならないな」
「確かに。ゲンタロウ様たちの弾薬も無限ではありませんし」
「最初のRPGの連続攻撃で、〈オロチ〉の【核】付近の外皮装甲が破壊できていれば良かったんだがな」
「あの時点では【核】の場所が不明でしたから、致し方ないかと」
戦況を眺めながら、言葉を交わすショウとイチカ。
確かに、ゲンタロウたちの戦術でも〈オロチ〉に痛打を与えることは可能だ。だが、〈オロチ〉には恐るべき復元能力がある。受けたダメージ以上に回復してしまえば、いずれジリ貧になるのはゲンタロウたちだ。イチカが言うように、予備弾薬も無限ではないのだから。
「とはいえ、現状ではあの方法ぐらいしか効果的なものはないが……」
「お待ちください、ショウ様。フタバたちから連絡が入りました。目的の物を見つけ、ゲンタロウ様たちの所へ急行するそうです」
「そうか。なら、攻撃点をフタバたちに指示してくれ。狙うは〈オロチ〉の胴体のほぼ中央──【核】が隠されている箇所だ」
「承知いたしました。わたくしの視覚データをショウ様のヘルメットのバイザーに転送……攻撃点はこの位置でよろしいでしょうか?」
ショウが装備する防弾防疫ヘルメットのバイザーに、イチカの視界が共有され〈オロチ〉の胴体部分にマーカーが表示される。
「いや、もう少し尻尾方向へ……ああ、そこだ。フタバにその付近を攻撃するように指示を出してくれ」
◇◇◇
「駄目だっ!! 与えるダメージより回復される方が速えぇっ!!」
誰かがそんな悲痛な声を上げた。
もちろん、そんなことはゲンタロウも分かっている。だが、現状では他に打つ手がない。
──こりゃ、撤退も考えねえといけねぇな。
ゲンタロウが頭の片隅でそんなことを考えた時。
通信機から少しばかり場違いな声が響いた。
『おっ待たせしましたー! 目的物を発見し、ただ今現地に急行していまーす!』
「おお、ミサキの嬢ちゃん! 待ってたぜぃ!」
『イチカ姉様から、状況は聞いていますー。前線に到着し次第、すぐに〈オロチ〉に仕掛けますねー』
「了解だ! 儂らにできることはあるか?」
『前線に到着後、機器のセッティングに少々時間が必要です。その間のフォローをお願いしまーす』
「おっしゃ! 任せろぃ!」
ゲンタロウはにやりと笑みを浮かべると、すぐに探索者たちへと指示を飛ばす。
「てめぇら、聞こえたかっ!? すぐに頼もしいブツを持ってショウんトコのお姉ちゃんたちが来てくれるっ!! もうちょい踏ん張れやっ!!」
ゲンタロウの檄に、探索者たちが応と答える。
「それで、ゲンタロウ? お姉ちゃんたちは何を見つけてきたんだ?」
その質問に、ミサキたちが見つけた物について何も聞いていなかったことをゲンタロウも思い出す。
「がはははは! そういやそうだな! おい、ミサキの嬢ちゃん! 嬢ちゃんは何を見つけたんだ?」
『ふっふっふー! ボクたちが見つけた物! それは──』
『120ミリ口径の無反動砲だ』
『ちょ、ちょっと、フタバ姉様ーっ!? それ、ボクが言いたかった台詞ーっ!!』
現在、少々仕事の方が立て込んでおりまして、次回の更新は9月28日(月)の予定です。
引き続き、お付き合いいただけると幸いです。




