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 閑話─配信系発掘者 その6

「うわああああああああああああああああっ!!」

 俺の口から情けない悲鳴が飛び出しては、背後に流れていく。

 だが、そんなことは気にしていられない。今まさに、ライトくん人生最大のピンチなのだから!

 一体、何が人生最大のピンチなのかっていうと、俺は今、〈オーガ〉に追いかけられているからだ。

 識別名(コードネーム)〈オーガ〉。

 ゴリラなどの大型類人猿が【インビジブル】に感染変異したと考えられている〈オーク〉より更に大型で、感染前の生物が何だったのかも不明な二足歩行タイプの【インビジリアン】である。

 その身長は優に2メートルを超えて2.5メートルにも及び、個体によっては3メートル近くにまでなるという。

 マッチョで見るからにパワフリャな体格は、俺の首なんて軽ーく引っこ抜けるぐらいの筋力を持っていそう。いや、確実に持っている。

 実際、〈オーガ〉って【インビジリアン】は相当強力な存在なのだ。駆け出しの発掘者(サルベイジャー)が、相手にしていい敵じゃない。

 そんな化け物にどうして俺が追われているのかというと……うん、実に情けない理由があったりする。


◇◇◇


 今日、俺はヨコハマ遺跡に来ていた。

 もちろん、理由は資源の発掘とその様子を生配信するため。

 後は、前回の配信で購入したサブマシンガン(SMG)の調子を確かめたいってのもある。

 SMGの試射は済ませてあるし、自分なりに調整もした。それでも、実戦で使ってみないと分からないことってもあるからね。

 そのため、ヨコハマ遺跡に到着した俺は、メインのオートショットガンではなく、サブのSMGを構えて遺跡に足を踏み入れた。

 当然、外周部に目ぼしい発掘品なんてない。それでも何か見落としがないか、ゆっくりと探索しながら奥へと進む。

 途中、二体の〈ゴブリン〉と出くわしたが、SMGを使って難なく撃退。うん、少しは俺も強くなってきたかな?

 SMGの調子もいい。さすがは、発掘者たちの間でも評価の高い「天使の館」製だ。

 一撃必殺の高火力な大口径銃器もいいけど、こういう取り回しのいい銃器もいいよね。どんな銃にも利点と欠点はあるってことだ。

 回転数が高くて装弾数も多いSMGは、簡易的なエリアアタックウェポンとしても使える。もちろん、考えなしにばかすか撃つと弾丸代がバカにならなくなるが、それでも拳銃弾だから割安だし。

 実際、遮蔽に隠れながらある程度まで〈ゴブリン〉たちに近づき、二体を巻き込むようにしてSMGを撃ち放てば、うまい具合に両方に着弾させることができた。

 よしよし、何とか〈ゴブリン〉たちを倒せたな! これで〈ゴブリン〉たちが何か持っていればなお嬉しいけど、そうそううまくはいかないってもので。

 〈ゴブリン〉に限らず、【インビジリアン】ってのは所持品を持たないのが普通だし。


『お、ライちゃん、うまく倒せたやん』

『ライちゃん、何か強くなってね?』

『うん、確実に強くなっているよな』

『とはいえ、まだまだ発掘者としてはヒヨコなんだから、増長したり過信したりすんなよ?』

『今日、メイドさんや黒子さんは? どうせ、どっかで出てくるんだろ? だったら出し惜しみせずにはよ出せや』


 配信を見てくれている視聴者たちから、コメントが寄せられる。ここ最近、ちょっとは俺の名前も配信者として知られるようになって、今も30人ほどがリアルタイムで視聴してくれている。

 まあ、相変わらず黒子さんやメイドさんが目当ての連中もいるんだけどな。

「えー、前々から言っているように、例のメイドさんや黒子さんは、あの時たまたま遭遇しただけの人であって、俺の知り合いではありません。よって、彼女たちがこの配信に登場する予定もありません」

 もしかしたら、またどこかで遭遇するかもしれないけどね。でも、そんな偶然そうはないだろう。

 俺のコメント返しに、視聴者たちから盛大なブーイングが飛んでくる。だけど、仕方ないものは仕方ないんだってば!

 正直言えば、俺の方があの黒子さんやメイドさんを紹介して欲しいぐらいなんだからさ! そして、一緒にチームを組みたい! 是非!

 内心でそんなことを呟きながら、俺は慎重にヨコハマ遺跡の中を探索していく。

 そろそろ浅層エリアと呼ばれる外周部から、中層エリアに差し掛かるかな。聞いた話によると、ここらから敵がワンランク強くなるそうだが……。俺が逆立ちしても勝てないような強敵とは出遭いませんように。


『おい、ライちゃん、新人にしちゃ遺跡の深い所まで来てない? こんなトコまで来て大丈夫?』

『自分を過信するなって言ったよな? おまえの実力じゃ外周部以外は危険だから、早よ戻れ。死んでも知らねえぞ』

『リアルタイムで死亡シーン配信とか、グロいのは止めて欲しいんだけど……』

『大丈夫、大丈夫。おまえならもっと深くまで行けるって! おまえが死んでもワイにはカンケーねーしな!』


 最後の奴みたいに、無責任に煽ってくる奴って一定数いるよな。でも、そんなことを気にしていたら配信者なんてやっていられないんだよ。

 とはいえ、確かにこの辺りは危険かも。自分の実力を過信するのは死への第一歩なのは間違いないからね。

 そう考えた俺は、引き返そうとして踵を返した。

 だが、結果を言うと、ちょっと遅かったんだ。


◇◇◇


 外周部へと戻ろうとして後ろを振り返った時、突然、周囲が翳った。

 今日の天気は晴天。とはいえ雲一つないってほどでもないから、丁度太陽が雲に隠れたのかな、と思って上を見上げた時。

 上空から何かが俺の頭上へと落下してきた。

「………………はへぇ?」

 変な声出た。

 なんせ、上から降ってきたのはでっかい人の形をした異形だったからだ。

 何も考えられず、ただただ、生存本能に従って体を動かす。具体的に言えば、大きく後ろに飛び退いたんだ。

 直前まで俺がいた場所に、その異形が着地する。異形は同時に、どこかで引っこ抜いたと思しき道路標識を、力一杯ひび割れたアスファルトに叩きつけた。

 異形が着地した重々しい音と、がぁぁぁぁぁぁんという甲高い音が周囲に響き渡る。

 獲物を逃がしたと判断した異形が、そのらんらんと輝くような両目を俺へと向けた。

「……い……【インビジリアン】…………」

 人間を遥かに上回る大柄な体格の【インビジリアン】。その姿を見た途端、俺は手に持っていたSMGを放り出して全力で走り出した。

 これも、逃げようと判断したからじゃない。ただ、生存本能に従ってその場から──超絶危険な【インビジリアン】から逃げ出しただけだ。

「うわああああああああああああああああっ!!」

 俺の口から情けない悲鳴が飛び出しては、背後に流れていく。

 その声に反応したわけでもないだろうが、巨大な【インビジリアン】──後で考えたら〈オーガ〉と呼ばれる危険な存在だと知れた──が、俺を追ってゆっくりと歩き出したのだった。


◆◆◆


 とまあ、そんな訳で現在に至る。

 確かに〈オーガ〉はヨコハマにも存在していると聞いたことがある。だが、その生息圏はもっと遺跡の奥の方で、中層エリアにいるなんて聞いたことはない。

 とはいえ、ゲームのように【インビジリアン】が棲息エリアから出て来ないなんてルールはない。連中にもある程度のテリトリーがあるようだが、時には気まぐれにそのテリトリーから離れることだってあるらしい。

 丁度、今のように。

 何の理由があって〈オーガ〉がこんな浅いエリアまで来たのかは知らないが、俺がちょっとばかりヨコハマ遺跡で足を伸ばしたのと、この〈オーガ〉が「遠征」したのが重なったようだ。

 俺ってもしかして運が相当悪い? それとも、誰かがコメントで言っていたように、気づかないうちに自分の力を過信しちゃった?

 だけど、〈オーガ〉なんて怪物にこんな場所で遭遇するなんて、普通はありえないだろ!

 警戒を怠った自分が悪いと言えばそれまでだけどさ。

 でも、ひたすら逃げるしかないってのは、ちょっと情けないな。

 もしも俺が一流の発掘者だったら。

 もしも俺がソロではなく、頼りになる仲間がいたのなら。

 〈オーガ〉を撃退することだって可能だったかもしれない。

 どっちにしろ、今の俺には無理なんだけど。

 はぁ。そう考えたら自分が情けなく思えてきたよ。


◆◆◆


 とまあ、そんな情けない思いを抱きながら、俺は必死に逃げる。

 だが、ふと背後に圧力を感じ、走りながら背中越しに振り返った。

 すると、〈オーガ〉が間近まで迫り、手にした標識を右腕一本で振りかぶっていたんだな、これが。

 ちょっ!! いつの間にこんなに詰められたのっ!? さっきまでもっと距離があったよねっ!?

 そんな俺の苦情など知ったこっちゃないとばかりに、〈オーガ〉は標識をフルスイング。

 ぶん、という空気を押し退ける重々しい音が迫り、俺は思わず前方へとヘッドスライディングを敢行する。

 頭上を標識が通過し、装着している防弾防疫ヘルメットがぐいぐいと引っ張られる。おいおい、これ、風圧だけでヘルメットが持っていかれそうになってんのっ!?

 慌てて立ち上がり、改めて〈オーガ〉と対峙。うわ、こうして近くで見るとすげぇでけぇ。

 体長は2.5メートル以上。肌の色は他の【インビジリアン】同様に青白いし、皮膚は積層構造になっている。

 二の腕や太ももなんて、余裕で俺の胴体以上太いし。生き物としての「格」が全く違うってことを嫌でも思い知らされる。

 この時になって、俺はSMGを放り出していたことにようやく気付いた。おいおい、あれ、買ったばっかりなんだけどっ!! どうして捨てちゃったかな、俺っ!?

 自分で自分に文句をいいながら、オートショットガンを構える。

 オートショットガンだろうがSMGだろうが、どっちも目の前の〈オーガ〉に痛打を与えられるとは思えないけどさ。


『おいおい、マジでこれ、ヤバぇぞ!』

『マジでライちゃん殺されるって!』

『誰か近くにいないのか? 誰でもいいから助けてやれよ!』

『こうして、馬鹿な発掘者がまた一人逝くのか』

『中層入ったばかりのエリアで〈オーガ〉に遭遇って、どんだけ運が悪いんだ……』

『ライちゃん、さらば! そして、ありがとう! 君のことは忘れない! しばらくだけどな』


 マルチデバイスにコメントが次々に流れるが、当然それを見ている余裕なんてない。

 俺をじっと見下ろす〈オーガ〉。その口元がにぃと吊り上がる。どうやら、俺を嘲笑っているらしい。

 ふざけんなよ、こんちくしょうが! どうせ死ぬにしても、最後まで足掻いてやるからな!

 俺は構えたオートショットガンを連射する。

 がん、がん、がん、がん、という銃声が、周囲の朽ちたビルに響いては消えていく。

 誰か、この銃声を聞いて助けに来てくれ! 誰でもいいから!

 恐怖で溢れ出た涙で、目の前に迫る〈オーガ〉の姿が霞んでいく。

 予想通り、ショットガン程度じゃ〈オーガ〉にダメージは入らないみたいだ。

 せめて通常の散弾だけじゃなく、少しぐらいは一粒(スラッグ)弾も用意しておけば良かったなぁ。一粒弾なら、もしかして〈オーガ〉の皮膚だって貫通できたかもしれないのに。

 そんな後悔は後に立たない。マガジン一つ分を撃ち尽くした俺の頭部へ、〈オーガ〉が手にした道路標識が勢いよく振り下ろされた。


◆◆◆


「…………何が起きた…………んだ?」

 俺は呆然と呟いた。


『え? え? 何でライちゃん生きてんの?』

『おい、〈オーガ〉、頭を撃ち抜かれてね?』

『誰かが助けてくれた?』

『でも、ライちゃんの周囲に誰もいないぞ?』

『ってことは、遠距離からのヘッドショット?』

『もしかして、M-16を使う伝説の暗殺者が……』

『ばーか! 今どきM-16なんて骨董品、どこにあるってんだよw』


 流れるコメントには目もくれず、俺は目の前で倒れている〈オーガ〉を凝視する。

 道路標識を振り下ろそうとした〈オーガ〉が、突然倒れた。俺が理解しているのはそれだけ。

 よく見れば、〈オーガ〉のこめかみに撃ち抜かれた形跡がある。

 え? え? 誰かが〈オーガ〉の頭を狙撃して助けてくれた? そゆこと?

 俺は周囲を見回すが、近くには誰もいない。もちろん、視界に入るビルの上も確かめてみたけど、やっぱり誰もいない。

 ということは、誰かが超遠距離から狙撃して、〈オーガ〉の頭を撃ち抜いた……?

 い、いや、そんなことって可能なのか?

 俺の視界に収まらないぐらい遠距離から、動く〈オーガ〉の頭だけを正確に狙撃するなんて……そんなこと、人間に可能か?

 まあ、〈オーガ〉を狙うことは狙ったけど、偶然頭にヒットした、って可能性もあるけど……。

 何となく……根拠なんて全くないけど、この狙撃をした人は狙ってヘッドショットを決めたような気がするんだよな……

「……どこの誰かは知りませんが、助けてくれてありがとうございます」

 配信中のドローンに向かって、そう告げる俺。


『超遠距離から正確にヘッドショットを決める、凄腕のスナイパー!』

『超絶スナイパーさん、爆誕?』

『超絶スナイパーwww。誰か知らないけど、ライちゃんの配信を見ていたら是非名乗り出て欲しい』

『「超絶スナイパー」、いいネーミングだなwww。俺も是非、超絶スナイパーさんには配信に出て欲しい』

『ライちゃんの配信には、何故かよく分からない人たちばかり出てくるな』

『もうこれ、絶対に仕込みだろ?』

『ライちゃん、素直に仕込みだって白状しなさい? おじさん、怒らないから』


「いや、これホント、仕込みじゃなんだって」

 安堵の息を吐きながら、誰に告げるでもなく独りごちる。

 しかし、今になって体が震えてきた。手なんて震え過ぎてショットガンが持てないぐらいだ。

 がたがたと鳴る膝が体重を支え切れず、思わずその場に座り込む俺。

 と、寄せられたコメントの一つに偶然目が留まる。


『おい、ライちゃん! 〈オーガ〉の肩の所、もっとアップで見せてくれない? 何か、青白い突起物みたいな物が埋まってないか?』


 青白い突起物? あ、ホントだ。確かに青白い小さな棘みたいな物が〈オーガ〉の体から顔を出しているな。

 何だろ、これ?

 俺はコメントに従って、ドローンを接近させて画像をアップにする。


『らい、ライちゃん! これ、もしかすっと【クリスタ】かも知れねえぞ! 早くそいつを掘り出してみろ!』

 え? 【クリスタ】?

 俺だって【クリスタ】のことは知っている。発掘者であれば、どんな新人でも知らない者はいないだろう。

 【クリスタ】が生成される工程ははっきりしない。だが、その青白い結晶体には膨大な電力が秘められている。

 【インビジリアン】が日頃から放出したり、死亡した際にも発生したりする【ブルーパウダー】。

 【クリスタ】はその【ブルーパウダー】が結晶化した物であるという説や、【インビジリアン】の体内で生成されるという説、他には【インビジリアン】の排泄物であるなんて説もあるらしい。

 どの説が正しいのかは未だに結論は出ないが、〈オーガ〉の肩からちょこっと顔を出している青白い突起物が、もしかしたらその【クリスタ】かもしれないってこと?

 【クリスタ】は、どんなに小さくても各シェルターが必ず高額で買い上げてくれる。つまり、遺跡で発掘されるお宝の中では大当たりの部類に入るのだ。

「や、やべえ、さっきとは別の意味で手が震えてきた……」

 俺は震える手を必死に抑えつつ、ナイフを使って【クリスタ】らしき物を何とか抉り出した。


『やっぱこれ、【クリスタ】っぽいな』

『でも、【クリスタ】にしちゃ小さくね?』

『【クリスタ】って卵型か涙滴型で、大体4センチぐらいの大きさだって聞いたことあるぞ』


 コメントを読み込み、改めて【クリスタ】らしき物を見てみる。

 確かに卵型をしている。だけど、大きさは2センチ程度。一般に言われている大きさの半分ぐらいだ。


『何にしろ、カワサキに戻って鑑定してもらえ』

『もしもそれが【クリスタ】なら、この大きさでもかなり高値で売れるぞ』

『ライちゃん、【クリスタ】用の保存ケース持っている? 持っていないとカワサキに戻るまでに振動で放電しきっちゃうかもよ?』


 うん、俺も発掘者の端くれである以上、小型の保存ケースを一個だけ持ち歩いている。なんせ、【クリスタ】は全発掘者が夢見る憧れのお宝だからね!

 俺は慌ててバックパックから保存ケースを取り出し、その中に【クリスタ】らしき物を収めた。

 よし、今日はもうカワサキに帰ろう! そして、この【クリスタ】らしき物を役所に提出して鑑定してもらおう!

 保存ケースをバックパックに戻し、俺はどうしても急ぎ足になるのを必死にこらえながらヨコハマ遺跡からの脱出を試みる。

 その途中で何度か【インビジリアン】に遭遇したものの、〈ゴブリン〉や〈ウルフ〉の少数の群れだったので、ショットガンで撃破することができた。

 何とか愛車まで戻り、その後は真っすぐにカワサキ・シェルターに向けて車を走らせる。

 【クリスタ】らしき物が実際に【クリスタ】で、高値で売れることを夢見ながら。


 閑話は来週にもう一回更新しますじょ。

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― 新着の感想 ―
閑話の投稿、お疲れ様です。新人冒険者のビギナーズラックという所でしょうか。彼が発掘したのは本当に【クリスタ】だったのか……。 誤字・脱字等の報告 特にありませんでした。 参考意見です。 ①その身長…
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